>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:就労ビザ申請が白紙に!? 米国で危機を乗り越え、Weta Digitalで活躍中 第48回:武田裕史(Weta Digital / Senior Lead Compositor)
就労ビザ申請が白紙に!? 米国で危機を乗り越え、Weta Digitalで活躍中 第48回:武田裕史(Weta Digital / Senior Lead Compositor)

就労ビザ申請が白紙に!? 米国で危機を乗り越え、Weta Digitalで活躍中 第48回:武田裕史(Weta Digital / Senior Lead Compositor)

<2>Weta Digitalに移籍し、大作映画の制作にたずさわる

――現在の勤務先は、どんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

Weta Digitalには様々な国から優秀な人材が集まっており、国際色豊かな会社だと思います。

最近の作品で印象に残っているのは『アリータ:バトル・エンジェル』(2019)です。リード・コンポジターとして参加し、制作が進むにつれコンポジット・スーパーバイザーの役職も担当することになったのですが、事情により終盤にリード・コンポジターをヘルプで入てもらうまで兼任だったので、自分のチームのコンポジター延べ30人の取りまとめだけでなく、スケジューリング、アサインメント、品質管理、他部署との連携など業務が増えに増え、体が幾つあっても足りない忙しさでした。毎日がコミュニケーションに次ぐコミュニケーションだったので、家に帰る頃には声がかすれているといった状況がしばらく続きましたね。

また、『アリータ:バトル・エンジェル』はジェームズ・キャメロンが映画化権を獲得したという話を聞いてから10数年間、完成をまち続けていた作品で、必要以上に思い入れが強かったために、クオリティとスケジュールのトレードオフの部分で精神的に疲弊しました。体力的にも精神的にも大変な仕事でしたが、第18回VESアワードで最優秀コンポジット賞「実写映画部門」にノミネートされ、作品に携わった優秀なコンポジティング・アーティスト達の苦労が報われたと思うと感無量です。

普通では起こり得ないような状況で、様々な経験を積むことができたこの作品には感謝しています。

――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

リード及びスーパーバイザーはShot WorkよりもOff Shot Work(ツール・テンプレートの制作、アーティストのサポート、トラブルシューティング、ビッディングなど)の方がメインになります。1ショット単位でなく、シーケンス、プロジェクト全体を見据え、プロジェクトの進行状況にあわせ流動的に動く必要があるので気が抜けませんが、作品をつくり上げている実感が大きく、最後のショットがデリバリーされた際の達成感は何物にも代えがたいです。前述のように、Weta Digitalは国際色豊かな会社ですので、本当に様々な性格の人がおり苦労もしますが、チームの仲間全員が笑顔で始まり笑顔で終われるように努力しています。

――英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

英語は「習うより慣れろ」です。日本語の環境に身を置いて、日本語に頼る状況では英語の上達は遅いですし、何年経ってもまったく上達しない場合もあります。日本語を敬遠する生活をすると早く上達します。

相手の言っていることが分からないと駄目なので、定番ですが映画を字幕で観ることで耳を慣らすのが良いと思います。

また、インターネットで調べ物をするときに、英語で検索をする習慣をつければ目が英語に慣れてきます。苦手意識さえなくしてしまえば、基本の単語を覚えて英語の5文型を使いパズルの様に組み合わせるだけなので、すぐに上達します。

ちなみに、第2言語上達の最短ルートとしてよく言われる「現地の人との恋愛」、「日本人の友だちと縁を切る」を実践した人をどちらも知っていますが、あっという間に上達していましたので、その方法も馬鹿にできません。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

具体的な話ですと、海外で働きたい場合、日常会話までとは言いませんが、会話のキャッチボールは最低限できる必要があります。

まったく言葉の通じない人間を雇う会社はほとんどありません(ないと言い切れないのがこの世界の面白い所ですが......)。どんな形でもいいので、会話の意に沿った返答をできる様になってください。そして自分のやりたいことよりも、得意なこと、何ができるのかを明確にしておいて下さい。

面接ではそれを踏まえて、自分がどのように会社に貢献できるのかをアピールしましょう。やりたいことは後でもチャンスは巡ってきますが、まずは、雇ってもらえないと何も始まりません。もし就職後、チャンスをもらえなくても、その経験を糧に次に進むことができます。

また、就労ビザなどの「就職するために必要な条件」を前もって調べておくことは重要です。いくら実力をもっていても、就労ビザが取得できず、泣く泣く帰国しなければならなくなったケースは枚挙に暇がありません。

将来を見据えたプランを立てて下さい。就職を勝ち取った後も、油断は禁物です。海外では自己アピールも重要で、黙って真面目に仕事をしているだけでは思うように評価してもらえないこともあります。給料も交渉下手だとなかなか上がらないので、契約更新の際は自分のしてきたことをアピールして実力に見合った額を貰えるようにしっかりと交渉しましょう。

蛇足ですが、世界は広いので、日本の基準で物事を考えていると僕のように思わぬしっぺ返しを食らうかもしれないので気を付けてください。


『アリータ:バトル・エンジェル』(2019)における功績により、第18回VESアワードでは、最優秀コンポジット賞[実写映画部門]に連名でノミネートされた。授賞式会場にて、左からアダム・ブラッドレー氏、ベン・ロバーツ氏、カルロ・スカドゥート氏、武田氏

【ビザ取得のキーワード】

①日本で4年制大学の情報工学科を卒業
②学生ビザで渡米、専門学校にてOPTを取得。フリーランスとして活動開始
③会社に就労ビザ申請を白紙に戻されるも、運良くアメリカのグリーンカードを取得
④Weta Digitalに移籍し、ニュージーランドの就労ビザを取得

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