記事の目次

    こんにちは。ビジュアルデベロップメントアーティスト(Visual Development Artist)の伊藤頼子です。連載 第24回では、ボックス・スタディーを通して時間経過による自然光(太陽の光)の色とバリュー(value/明度)の変化を学びました。今回は、同じくボックス・スタディーを通して、人工光の色とバリューについて学んでいきましょう。

    TEXT&ARTWORK_伊藤頼子 / Yoriko Ito(twitter / instagram
    EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

    人工光を使えば、さらにクリエイティブな色使いが可能

    夜の屋外、暗い室内など、月明かりや人工光によって照らされたいろいろな状況を設定し、ペイントしてみましょう。人工光を使うと、自然光を使う場合以上に、クリエイティブな色使いが可能になります。まずは自然光でのペイントをマスターし、さらに人工光でのペイントもマスターすることで、ペイントの力がグレードアップし、面白みのある画面をつくれるようになります。

    Lesson54:カラーボックスに月明かりを当て、ペイントする

    人工光を使う場合であっても、黒・白のボックスをペイントしたときと同じ原理を使い、バリューをコントロールします。ボックスにどんな色を適用したとしても、光と陰影のルールは常に変わりません。ただし自然光とちがい、人工光には様々な色を設定できるため、光の色に応じてローカルカラー(モチーフの本来の色)が変わります。光が当たっている部分だけでなく、全体の色も影響を受けて変わるため、色が濁らないように注意しましょう。

    ▲連載 第24回の図を再掲載します。上段の黒・白のボックスと、中段の3色のカラーボックスには、暖かくも冷たくもない、ニュートラルな光を当てています。下段の3個のグレーボックスは、中段のボックスの彩度を下げ、各ボックスのバリューをわかりやすくしたものです。色がある状態だとバリューがわかりにくい人は、ときどき彩度を下げてチェックするといいでしょう。各ボックスの赤色の×印をつけた面は、全て陰になっている部分です。ここでのルールは5〜10の範囲内が暗い領域(陰影)なので、×印のバリューは必ずこの領域でなければいけません。そして明るい領域(光)は、1〜4 の範囲内のバリューになります。なお、ここでは地面からの反射光のみ考慮してありますが、本来であれば周囲の色の反射も考慮しなくてはいけません。周囲の色の反射については追って説明します


    ▲同じく、連載 第24回の図を再掲載します。光源、地面からの反射光、グラデーションの関係を表しています。ボックスの上面は、光源に近い場所ほど明るく(Lighter)、遠い場所ほど暗く(Darker)なります。ボックスの側面は、地面からの反射光の影響を受け、地面に近い場所ほど明るく、遠い場所ほど暗くなります。床のキャストシャドウ(Cast Shadow/投影)は、ボックスに近い場所ほど暗く、遠い場所ほど明るくなります


    ▲月明かりに照らされた、黒・白・黄・赤・青のボックスをペイントしています。ひとくちに月明かりと言っても、その表現方法は様々で、決まった色はありません。ここでは暗い夜を青、月明かりはレモン色がかった青で表現してみました。反射光の色は特に設定していません。なお、光の色は画面全体に影響します。このシーンの光は冷たい色なので、全てのボックスと背景が冷たい色へと変化します。月明かりは弱い光なので、ハイライトも弱くなり、画面全体のバリューの領域が狭くなります


    ▲先の月明かりの設定の場合、上のようにバリューの領域が狭くなり、暗い領域に偏ります。このようにバリューの領域が暗くなることをローキー(low-key) 、あるいはローキーレンジ(low-key range)と言います。領域がローキーに変わっても、光と陰影のルールは常に変わりません

    Lesson55:カラーボックスに人工光を当て、ペイントする

    ▲人工光に照らされた、黒・白・黄・赤・青のボックスをペイントしています。ここでは、夜もしくは暗い室内に置かれたボックスに、電球の暖かい光がメインの光源(light source)として当たっている設定としました。また、画面の向かって右横のやや離れた位置からは、ピンク色の光がセカンドライト(second light source)として当たっています。このシーンの光は暖かい色なので、全てのボックスと背景が暖かな色へと変化します。電球は強い光を発するので、ハイライトも強くなります

    次ページ:
    Lesson56:赤と青のリンゴを
    ローキーとハイキーでペイントする

    [[SplitPage]]

    Lesson56:赤と青のリンゴを、ローキーとハイキーでペイントする

    ▲前述のローキーに対し、バリューの領域が明るくなるなることをハイキー(high-key) 、あるいはハイキーレンジ(high-key range)と言います


    ▲【左】クロード・モネ(Claud Monet/1840〜1926)の睡蓮の絵で、ハイキーで表現されています/【右】ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー(James Abbott McNeill Whistler/1834〜1903)の港の絵で、ローキーで表現されています


    前述の絵画などを参考にしながら、赤と青のリンゴを、ローキーとハイキーでペイントしてみましょう。

    ▲赤と青のリンゴをハイキーでペイントしています。ここではモネの絵のように、明るく暖かく柔らかい日光が当たっている設定にしました。柔らかな光は、朝の時間帯、薄い雲や靄がかかった天候などを表現できます


    ▲赤と青のリンゴを、ローキーでペイントしています。ここでは弱い月明かりが当たっている設定にしました。同じリンゴでも、ライティングやバリューの領域が変わると、絵の雰囲気や色もかなり変わります

    Lesson57:赤と青のリンゴに人工光を当て、ペイントする

    ▲人工光に照らされた、赤と青のリンゴをペイントしています。ここでは、画面の向かって左側から青く強い光がメインの光源として当たっている設定としました。また、画面の向かって右側からは、ピンク色の光がセカンドライトとして当たっています。人工の強い色の光が当たると、モチーフの色も変わります



    今回のレッスンは以上です。第26回も、ぜひお付き合いください。
    (第25回の公開は、2019年5月を予定しております)

    プロフィール


    • PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    • 伊藤頼子
      ビジュアルデベロップメントアーティスト

      三重県出身。短大の英文科を卒業後、サンフランシスコのAcademy of Art Universityに留学し、イラストレーションを専攻。卒業後は子供向け絵本のイラストレーション制作に携わる。ゲーム会社でのBackground Designer/Painterを経て、1997年からDreamWorks AnimationにてEnvironmental Design(環境デザイン)やBackground Paint(背景画)を担当。2002年以降はVisual Development Artistに転向し、『Madagascar』(2005)でAnnie Award(アニー賞)にノミネートされる。2013年以降はフリーランスとなり、映画やゲームをはじめ、様々な分野のアートディレクションとビジュアルデベロップメントを担当。2013年からはAcademy of Art UniversityのVisual Development Departmentにて後進の育成にも従事。
      www.yorikoito.com
      www.artstation.com/yorikoito
      twitter.com/YorikoIto1
      www.instagram.com/yori_anego/

    本連載のバックナンバー

    第1回∼第13回まではこちらで総覧いただけます。
    No.14:画の中のスケールとディテール
    No.15:ダイナミックな動きのある画を描く
    No.16:イメージづくりに使うレイアウトコンポジション
    No.17:ライティングデザイン
    No.18:ライティングデザインによる感情表現
    No.19:自然光を使い分け、ライティングをデザインする
    No.20:人工の光を使い、ライティングをデザインする
    No.21:ライティングと天候を使い、ムードを表現する
    No.22:自然光でのペイントにおける、色とその温度
    No.23:時間経過による、自然光の色の変化
    No.24:色とバリューの関係を学ぶボックス・スタディー