カナダ投資局主催のメディアツアーレポート最終回。第1回第2回の記事では人材面に焦点を当てたが、最終回ではカナダのインディ(小資本・独立系)ゲームについて取り上げる。その上でカナダゲームの特徴や、ローカルな文化的特性がワールドワイドなゲームビジネスで与える影響について考察する。

TEXT & PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

<1>インディゲーム開発者の天国、GamePlay Space

フロアに足を踏み入れた瞬間、目の前に飛び込んできたのは、100名以上にもおよぶインディゲーム開発者たちだった。それぞれ5~6名ずつのチームにまとまり、思い思いにゲームの開発を行なっている。モントリオール市内にあるゲーム開発者むけのコワーキングスペース「GamePlay Space」だ。理事の一人、ジェイソン・デラ・ロッカ氏によると、20以上のスタジオが1フロアで開発しているという。

GamePlay Spaceは非営利団体によって運営されるコワーキングスペースで、2013年秋にオープンした。投資会社のExecution Labや地元の大学や企業、さらにはモントリオール市から寄付や支援を受け、フロアの借用とリノベーションを実施。使用料は1日20カナダドル(約2千円)からで、月額300カナダドル(約3万円)で自分の机ももてる。24時間365日使用可能で、会議室などの設備も使用可能だ。

最大の特徴は1フロアぶちぬきのオープンスペースで構成されており、スタジオやチーム間の間仕切りがないこと。つまり、どのスタジオがどんなゲームをどんな風につくっているかが、丸わかりなのだ。一般の企業では考えられないスタイルだが、これが可能なのもインディゲームならでは。受託開発を行わず、各々のスタジオが自らのIPをもつため、開発段階から積極的に情報を開示していく方が、メリットが大きいというわけだ。

こうしたスタイルはロッカ氏の経歴も関係している。ロッカ氏は国際ゲーム開発者協会(IGDA)の代表を9年間つとめ、ゲーム開発者会議GDC(Game Developers Conference)でもおなじみの人物だ。Execution Labsの共同設立者であり、モントリオールの業界団体Alliance numeriqueのボードメンバーや、IGDAモントリオールの副代表などもつとめる。長年ゲーム開発者のコミュニティ運営にかかわってきた知見が活かされているのだ。

「お互いがプロジェクトの進捗を見せ合っているからこそ、完成前の追い込み時期に開発者を融通しあったりもできる。コワーキングスペースのゲスト会員が開発中のゲームを見て、それがきっかけでチームに参加することもある」と語るロッカ氏。コワーキングスペース主催のイベントや勉強会、地元企業のメンターによるミーティングなども頻繁に開催され、モントリオールにおける開発者コミュニティの一翼を担っている。

ジェイソン・デラ・ロッカ氏

GamePlay Spaceで活動中のインディスタジオのうち、成功例の1つがMino GamesOUTERMINDSだ。Mino Gamesは『ポケットモンスター』のようなモンスター育成&バトルゲーム『Mino Monsters』、OUTERMINDSは人気ゲーム実況者のピューディパイをフィーチャーしたRPG『PewDiePie's Tuber Simulator』などをモバイル向けにでリリースしており、人気を集めている。

『Mino Monsters 2』

『PewDiePie's Tuber Simulator』

<2>IP戦略を牽引するカナダのインディたち

さて、今回のようなメディアツアーはゲームに限らず、さまざまな分野で、さまざまな国が行なっている。主催は投資局以外にも、大使館などさまざまだが、共通しているのは「国や地方自治体が税金を投じてメディアを呼び込み、地域の魅力をアピールしたい」という点だ。ツアーのプログラムは先方が作成し、地域のスタッフが引率する。つまり、プログラム自体が主催者側のメッセージを間接的に示している。

このことは2007年に在日カナダ大使館主催で行われ、筆者も参加したメディアツアーと比較すると良くわかる。2007年は11日間の日程で行われ、オートデスクなどのツールベンダー、シェリダン カレッジなどの教育機関、そしてUBIモントリオールなどのゲーム開発会社への訪問が中心だった。そこには「カナダは人材の宝庫で、AAAゲームスタジオもあり、行政の支援も手厚いので、ぜひ投資や進出を検討して欲しい」という意図が感じられた。

今回のツアーもコンセプトは同じだったが、大きく異なる点があった。コワーキングスペースやインキュベーション施設への訪問が大半を占めていたのだ。そこでプレゼンテーションを行なったのは、さまざまなインディゲーム開発者たちだ。彼らは規模やクオリティの点では、大手スタジオに見劣りする。しかし、大手スタジオにはない価値を有している。それは自社IP(Intellectual property rights、知的財産権)だ。

