>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:映画やアニメへの関心が薄かった少年がハリウッドで活躍するようになるまで 第52回:平井豊和(Mr.X / FX Key Artist)
映画やアニメへの関心が薄かった少年がハリウッドで活躍するようになるまで 第52回:平井豊和(Mr.X / FX Key Artist)

映画やアニメへの関心が薄かった少年がハリウッドで活躍するようになるまで 第52回:平井豊和(Mr.X / FX Key Artist)

<2>「CG制作のプロセスが好き」、キーアーティストはそんな自分にとって適職

――現在の勤務先は、どんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

私が勤務しているオーストラリアのアデレードにあるスタジオは、元々「Mill Film」として、その名の通り映画を中心にVFX制作を行うことをコンセプトにつくられた会社です。特に多様性を重視した雇用を基準としていて、世界各国の様々な人種の人達が働いています。The MillやMPCと並ぶTechnicolor系列の企業で、今年の6月にはMr.Xと合併しました。

昨年の6月に移転したばかりのオフィスからは、ノースアデレードが一望でき、ソファブースやボックスシートなどリラックスできるスペースも充実していて、キッチンのエスプレッソマシンやトースターなどの設備は自由に利用できるほか、週に1度はフリーの朝食が楽しめます。月に1度あるバルコニーでのBBQでは、食事やお酒が振る舞われて社員同士のコミュニケーションに役立ちます。

オフィスはアデレード市内の一等地にあり、ショッピングやレストランに困ることはなく、近隣にゲームセンターやカジノなどもあります。アデレードはオーストラリアで5番目の規模の都市で、東には山々、西には海岸が広がっているので週末にはカンガルーやコアラと戯れたり、青々と透き通るビーチで泳いだりと大自然を堪能することもできます。

入社してしばらくは映画『CATS』の制作に携わっていました。ネットニュースなどでも流布されている通り、完成が間に合わずに公開日からの数日は仮のバージョンを上映するといった未曾有の事態になるほどの激務案件でしたが、日本で勤務しているときにも様々な苦境を潜り抜けてきた経験のおかげで、私は周りの人達ほど苦に感じずに済みました。

今は入社から1年以上が経ち、細かい仕事も含めると既に4件以上の案件に携わっています。そのどれもがハイエンドな映画作品で、世界中で上映されるコンテンツに携われていることを誇りに思います。

――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

「キーアーティスト」というポジションでエフェクトチームに所属していて、ときにはプリプロダクション段階からエフェクトのR&Dをしたり方向性を決めるなどしながら多くの場合ほぼフルスクラッチでセットアップをしています。そもそも映像自体というよりも、CG制作のプロセスが好きでこの業界に身を置いているので、かなり性に合っていると感じます。その上、大抵の場合はクライアントへのプレゼンのために可能な限り見栄えするようスラップコンプまで仕上げるので、その側面も闊達に楽しんでいます。

自分のやりたいことや得意なことを生業にできている現状は本当に恵まれていると思います。

――英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

昔から英語を話すことに対する漠然とした憧れは抱き続けていて、一般的な学校で割りと成績が良いくらいの英語力しかなかったものの、大人になって何度か海外旅行に行った際には、先々で他人に闇雲に話しかけていました。異文化交流が楽しくて、拙い英語でも通じることが嬉しくて、特に必要に迫られてなくても道行く人に声をかけて質問をしたりもしていたので、そうするうちに初歩的な会話の詮術は少しずつ身に着けていたのかもしれません。

急な決断だったため、この海外移住に向けた英語の勉強はあまりできなかったのですが、数回オンライン英会話レッスンを受けてインタビューのイメージを掴みました。実際、インタビュー本番もほとんど聞き取れないまま、概ね「『私達のスタジオでは○○のようなシステムがあるよ』と言ってるのかな」と推測したら「それはすごいですね!」といったそれらしい返事をしたりして無理矢理に乗り切りました(笑)。

そんな拙い英語力のまま移住してきてしまったので、未だにかなり苦労をしています。結局移住してからも週末にオンライン英会話をしたりYoutubeやPodcastなどを利用して改めて英語を勉強しているので、もっと早くビジョンをもって、日本にいるうちに勉強しておけばよかったと少し後悔しています。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします

私は海外で働くことを目標に頑張ってきたわけではないので、私から言えることがあるとすれば「恥を捨てて勇気を出す」ことが大事だということくらいでしょうか。これは仕事にも言語にも通じると思います。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という諺の通り、上司や先輩に無知や無能と思われることを恐れずに積極的に質問をしたり、下手でもいいからSNSなどで作品を発表してみたり、ということが長期的な視点で見ると、スキルアップの一番の近道だと個人的には思っています。

外国人と英語で話すというのも最初は怖くて勇気がいることだと思いますが、いざ世界に飛び出してみると一気に視野が広がって、思いがけない発見をしたり新たな視点で物事が見れるようになったりなどして、数多の新鮮な人生経験ができるので、まずは恥を捨てて勇気を出して一歩を踏み出してみてください。


会社のバルコニーでエフェクトチームの同僚と

【ビザ取得のキーワード】

①法政大学情報科学部を卒業
②中国無錫市で立体映像の技術者として従事
③株式会社トランジスタ・スタジオで経験を蓄積
④Mill Film(現・Mr.X)に就職、就労ビザ「subclass408」を取得

あなたの海外就業体験を聞かせてください。
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連載「新・海外で働く日本人アーティスト」では、海外で活躍中のクリエイター、エンジニアの方々の海外就職体験談を募集中です。
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