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No.13(前編)>>グラフィニカ

No.13(前編)>>グラフィニカ

荻窪駅前や青梅街道をモデルに、広大な街並みを制作

C:田口さんは本作以外でも、背景モデルを担当することが多いのでしょうか?

田口:キャラクターを担当することもありますが、6対4くらいの割合で背景を担当する機会が多いです。本作の場合は美術ガイド用のビルを大量に配置して、作中の街並みを表現しました。正確には覚えていないのですが、3人がかりで少なくとも100個以上のビルをつくったと思います。私がつくってきた中では、1番広い背景でした。

若手モデラー2人に2週間くらいかけてビルを量産してもらうのと併行して、私は1ヶ月くらいかけて街並みをつくっていきました。同じ頃、大島はグリッドマンとグールギラスをつくっていたので、制作途中のモデルを試しに置いてスケールを確認したりもしました。

▲美術ガイド用のビルのCGモデルの一部。様々な形状のビルが制作され、そのうちの4個はカット制作時の破壊表現などにも使えるよう、テクスチャが追加された。なお、【左】のビルはTRIGGERがオフィスを設けているビルがモデルになっている


▲【左】数多くの美術ガイド用のビルが配置された街並みの全景/【右】街並みの駅周辺。スケール確認用に、制作途中のグリッドマンとグールギラスのCGモデルも配置されている


▲街並みの近景。グールギラスの背後には前述のオフィスビルが見えており、両者のスケールを対比確認できるようになっている


▲【左】街並みの近景。先の近景とは異なるカメラで映している/【右】街並みの近景。道路寄りのカメラで映している。このカメラで見ると、ビルに加え、電線、街路樹、道路標識、信号、横断歩道、バス停、クルマなどまでモデリングされていることがわかる


▲先の街並みを基につくられた美術ガイド作成用のレイアウトモデル。これらに美術会社がディテールを描き足すことで、本編で使用される美術が制作された。「ビルのシルエットや窓の外枠はそのまま使用される場合が多かったです。美術さんが加工しやすいように、窓ガラス部分などは別素材としてレンダリングできる設定にしておきました」(田口氏)


C:かなりの物量なのに加え、美術ガイド用とはいえ、それなりにディテールがありますね。破壊用のビルはさらにディテールを追加してあるのでしょうか?

田口:正直、街並みはちょっとつくり込みすぎたなと感じています。破壊用のビルは、候補にあげた美術ガイド用のビルの中から、雨宮監督に4つを選んでいただき、テクスチャを追加しました。グラフィニカとしては、並べたときにバリエーションがあるように見せたかったので、なるべくビルの4面の印象がちがうものを選んでいただく方向性で監督に選定していただきました。

▲【左】ビルAと名付けられた、美術ガイド用のビルのCGモデル/【右】破壊用にディテールを追加したビルA。カット制作にも使えるよう、美術会社に描いてもらったテクスチャを貼るなどしてディテールアップを図っている。加工しやすいように、UVもきれいに展開してあるそうだ


▲【左】ビルBと名付けられた、美術ガイド用のビルのCGモデル/【右】破壊用にディテールを追加したビルB


▲【左】ビルCと名付けられた、美術ガイド用のビルのCGモデル/【右】破壊用にディテールを追加したビルC。グラフィニカの阿佐ヶ谷スタジオがオフィスを設けているビルがモデルになっている


▲ビルCのチェック用ターンテーブル


▲【左】ビルDと名付けられた、美術ガイド用のビルのCGモデル/【右】破壊用にディテールを追加したビルD


C:各社のオフィスビルが混ざっているのは、遊び心があって良いですね。

田口:TRIGGERさんのオフィスがある荻窪周辺をモデルにしてほしいというオーダーをいただいたので、Googleマップで荻窪駅前の3次元情報を参照しながらつくりました。ビルや道路のスケールは、実際の荻窪に合わせてあります。

C:となると、シーン内の道のモデルは青梅街道(※2)ですか。実在する街のミニチュアを壊すのも特撮のお約束ですから、それをCGで再現したというわけですね。

※2 荻窪駅前から南阿佐ヶ谷方面へと延びる道路。沿線には、TRIGGERやグラフィニカ 阿佐ヶ谷スタジオのオフィスビルがある。

田口:シーン内のビルを全部表示すると処理負荷が高くなってしまうので、カット制作の際にはアニメーターがビルを配置し直しています。そのため作中の街並みは、私がつくったものとは若干ちがう場合が多いです。

C:ビルA〜ビルDは、破壊用の仕込みもしているのでしょうか?

田口:つくった時点ではどこを壊すかわからなかったので、そこまではしていません。窓ガラスまでは割らないだろうと思っていたら、後半ではしっかり割れていたので驚きました。ビルにクルマが刺さって、ちゃんとヒビまで入っていたこともありましたね。

C:カット制作担当のアニメーターが、窓割れやヒビ割れまで表現したということでしょうか?

