2022年7月8日(金)、建築、製造、アパレルなど、デザインビズの“今”が学べる「CGWORLD デザインビズカンファレンス 2022夏」がオンラインで開催された。本稿では、株式会社パーチによるカラーマネジメントのセッション「カラーマネジメント、正しい色でデザインする喜び! デザイン開発の質と効率を高めるDXの基礎」についてレポートする。
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イベント概要
CGWORLDデザインビズカンファレンス2022夏
開催日:2022年7月8日(金)
時間:13:00~18:30
場所:オンライン配信
参加費:無料 ※事前登録制
cgworld.jp/special/cgwviz2022/summer/
カラーマネジメントの基礎知識
本セッションで登壇したのは、株式会社パーチ(以下、パーチ)の長尾健作氏。同社の代表として25年以上にわたりカラーマネジメントに携わっている。パーチのWebサイトによると、カラーマネジメントとは「現物・デジタルデータ・入出力デバイスの色をマッチング(統一)させる技術」と定義している。
セッションで最初に示されたのは、カラーマネジメントの歴史を表した図だ。デジタルツインやDX化の影響により、正しい色でデザイン、製造から販売促進まで効率化していく活動が盛んになっているとのこと。ヨーロッパでは一歩先行して進められており、日本でもその機運は高まっているという。
カラーマネジメントは、素材の色を測り、正しいデジタルデータにするところから始まる。測色するためのハードウェア(測色器)を選ぶポイントは測る素材に合ったものを使うことで、ここではエックスライト社の3つの測色器が紹介された。測定した結果をスペクトルデータやAxFというファイルフォーマットを通して、CADやCGのマテリアルに割り当てられる機種もあるという。
測色器は、受け取り側のソフトウェアの対応状況に合わせて書き出す形式を決める必要がある。このように入力から制作にいたる流れを「カラーフロー」と呼ぶ。
カラーフローで重要となるのが「色基準」だ。これはカラープロファイル、色空間とも呼ばれ、立体の図で表現される。この図のことを「色立体」と呼ぶこともある。色基準はRGBではAdobe RGB、sRGB、Display P3、CMYKではJapan Color 2001 Coatedなどの種類がある。
ハードウェアとソフトウェアのカラー管理機能
カラーマネジメントを行う上で、ハードウェアとソフトウェアの重要性が語られた。まずモニタについて。モニタは個体ごとに色が異なるため、モニタ用の測色器を使って違いを埋めていく。その際に色温度のばらつき、RGB各色ごとのばらつき、ガンマ(濃度コントロール)の乱れ、白飛び/黒つぶれをクリアしなければならない。さらに、カラーマネジメントに対応したモニタの条件として、経年劣化を補正するキャリブレーション(色を正しく表示する調整)機能と、特定の色基準に合わせる機能が必要となる。
モニタは機械なので、使っている間に劣化して色などが変わっていく。これを補正するために1か月に1回くらいの頻度でキャリブレーションを行うが、そもそもモニタの仕様としてキャリブレーション可能なことが前提だ。
もうひとつの、特定の色基準に合わせる機能とは、例えばAdobe RGBやsRGBのように指定した色基準どおりに画面表示を再現する機能。セッションではEIZOのColorEdgeシリーズのモニタと付属ソフトを使って色基準を再現する様子が動画で紹介された。
続いて、アパレル向け3D着装シミュレーションソフトウェアCLO Enterprise(以下、CLO)を例に挙げ、ソフトウェアのカラー管理機能が紹介された。CLOはPhotoshopなどからデータをインポートし、レンダリングした画像をさらに別のソフトウェアにエクスポートするという作業が発生する。そのため、各ソフトウェアのカラー管理機能に加えて、インポートとエクスポートの設定を全て整える作業が必要だ。
環境とカラーフロー
次は、サンプルや製品を観察するための照明について。太陽や照明などの光源が発する光の色を表す指標を「色温度」といい、単位はK(ケルビン)で表す。色温度が低ければ暖色系、高ければ寒色系の色になる。カラーマネジメントでは、基準となる色温度を決めた上で照明を選ぶ必要がある。製品開発において世界的に色評価の基準となっているのは6,500Kで、CADや3DCGソフトも6,500Kを基準にしている。
