<2>Cheer Digiartのワークスタイル
ーー現在の勤務先についてお聞かせください。
長谷川:Cheerは、2009年設立のまだ新しいスタジオです。従業員数は約120名(2016年6月現在)、アーティストは、アート・モデル・リグ・アニメーション・エフェクト・フルCG合成・実写合成、と部門ごとに分かれています。業務範囲もフルCGアニメのTVシリーズから実写映画、CM、VRなど幅広く、また取引先の国も台湾はもとより日本・中国・欧米とワールドワイドですので、PMは皆日本語か英語が話せます。あえて得意分野をつくらず、取引国も制限なし、という経営方針が逆に強みになっているのかなと思います。
Cheer LiveAction Reel 2014 V2 from CheerDigiart on Vimeo.
ーー台湾のVFX業界の動向を教えてください。
長谷川:台湾のVFXは、歴史的には日本よりも遅れをとっているのですが、追いつけ追い越せで、欧米式の業務体系を取り入れ、新しい分野の開拓も積極的です。また国内でなく常に海外の動向に目を向けています。立地的にも日本・中国・東南アジアの真ん中に位置してますし、文化的にも中国と日本の中間ぐらい。今後、日本と中国、もしくは日本と東南アジアとのハブ的役割も担っていくのではないかと思います。
会社のロゴの前で、同僚たちとの集合写真
ーー現在のポジションの面白いところはどんなところですか?
長谷川:「Head of Production」は、全ての案件の進捗、全ての部門の動向を把握し、過不足ないように調整する役割です。毎週月曜朝に各部門のリーダーが集まって会議を開き、私は主持人(司会者)として各部門の状況を聞いていきます。その中で情報を共有し、もしリーダー同士で認識がちがっていたりすると、その場で話し合って共通認識をもつようにします。その週の各案件の人員配置を確認し、週半ばで急な人員調整が必要になれば、その都度対応、最終的に各案件の実際かかった工数を確認し、想定と大幅な差が発生していないかチェック。問題があればトラブルシューティング、という、地味ですが会社の状況を逐一把握し、手空きや炎上のない状態を保つという重要な役割です。
私が入社するまではここまで細かいこともしていなかったようなので、やはり日本人はやることが細かい、と重宝がられています。自分としても、100人以上のスタッフをまとめるというのは初めての経験でしたし、やり方も自己流でしたので、当初は受け容れてもらえるか心配でしたが、日を追うごとにスタッフの理解や信用が得られ、また経営側からも私に任せておけば安心出来ると太鼓判を押され、大きな自信につながりました。また立場上、日本・台湾・中国案件関係なく、クライアントとの会議に顔を出せたことで、日本や、台湾の有数のCGスタジオの方々はもとより、中国のスタジオとも交流がもて、人脈が大きく広がったことも私にとってプラスでした。自分で手を動かして1カットの画をつくることはなくても、自分の働きで多くの案件がスムーズにまわっていくことが、良い作品を生み出すことに繋がります。ひいてはスタッフやクライアントの幸せにもなるというのが、やりがいでありこの上ない喜びでもあります。
ーー中国語の習得はどのように?
長谷川:中国語は高校3年生時から学校の選択教科で学び始めました。大学でも引き続き第二外国語として単位を取っていたのですが、日本での教育は基礎の基礎。メインは西安で一念発起して、現地の大学の語学クラスに通い出してからです。中国語で中国語の授業を受け、生活環境も中国語。世界一発音が難しい中国語を身につけるには、これが一番の近道です。1年半の就学後、HSK(漢語水平考試)という中国が世界的に実施してる検定試験の6級(最高級)を取得し、台湾に来たのですが、台湾ではこの検定は知られてなく......結局は面接で意思疎通ができるのかどうかです。今から思えば、Cheer入社後社長と、会社のビジョンから案件の話から他愛のない日頃の愚痴まで、毎日のようにコミュニケーションをとっていたのが一番の勉強になったのかもしれません。
ーー将来、海外で働きたい人たちへのアドバイスをお願いします。
長谷川:私が日本を飛び出した2008年当時は、海外就労へのキッカケづくりすらわかりませんでしたが、今は海外に進出している日系プロダクションも多く、探すのはそう難しくはないでしょう。第一歩としては、日系企業を当たるのは悪くはないと思います。現地の会社で働きたい場合、各プロダクションの公式サイトやFaceBook等のSNSを使って飛び込みで働きかけることもできますし、LinkedInで自分の履歴を世界にアピールすることもできます。ただ、生活習慣や食べ物が合う合わないもあるので、まずは一度現地へ行ってみることをオススメします。海外に出ることは、逆に日本を知ることにもなります。日本の良い面、悪い面を知ることで、やはり日本の方が自分に合ってる、と思われる方もいるでしょう。いずれにせよ、まずは海外に出てみないと知る術がありませんから、中華圏に出るなら中国語、欧米に出るなら英語を、日常的なコミュニケーションができるレベルで十分なので習得、そして実際に飛び出してみてください。
海外で働き始めると「世界の常識だと思っていたことが日本だけの常識にすぎなかった」ことがわかり、まずは自分のキャパシティの狭さを実感します。でも、相手のことを理解し、歩み寄らない限りは、わかり合えることはありません。そこで、いったん自分の常識を取り払い、相手を知ろうとします。そうすると、相手もこちらのことを知ろうとしてくれます。そうするうちに、自分のキャパも広がり受け容れて理解できるようになるのですが、ここで忘れてはいけないことは、譲れないところはやはり押し通すこと。ここだけは、というところまで譲ってしまったら、せっかく日本で身につけた日本人アーティストとしてのアイデンティティ(大和魂?)まで殺してしまいます。私も、厳しいことを言わないといけないときは、心を鬼にして言ってきました。日本の考え方と現地の考え方の両方がわかると、真ん中に立って苦しむことも多いのですが、お互いに理解してもらえるよう誠意をもって説明することが必要で、そうした意味でも高いコミュニケーション能力は不可欠です。受け容れるところと押し通すところ、このバランスが難しいのですが、環境や状況によりけりですので、その感覚は自分で磨いていくしかありません。
【ビザ取得のキーワード】
1.同志社大学を卒業
2.ワーキング・ホリデー制度を利用して台湾へ
3.アネックスデジタル(西安)における2年半勤務の在職証明書(※)を入手
4.台湾のCheer Digiartに就職、就労ビザを取得
※:台湾での就労ビザ取得の際に必要となる書類。4大卒であれば合わせて2年(複数会社可)の職歴証明でOK。高卒・専門/短大卒は5年の職歴が必要。
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