>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:編集の面白さは、監督やプロデューサーのビジョンをどのように大衆に伝えられるかにある 第53回:小橋義生(Film & Video Editor / Freelance)
編集の面白さは、監督やプロデューサーのビジョンをどのように大衆に伝えられるかにある 第53回:小橋義生(Film & Video Editor / Freelance)

編集の面白さは、監督やプロデューサーのビジョンをどのように大衆に伝えられるかにある 第53回:小橋義生(Film & Video Editor / Freelance)

<2>表現のテリトリーを広げて、自分を売り込んで行く練習を!

――現在のお仕事についてお聞かせください。

現在は、フリーランスの映像編集者となり、SFやホラー、文化紹介やミュージカル作品といった幅広いジャンルと多岐にわたるプラットフォームの作品を編集しています。仕事を得る方法としては、今まで働いてきた中で知り合った人々とのコネクションや、日本に比べると映像業界専門の求人サイトが発達していることもあり、そういったサイトに応募してクライアントの書類審査およびデモリール審査を経て獲得します。2020年の新型コロナウイルスのパンデミックが起こって以来は、ZOOM面接なども多くなってきましたね。

最近のメジャーな仕事は、2017年から2019年にかけてサックス奏者クラレンス・クレモンズのドキュメンタリー映画『Clarence Clemons: Who Do I Think I Am?』の編集を担当しました。クラレンス・クレモンズは、アメリカを代表するロック歌手、ブルース・スプリングスティーンのバックバンドで長きにわたりサックス奏者を務めた人物です。2009年に他界されましたが、この映画は彼の生きざまと人生観を描いたドキュメンタリー作品となっています。監督はイギリス人のニック・ミード、そして編集が僕。アメリカの音楽業界の作品に携わり、文化の垣根を超えたとても興味深い体験をしました。


▲ニック・ミード監督と小橋氏(新型コロナウイルスのパンデミック前に撮影)

――最近参加された作品について、印象に残るエピソードや苦労したこと、こぼれ話などはありますか?

最近はソーシャルメディアの作品が多くなってきていますね。このインタビューにお答えしている時点では、NIKEのエアジョーダンのプロモーションコンテンツやVOXメディアの『EATER』という食文化の紹介作品などが終わった後で、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)関連のドキュメンタリー作品や、インディペンデント映画の編集に参加しています。

印象に残るエピソードは、やはり現在進行形で混迷しているBLM関係の作品からですね。基本的には、大衆娯楽やエンターテインメントの要素の強い題材が好きでこの職種と業界で働いているのですが、時代の流れや状況でジャーナリズム性の高い作品にも携わるようになり、改めて責任の重さを感じました。というのも、つくり手の視点と考察によって、映像で伝えるものごとの真実は変化するからです。たった3秒ほどの映像を編集でカットするか足すかによって、視聴者が受ける「どちら側が正義か」という印象が変わってしまいます。時事問題やドキュメンタリーを扱う作品では、常に自分の主義主張と作品の関わり方の接し方に苦労しますね。

しかし、監督と話を重ねていくうちに、どちら側の主義も深いところでは求めるものは「平和」であり、アプローチがちがうだけではないかと思うようになり、そのスタンスで各作品の編集作業に参加しています。

――現在のポジションの面白いところは?

フリーランスのエディターというポジションで面白いところは、仕事の発注が来たときに「自分の実力を買ってくれている」と実感でき、プロジェクトの中で貢献できる役割をはっきりと自覚して仕事ができているという点です。

映像編集というポジションで言うならば、自分では見えてなかった監督やプロデューサーのビジョンを垣間見ることができて、それをどのように大衆に伝えられるかという「行為の中心」に入ることができる点かと思います。編集オペレーターではなく、作品のつくり手のいち個人として、制作に携わるみなさんと協力して作品自体のクオリティを上げるというスタンスが面白いです。

――英語の習得はどのようにされましたか?

小学生高学年のときに2年ほど米国に滞在していたので、25歳で渡米し英語圏の環境に飛び込むことに関しては、経験がない方から比べると耐性があったかも知れません。なかでも、英語の習得を目的とするのではなく、映像制作を通して「話さないと自分のしたいことが伝わらない」という状況に身を置くことができた点です。

これは語学力習得の近道だったと思います。また、コミュニケーションは言葉だけではないので、英語が伝わらなかったら映像で見せることができました。躊躇しているひまがなかったので、文法が無茶苦茶でも「意思疎通ができれば良い」という感覚でいました。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

現在アメリカは新型コロナウイルスと諸々の問題で大変になっていますが、その影響でリモートワークが増え、映像編集の仕事もほぼリモートでの対応になってきました。その分、求人検索範囲も増えていますので、日本に居ながらでも海外の仕事を気軽にできる時代が来るかも知れませんね。コロナ禍の収束後も、リモートでのワークスタイルは続くと思います。やはり技術と経験は大切で、常に様々な作品に携わって自分の強みをアピールできるポートフォリオづくりを心がけておくと良いと思います。

日本の文化で言う「空気を読む」という方法は、一部の演出や編集作業では便利なツールですが、仕事でのコミュニケーションでは他文化の人には通じないことも多々あります。臆することなく表現のテリトリーを広げて、自分を売り込んでいく練習も大切です。皆さんが自分を表現できる世界が広がっていくことを願っています。

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