IP重視の戦略は「開発ツールの無償化」、「デジタル流通の拡大」、「スマートフォンの普及」を背景に、2010年代における産業政策の世界的なトレンドになっている。スタートアップを育成し、強力なIPを生み出すことは、地域経済や雇用に貢献するだけでなく、新しい産業を生み出す可能性すら秘めているからだ。そのためカナダにおいても海外企業の進出支援に加えて、インディ向けの支援が産業支援の新たな柱になりつつある。

きっかけとなったのが2010年にスタートした「カナダメディアファンド」で、デジタルメディア産業全般を対象としており、インディゲーム界が活気づいたという。連邦制をとるカナダでは州政府ごとに個別のファンドも運用中だ。モントリオールが属するケベック州では、2016年からIP創出を目的としたゲーム開発に、「1プロジェクトあたり最大300万カナダドル(開発費の35%が上限)が提供されるファンドがスタートしている

モントリオールのGamePlay Spaceだけでなく、今回のツアーではケベック・シティのIndie Stream Hub、トロントのCloud3 Incubator、バンクーバーのVR/AR Centre for Excellenceと、各都市で必ず類似施設の見学が行われた。中でもVR/AR Centre for ExcellenceではVR・ARのベンチャー企業7社によるデモが行われ、ゲーム以外の分野にも広がりを見せていた。

VR/AR Centre for Excellence

VRで「ピタゴラ装置」が楽しめる『Ruberg』(METANAUT)

VRで畜産の対内構造が学べる『EasyAnatomy』(Liama Zoo)。獣医志望の学生向けで、モバイル版もある

VR/MR体験をストリーミング配信するためのソリューション『MixCast VR』(Blueprint Reality)。Unity向けのSDKがSteamで販売されている

もっとも将来性を感じたのがSteampunk Digitalが開発中の3Dスキャナだ。スマートフォンやタブレットむけの周辺デバイスで、人間や物体をリアルタイムに3Dスキャンして、OBJファイルなどに出力できる。部屋全体の3Dスキャンや、複数デバイスでスキャンしたデータをクラウド上でマージする機能も備えるという。このようにソフトウェアだけでなく、ハードウェアスタートアップが育ちつつある点に驚かされた。

Steampunk Digitalのアーロン・ヒルトン氏

Steampunk DigitalがiOSデバイス向けに試作中の3Dスキャナ

対象物や部屋の構造手軽に3Dスキャンして3DCGモデルを作成できる

メッシュとテクスチャを両方キャプチャして、OBJファイルに出力できる

IP重視のながれは映像業界でも同様だ。ケベック・シティにスタジオをかまえるSqueeze Studio Animationは映画・テレビ・ゲームなど、メディアを問わずハイエンドな映像制作を手がける中堅CGプロダクションだ。近年ではオリジナルの映像作品『CRACKÉ』を製作しており、カートゥーン・ネットワークなどを通して175ヵ国・地域に配信するだけでなく、モバイルゲーム版『CRACKÉ RUSH』の配信も行なっている。

Squeeze Studio Animationの社内風景

『CRACKÉ』のデモ映像。ダチョウが主人公のコミカルなショートアニメで、1分間のエピソードが52話製作された。海外展開に便利なようにセリフが存在せず、ドタバタのアクションで見せる点が特徴だ

『CRACKÉ RUSH』のゲーム版画面写真。iOS版とAndroid版があり、日本からもAndroid版がダウンロードできる 

同じくケベック・シティの中堅映像会社、FRIMA STUDIOも多メディア展開を進める企業の1つだ。CG・VFXからゲーム・VR/ARまで、さまざまな企業からの受託製作を行う一方で、自社開発によるオリジナルコンテンツも制作している。モバイルゲームが原作のオリジナルアニメ『MaXi』も製作された。なお、これらの作品にはカナダメディアファンドの資金も投入されている。

『MaXi』

荷馬車を操って渓谷を進む一人称視点のファンタジーVRアドベンチャー『FATED: The Silent Oath』はPSVROculas RiftHTC Vive向けに発売中だ

『Talent not Included』は2人プレイが楽しいカジュアルアクションゲーム。PCとXbox One向けにリリースされている。ロビーではアーケード筐体でデモされていた

このようにコンテンツがデジタル化され、メディアの区分が崩れていく中で、企業にとってIPが最も重要な資産となることは言うまでもない。そのためにはオリジナルのコンテンツが必要だ。ケベックインターナショナルでゲーム分野の産業支援を担当するマリオナ・フェレール氏も「カナダのゲーム産業はツール時代、受託生産時代を経て、IP時代に突入した。インディゲームはその鍵を握る存在」だと語る。