同じ色温度でも、照明の質によって物体の見え方が変わる例も紹介された。例えば、一般の蛍光灯の下ではブルーに見えたものが、太陽光の下で見ると実際の色である紫色で見える。このように、照明の波長というものが原因で色が変わるというのは、波長の過不足が原因である。
波長の過不足について、評価用光源を制作しているシーシーエス株式会社の資料を使って詳しい説明があった。太陽光の分光分布では、いろいろな色が見えるようにまんべんなくエネルギーが届いている。それに対し、白色LEDの分光分布では青にピークがあり、緑が谷になっている。つまり、この照明の下で見ると緑が非常に暗く見えて、それが原因で色が変化してしまう。そのため、太陽光に近い波長をもった照明が必要になる。これを「色評価用光源」と呼ぶ。
カラーマネジメントに適した色評価用光源として、エックスライトのSpectraLight QCとEIZOのLEDスタンドが紹介された。前者は大がかりな装置で高額になるが、後者はデスクに置いて使えるものだ。いずれかを活用すると色を見る作業が非常に楽になり、開発効率も作業効率もかなり上がるので、カラーマネジメントにおいては必須の製品といえる。
照明が整ったら、製品をデータとして取り込むためのスキャナが必要。CGやCADで使えるマテリアルデータまで同時に書き出せるものもあり、かなり大型になるがA2タイプのものもある。色柄や生地の素材感はもちろん、凹凸や透過度まで全てマップとして取り込み可能だ。それをxTexというファイル形式で個別のマップデータとして書き出せる。
実際にスキャンした生地のデータを、CLOに読み込んだときの操作動画が紹介された。xTexファイルをCLOのマテリアルエディタに入れるだけで、自動的に全てのマップがマテリアルの中に埋め込まれ、パターンに乱れがないのはもちろん、凹凸感や素材のもつ雰囲気まで再現されていた。
カラーマネジメントの運用について
カラーマネジメントの導入後、運営していくにあたって必要なものは、操作マニュアルと設定マニュアルである、と長尾氏。書類に残すことで操作ミスを防ぐことができる上、基準や設定の変更があった場合に改訂版を出すことが可能になる。
長尾氏はマニュアルだけでなく、教育の必要性も強調した。現場の作業者がカラーマネジメントの導入意義をあまり理解せず、メンテナンスを拒否したり、設定を勝手に変えてしまったりするケースがままあるという。これを解消するためには、導入直後にセミナーを行うことが重要だ。
・なぜカラーマネジメントを導入したのか
・どのようなメリットがあるのか
・作業がどれくらい楽になって残業が減るのか
といったことをきちんと説明する。導入後も新卒入社や、部署異動があったタイミングでセミナーを開いて周知徹底するのが良いとのこと。ちなみに、パーチでカラーマネジメントを導入した場合、セミナーのメニューも用意されている。
実際に運用していく中で大切なことは、モニタ、キャリブレーション、プリンタなどのメンテナンスだ。ハードウェアは劣化するため、補正して戻す。あとは、ソフトウェアの設定を勝手に変えられていないか定期チェックが必要。ハードウェアの入れ替えや増減、ソフトウェアの変更やバージョンアップは、カラー管理機能が変更になってしまうケースが多いので、そのようなタイミングでは必ず検証をする。
社内でのカラーマネジメントの専門家育成については、知識もかなり必要になるため数年はかかるとのこと。「ほかの業務の片手間でやるのではなく、少なくとも業務時間の4分の1から3分の1くらいの時間をかけないと、専門家の育成は難しいと思います。業務量の目安として台数が100台になると、1人が専任にならないと運営が回らないということを覚えておいてください」と長尾氏は語った。
最後にパーチのWebサイトの紹介があった。ここには「カラーマネジメントとは」に始まり、最新の情報までいろいろな情報が載っている。そして、パーチではカラーマネジメント導入の無料相談も受け付けている。導入金額、期間、どういったものを導入すればいいのか、というところまでは無料で教えてもらえるので、気軽に相談してみると良いだろう。
TEXT&EDIT_園田省吾(AIRE Design)