及川:本作では、そういうことがよくありましたね。破壊シミュレーションのツールを使う場合もありましたし、実際には壊していないけど、一見すると壊れているように見せる場合もありました。

近藤:例えば第10回はバトルシーンが多いので、ビルA〜ビルDを何度も使っています。フルパワーグリッドマンとアンチのバトルシーンで、アンチがビルCの屋上に落下するカット(第10回 12:15あたり)では、カメラアングルを工夫して、破片を盛大に散らすことでビルが壊れたように見せました。

C:確か第10回には、ナナシBがビルでフルパワーグリッドマンを殴るカット(第10回 17:56あたり)もありましたね。

田口:それはビルDを加工して使っています。担当アニメーターが勢いでやってくれましたね(笑)。

及川:ほんと、勢いです(笑)。

C:何回壊されても、無傷で再登場するビルA〜ビルDというのも、なんだか特撮っぽいですね。街並みをつくる中で、特にこだわった点は何ですか?

田口:電柱と電線を格好良く配置するのが難しかったですね。電柱は3種類くらいつくって、パーツを付けたり消したりすることでバリエーションを出しています。シルエットをどれだけ格好良くできるかにこだわっていました。

長濵:電柱と電線は何度も使いましたね。

及川:はい。カメラの手前に電線を入れると巨大感を出せるので、かなり使いました。電線を揺らすと、グリッドマンや怪獣が移動するときの重量感や振動も表現できますしね。

C:電線の揺れまでアニメーターが付けているんですね。

長濵:CGカットの場合は、電線もCGのものを揺らしています。そこまで作画で表現するのは大変ですから。

C:本作を通して、田口さんはどのような学びがあったと思いますか?

田口:CGモデルを大量につくるときは、事前の準備が本当に大事だと痛感しました。今回はちょっと失敗して、つくり込み過ぎてしまい、必要以上にシーンデータが重くなってしまいました。もう少しクオリティーラインを下げた上で、量産に入れば良かったなと思っています。


板橋紗綾香氏(モデリングディレクター)からのコメント

  • 田口とは、ほかのアニメ作品で一緒に背景モデルをつくったことがあったので、今回は背景モデリングの主軸となり、ほかの若手モデラーへの指示出しも担当してもらいました。最初に街並みのつくり方を説明すると、各スタッフの仕事をチェックしながら的確にイメージ通りの街並みに仕上げてくれたので、さらにディテールを盛り込めました。街並み以外に、アニメーターが使う背景モデルのセットアップも担当してもらいました。今後も経験を積んでいき、設定から最終的な使われ方のイメージを膨らませ、モデリングの道筋を立てられるモデラーになってほしいです。

CGだと重力や空間の制約がないので、より自由なものづくりができる

C:田口さんの学生時代の話もお聞かせください。田口さんのポートフォリオは背景モデルが中心で、大島さんと同じく、今の仕事に通じるものがありますね。武蔵野美術大学では建築デザインを専攻していたそうですが、どうしてHAL東京に進学し、CGを勉強しようと思ったのでしょうか?

▲田口氏がグラフィニカへの応募時に提出したポートフォリオの一部。「美大の受験や講義を通してデッサンを経験したことは、今の仕事に活きていると思います。デッサンをする場合には、最初に全体の光の加減を見て、次に大まかな形状を写しとり、徐々に細部を描き込んでいきます。いきなり細部をつくり込んでも良いものにならないという点では、モデリングも共通しています。何をつくるにしても、まずは全体をとらえ、細部に入っていくという姿勢は不可欠なので、デッサンを通してその訓練ができたことは良かったなと感じます」(田口氏)


田口:建築デザインは今も好きなのですが、CGだと重力や空間の制約がないので、より自由なものづくりができます。その自由さが楽しいと感じました。

C:HAL東京では、Mayaを勉強したのでしょうか?

田口:はい。MayaとAfter Effectsを中心に勉強しましたが、ほかのソフトにも触れて、可能性を広げておけば良かったなと思います。仕事の合間に新しいソフトを勉強するのは結構大変ですから。

C:『SSSS.GRIDMAN』の場合は、メインツールが3ds Max、MotionBuilder、After Effectsですし、この仕事ではツールへの対応力も問われますね。大島さんにも伺いましたが、グラフィニカに応募しようと思った理由も教えていただけますか?

田口:セル調のCGが好きだったのに加え、私は大島と同期なので、同じく『楽園追放』のPVを見て「すごく良いな」と思ったのがきっかけで、グラフィニカへの応募を決めました。

C:良い作品をつくると、良いリクルーティングにつながるという典型例ですね。今後は『SSSS.GRIDMAN』をはじめ、皆さんの手がけた作品がきっかけで、グラフィニカへの応募を決める人が出てくると良いですね。



前編は以上です。中編はこちら、後編はこちらでご覧いただけます。

©円谷プロ ©2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会

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