IPの文脈からはそれるが、モントリオールのスタートアップ、MALUUBAの取り組みも注目させられた。同社はWebの自然言語解析に力を入れており、担当者がホームページ上の任意の点を範囲選択すると、そこに書かれた内容を理解して、内容に即した質問が作成されるデモが披露された。将来的に利用者が口頭で話しかけるだけで、ブラウザが自動的に関連トピックを検索し、内容を抜粋して表示するなどの利用法が想定されている。

MALUUBAのWeb解析による問題作成デモ

同社は2017年1月にマイクロソフトによって買収されたことで注目を集めた。周知の通りマイクロソフトではWindows 10むけにデジタルアシスタント「コルタナ」を搭載している。言及は避けられたが、同社では「コルタナ」との統合も視野に入れた研究開発を進めている模様だ。モントリオールにスタジオを構えるのも、1つには優秀な研究者を確保するためだという。

モントリオールは近年、デジタルコンテンツに加えてAI研究の分野でも国際的な存在感を高めている。モントリオール大学教授で、ディープラーニング研究の第一人者であるヨシュア・ベンジオ氏が、マギル大学と共同でAIに特化したインキュベーター「Element AI」を立ち上げたのはその一例だ。このようにカナダのデジタルメディア産業は、各都市が競い合う形で、着実に次のステップを見据えつつある。

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<3>カナダのゲーム産業とコンテキストの関係

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<3>カナダのゲーム産業とコンテキストの関係

これまで見てきたように、カナダでは「①ソフトイマージュに代表されるツール&ミドルウェア時代」、「②UBIモントリオールやEAカナダに代表される大手外資スタジオと、その周辺で成長する中小スタジオ時代」を経て、「インディゲームスタジオによるIP創造時代」を迎えている。しかし、同様の事態は世界中で起きており、世界には星の数ほどのコンテンツが存在する。そこで重要なのがマーケティングであり、ブランド戦略だ。

もっとも、オリジナルゲームをつくってヒットさせることが非常に難しいことは言うまでもない。フェレール氏もこうした現状を認めた上で、理由として「カナダには大手パブリッシャーが存在しない」、「カナダの人口は約2500万人で、国内市場が小さい」という点を上げた。そのためヒットを狙うには海外展開が不可欠だが、インディが個別にストアに載せるだけでは埋もれてしまう。ここが現状の課題というわけだ。

ストアで目立たせるには「ユニークで良質なゲーム」をつくるしかない。特に「ユニークさ=世界で唯一である」という点は非常に重要だ。AAAゲームを真似ても、資金や技術力に乏しいインディに勝機はない。それよりも大企業には真似のできない斬新な企画で、一点突破を狙うことがヒットにつながる......。もっとも、これはインディだけでなく、日本のゲーム業界においても同じことが言える。

ユニークさの源泉にはクリエイターの創造性があり、それを育むのは文化や歴史といったコンテキストだ。1970年代の米国産ゲームと1980年代の国産ゲームにおけるちがいは、その好例だろう。両者のちがいは「キャラクター」の有無だ。パックマンやマリオといったキャラクターは、それまでの米国産ゲームにはない、日本ならではの発明だった。漫画やアニメ文化がその背景にあったことは、言うまでもないだろう。

それではインディゲームに影響を与えるカナダのコンテキストとは何だろうか。ひらたくいえば「カナダゲーム」という言い方はできるのだろうか。結論から言うと2017年現在、こうした呼び名は存在しない。それは日本人気質にも似た、万事控えめで自己主張に乏しい国民性によるものかもしれない。また建国して150年と歴史が浅く、文化的熟成が進んでいないという言い方もできるだろう。

ESACでCEOをつとめるジェイソン・ヒルチェ氏

もっとも業界団体ESAC(Entertainment Software Association in Canada)でCEOをつとめるジェイソン・ヒルチェ氏は「カナダのゲームには独自の個性があり、それらは大手パブリッシャーから受託生産されるゲームにも見え隠れする」と指摘する。『アサシンクリード』のパブリッシャーは仏UBIだが、開発はモントリオールで行われており、カナダの街並みやランドマークが引用されている、などだ。

