>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:フリーランスから海外での就業を見据えアメリカへ 第31回:稲垣教範(DreamWorks Animation / Character Technical Director)
フリーランスから海外での就業を見据えアメリカへ 第31回:稲垣教範(DreamWorks Animation / Character Technical Director)

フリーランスから海外での就業を見据えアメリカへ 第31回:稲垣教範(DreamWorks Animation / Character Technical Director)

<2>DreamWorksで働く魅力と、英会話上達のポイントは?

――現在の勤務先であるDreamWorksはどんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

VFXスタジオのようにクライアントという立場ではなく、自社内で映像制作の全てを網羅しているので、締め切りに追われるということはあまりなく、比較的ゆとりをもって作品に取り組めていると思います。アイデアにはとてもオープンで、制作中の作品の試写の度に「どこがよかったか、どうすればもっとよくなる」かなど制作スタッフ全ての意見を取り入れてくれます。

食事は朝食、昼食を無料で食べることができますし、ほかにもスナックやドリンクが無料で提供されます。また教育に力を入れていて、ソフトウェアの使用方法だけでなく、ライフドローイングなどのクラスもあります。動物のキャラクターが出てくる作品に参加するときは、動物園に行って飼育員さんにそれぞれの動物について詳しく解説してもらうこともありました。

アニメーション、リギングは自社開発のソフトウェアを使用していて、リアルタイム処理が可能な自社製アニメーションソフトのPREMOはアカデミー賞科学技術賞(Scientific and Technical Awards)を受賞しています。バグなどが見つかったときに、開発者がすぐ近くにいるというのはとても強みだと思います。

――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

現在はキャラクター・リギングに携わっています。キャラクター・リギングの面白いところは、プログラミングなどのテクニカルなスキルと、キャラクターの形状がどのようにデフォームすべきかなどの美的センスの両方のスキルが必要なことです。生き物の骨格がどうなっているか、筋肉はどのように繋がっているかをよく観察して、解剖学的にはこうあるべきだけど、このアニメではもう少し形をシンプルにしようとか、実際にはこの関節の可動範囲はここまでだけど、アニメだから限界を超えて曲がったときの形状はどうしたら自然に見えるかなど、たくさんのことを考える必要があります。

キャラクター・リギングは「アニメーターの想像力を開放する」ことが仕事だと思っています。自分のセットアップしたキャラクターが、僕の想像を超えて生き生きと動いているのを見ると、とても嬉しいです。特殊なキャラクターなどはアニメーターと相談して機能を追加したりもします。そうしてアニメーターとコミュニケーションして、一緒にキャラクターをつくり上げていくのが楽しいですね。リアルタイムで動く、疑似セルフ・コリジョンデフォーマを開発したときは、会社からテクニカル・アチーブメント賞をいただきました。

――英語や英会話のスキルはどのように習得されましたか?

フリーランスとして日本で仕事をしていたころ、新しいCGの技術に興味があり、海外のWebサイトを読んだり、海外のCG関係の本を買って読んだりしていました。わからない単語を辞書で調べつつ読んでいたので、最初はとても時間がかかりました。

デジタルハリウッドで勉強していた頃にSIGGRAPHに行き、もう少しリスニングができるようになりたいと思い、リスニング系の英単語帳で移動や空き時間に勉強するようにしていました。1年以上勉強していましたが、日本で実際に英語で会話する機会がなかったので、あまり身につかなかったかもしれません。

留学して、英語以外のコミュニケーションができないような状況に追い込まれて、一気に上達したと思います。英会話は文法などの間違いは気にせずに、とにかく口にすることが大切ですね。相手の言っている単語の意味がわからなかったら、「それ、どういう意味?」と素直に聞いて、別のわかりやすい単語で説明してもらうなどして会話の中で覚えていくとよいと思います。なので、英語で話す友人をもつことが上達への一番の近道だと思います。

――最後に、将来海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

アメリカでの就職に関しては、就労ビザの取得がCGの技術以上に重要になってきます。とくに近年は、就労ビザの取得が大変難しくなってきています。ただ闇雲に留学や就職活動をしても、アメリカで就職するのは厳しいのが現状です。ビザのシステムをよく理解して、どういう経緯で経験を詰み、どういう過程でどのビザを申請してアメリカで就職するかをしっかり考えておく必要があります(※)。

※アメリカの就労ビザの種類、申請に必要な条件などの詳細は書籍『ハリウッドVFX業界就職の手引き』でも詳しく紹介している

カナダやイギリスなどはアメリカよりも就労ビザをとりやすいので、そちらで先に経験を積むのもありかもしれません。毎年グリーンカードの抽選に応募するというのもよいでしょう。焦らずに長い目で見ることが重要だと思います。また海外の文化に慣れることや、同じ業界でのコネをつくるためにも、まずは留学することをオススメします。「しっかりとしたCGの教育をしている大学を出ている」というだけで、レジュメの印象はおそらく良くなると思います。作品を見てもらう前に、レジュメの時点で切られてしまってはもったいないですからね。


お仕事中の稲垣氏

【ビザ取得のキーワード】

1.明治大学大学院、デジタルハリウッド本科を卒業
2.フリーランスとして国内のCM制作現場で経験を積む
3.アメリカのSavannnah College of Art and Designの大学院に留学
4.DreamWorks Animationに就職、OPTで働き始めた後、就労ビザH-1B取得、現在はO-1ビザ

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