「もっと直接的な例ではアイスホッケーゲームの『EA NHL』シリーズがあります。発売は米EAですが、バンクーバーにあるEAカナダが開発しており、カナダ人がカナダの国技であるアイスホッケーのゲームをつくっているのです。これ以上の『カナダゲーム』があるでしょうか?」(ヒルチェ氏)。実際に『EA NHL』シリーズは同社のドル箱だが、日本ではほとんど販売されない。アイスホッケーの人気に乏しいからだ。

ただしヒルチェ氏は、最も重要なのは、ユニークなゲーム体験であって、文化的ユニークさではないとも指摘する。多くのゲーマーはゲームのおもしろさに興味があり、開発された国や地域については無関心だ。『テトリス』がロシアで開発されたことと、ゲームのおもしろさは無関係というわけだ。その一方で前述の通り、クリエイターが自国や地域のコンテキストに自覚的であることは、決して無価値ではないだろう。

一方で「その国らしさ」を決めるのは外国人の特権でもある。我々にとって当たり前の光景でも、外国人の目には新鮮に映る。彼ら・彼女らが撮影した写真や動画に驚かされた経験のある日本人も多いだろう。同様にモントリオールのインディ、Compulsion Gamesが開発中のサバイバルアクション『We Happy Few』もカナダらしいゲームだと感じられた。PCとXbox One向けに開発中で、日本語版も予定されている。

Compulsion GamesでCEOをつとめるギョーム・プロボスト氏

本作の舞台はイギリスにある架空の田舎町ウェリントン・ウェルズだ。第二次世界大戦でドイツに降伏したショックで、国民全体がうつ状態に陥った歴史をもつという設定で、町の住人は全員「ジョイ」という薬物でそう状態にさせられている。主人公はひょんなことからジョイの服用をやめ、正気に返ったことから危険分子となった男性で、周囲に悟られないように町からの脱出をめざすことになる。

CEOでクリエイティブディレクターのギョーム・プロボスト氏はモントリオール出身。1996年にニューヨークに移住した後、リーマンショックで故郷に帰り、2009年に起業した。社員数は30名で、大手ゲームには見られないヨーロピアン的なアートスタイルが特徴的。処女作『Contrast』からその片鱗が見られる。カナダゲームというよりも、フランス語圏で英仏の文化が混じり合う同州ならではの「ケベックゲーム」かもしれない。

『We Happy Few』は1960年代のレトロフューチャーと欧州的なグラフィックスが融合した世界観が特徴だ。ゲームエンジンにUnreal Engine 4を使用しており、プレイするたびにマップが自動生成されるローグライクなゲームになる予定

スタジオの処女作『Contrast』もまた、トゥーン調のグラフィックが特徴だ。舞台は1920年代のアメリカで、主人公はキャバレーで働く母親をもつ少女ディディ。光と闇が交錯する世界でパズルを解きながらストーリーを進めていく

一方でヒルチェ氏が「カナダのインディゲーム」の好例としてあげたのが、カナダ北部の原野を舞台に繰り広げられるサバイバルアドベンチャー『The Long Dark』だ。開発を手がけるHinterland Studioはバンクーバーの北西に位置するノーザン・バンクーバー島にあり、文字通り自然に囲まれたスタジオ。社員の大半は業界歴10年以上のベテランで、家庭をもち、過去にAAAゲームにかかわった経歴をもつ。

ゲームはポスト・アポカリプスもので、謎の地磁気災害で不時着したパイロットが主人公だ。現在発売中のバージョンではストーリー要素が実装されておらず、プレイヤーは狩りをはじめ、さまざまなサバイバル技術で生き延びていく。本作はカナダメディアファンドから697,414カナダドル(約7000万円)投資を受けて制作されており、2014年に機能限定版が販売された。完成版をめざして現在も開発が続けられている。

カナダ北部を舞台にしたサバイバルアドベンチャー『The Long Dark』。スタジオの周りもこうした大自然が広がるという

熊や狼もさることながら、最も恐ろしいのは寒さと飢えだ。現在はオープンワールドでサバイバル部分が楽しめるバージョンがリリースされている

カナダメディアファンドはゲーム業界のみならず、デジタルメディア産業全般で人気の高いファンドであり、関係者によると競争率が非常に激しいことで知られるという。こうした中で、本作のようなタイトルが採択されている点は注目に値する。同ファンドはまた、カナダに資する(ひらたくいえば「カナダらしい」)タイトルが採択される傾向にあり、「カナダらしさとは何か」の議論は現在も続けられていると考えて良いだろう。

<4>カナダのインディは「カナダらしさ」をどのように捉えているか

それではカナダのインディゲーム開発者は「カナダらしさ」をどのように捉えているのだろうか。ケベック・シティケのIndie Stream Hubに入居する3つのインディに「カナダらしいゲームとは何か」、「カナダならではのゲームをつくることは世界市場での販売にどのような影響をもたらすか」という2点について質問してみた。

はじめにNine Dots Studioの代表でゲームデザイナーのギリアム・バウチャー・ビダル氏のコメントを紹介しよう。同社はインディながら、プロシージャル技術を用いたオープンワールドゲームに定評があり、現在は最新作『Outward』の開発を進行中だ。

Nine Dots StudioでCEOをつとめるギリアム・バウチャー・ビダル氏

Nine Dots Studioの社内風景。Indie Stream Hubに入居するのはいずれも7~8名のインディゲーム会社だ

最新作『Outward』はプロシージャルを駆使したオープンワールドのファンタジーRPGだ

ビダル氏はケベックのアイデンティティを色濃く示すゲームとして、厳冬下の山間を舞台に、人狼の襲撃を罠などで防いでいく『Sang-Froid: Tales of Worewolves』と、1970年のカナダ北部を舞台に、探偵となって謎を解きあかすサバイバルアドベンチャー『KONA』をあげた。いずれも冬の厳しい寒さと大自然に立ち向かう人間が主人公だ。

もっとも、これらは例外的な存在であり、その多くは世界市場での販売を念頭においてテーマ選択やタイトル開発が行われるのだという。時には特定の国や地域の文化が取り上げられることもある。ルチャドール(覆面レスラー)を操作しながらプロレス技をくりだし、敵を倒していく横スクロールアクション『覆面闘志』は好例だ。メキシコが舞台のゲームだが、開発はトロントのDrinkBox Studiosで、日本語版も発売されている。

一方でビダル氏はカナダのゲーム開発者の特徴として「多様性の尊重」をあげた。過去のレポートでも紹介したとおり、その背景にあるのが移民国家としての国の成り立ちだ。同社がオープンワールドゲーム開発に注力するのも、プレイヤーにゲームプレイの選択を通して自己表現の機会を提供したいからだという。日本のゲーム開発者がゲームプレイの自由度よりも、完璧なレベルデザインを求めがちなのとは好対照のように感じられた。

PalaboleのCEO、アレクサンダー・フィセット氏

Palaboleの社内風景

『KONA』の主人公は退役軍人の探偵で、姿を消した依頼主や住人の謎を追って探索を進めていく。スノーモービルやトラックに乗って移動する、苛酷な自然環境の中で生き延びるサバイバル要素などもある

もっとも、『KONA』の開発元であるPalaboleのCEO、アレクサンダー・フィセット氏は「文化的なユニークさはゲームを特徴付ける1つの方法だが、唯一の回答ではない」とコメントした。例に挙げられたのが音楽ゲームだ。音楽は言語をもたないため、音楽ゲームもまた文化的なユニークさが薄まる。ゲームメカニクスやテクノロジーに立脚したゲームも同様で、「カナダらしさ」とは無縁なものの、世界中で遊ばれるゲームになり得る。

Chainsawesomeのコミュニティマネージャ、ローレント・マークリー氏

Chainsawesome社内風景

『Aftercharge』はエネルギータワーの奪い合いがテーマの一人称視点アクションだ

3on3でマップを制圧しあうマルチプレイアクション『Aftercharge』を開発中のChainsawesome Gamesでコミュニティマネージャをつとめるローレント・マークリー氏もまた、「カナダゲーム」という括りには懐疑的だ。「自分たちは自分たちが愛する素晴らしいゲームをつくりたいだけであって、カナダのゲームをつくりたいわけではない」からだ。マークリー氏はまた「世界的な成功を収める上で文化の独自性が求められるとは思わない」とも補足した。文化的特異性を押し出すことで、反発を受けるリスクもあるからだ。

もっともインタラクティブメディアであるゲームにおいて、タイトルとコンテキストの関係は、映画やアニメなどと比べても少々複雑だ。任天堂のマリオやゼルダは京都ならではの精緻なモノづくりの産物だとも言えるし、全世界的に受け入れられる文化依存度の低いゲームだともいえる。結局はユーザーがゲームを遊びながら、どのように評価するかであり、コンテキストは全体的な方向性を決める「出汁」のようなものなのかもしれない。

こうした議論をひきとって、マリオナ・フェレール氏は日本とカナダのゲームの大きなちがいとして「文化の多様性」を上げた。イノベーションが多様性の中で育まれるのだとしたら、カナダはその最前線にある。IP時代への過渡期を迎えたカナダのデジタルメディア産業が10年後にどのような時代を迎えているか、これからも注目していきたい。