>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:ビザの取得に難航し、5年間7社で働くうち巡りあったSIE 第28回:大竹将士/Masashi Otake(SIE / Art & Outsource Supervisor)
ビザの取得に難航し、5年間7社で働くうち巡りあったSIE 第28回:大竹将士/Masashi Otake(SIE / Art & Outsource Supervisor)

ビザの取得に難航し、5年間7社で働くうち巡りあったSIE 第28回:大竹将士/Masashi Otake(SIE / Art & Outsource Supervisor)

<2>SIEのアート支援グループで数多くのゲームタイトルに従事

――現在の勤務先であるSIEはどんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

SIEは言わずと知れた家庭用ゲーム機PlayStationを企画、開発、販売している会社です。また、SIEは多くのゲーム開発スタジオを抱えており、その大半は名前を広く知られる有名スタジオです。しかし、カリフォルニア州のサンディエゴにある、私が所属しているVisual Arts Service Group(以下、VASG)というスタジオを耳にしたことがある人は、ほとんどいらっしゃらないと思います。VASGはサービスグループという名の通り、いわゆるディベロッパーではなくSIEの各開発スタジオへの支援を専門とし、ソニーが内包するアート支援グループであるため、その名が表に出ることは非常に稀なのです。

支援内容はパフォーマンスキャプチャ、アニメーション、キャラクター、背景アート、コンセプトアート、VFXなどなどゲームデザイン以外の多岐にわたり、複数の大規模なモーションキャプチャ・ステージや、最先端のフォトグラメタリーキャプチャ設備は、『アンチャーテッド』シリーズのシネマティックスパートをはじめ、多くのSIEで制作されるゲームの開発に貢献しています。

――現在の役職の面白いところは、どんな点でしょうか。

VASGでは、これまで業界で培ってきた背景アーティストという経験をバックグラウンドに、現在はスーパーバイザーという立場でインゲームやシネマティックスに必要な背景3Dアートの制作の指揮・管理・進行に携わっています。通常の開発スタジオでは、数年単位でひとつのゲームの開発に携わりますが、VASGは支援グループと言うことで、各開発スタジオのニーズに沿って複数のゲームタイトルに従事します。私も同時期に4つのゲームタイトルに携わっていたこともありました。

SIEの各開発スタジオは、統一された汎用ゲームエンジンを使用する例は極めて少なく、各スタジオが独自のエンジンを開発し使用しています。各エンジンの特色ある機能や、各開発チームの異なる手法やビジュアル面のこだわりなどに触れ、多くの知識を多角的に吸収できるのがVASGで働く最大の魅力です。

また、年々ゲーム開発の規模が大きくなり、特に背景アートはアウトソーシングへの依存度がますます増加しています。アジアを中心に多くのベンダーに大きな物量を発注していますが、VASG内部の少数精鋭の背景アートチームをコアに、各発注先で働く何十倍もの規模の人員による成果物のクオリティを如何に効率的に管理するかがキーとなります。SHOTGUNTableau、またSIE独自開発ソフトなど、アセット管理やデータ分析に特化したソフトウェアを駆使し、タスクやスケジュール、作業進捗などの情報を一元化し、また様々な管理データの見える化を推進することで常にゲーム制作の効率向上を図っています。

このようなプロジェクトマネジメントの知識と手法を、これまでアーティストとして培ってきたアートの経験と組み合わせ、開発スタジオひとり当たりの仕事量をクオリティと費用対効果を維持しつつ、アウトソーシングにより何十倍にもスケールアップします。もともと理系脳である私にとって、アート的要素とデータを揃えて理論立ててプロジェクトにアプローチするのは非常に面白いです。

――英会話の習得はどのようにされましたか?

日本の大学を休学し、日本人がいない環境を求めて、アメリカ中西部のイリノイ州にあるコミュニティカレッジ付属のESLに約1年間語学留学しました。英文法やライティングはともかく、英会話はリスニングもスピーキングも全くできない状態で、ESL登校初日に先生から「英語能力のクラス別けテストを受けるように」と言われたのを全く理解できず、そのまま下校したために最下位クラスに入れられてしまいました。

そんな英語能力でしたがクラスメイトに日本人はおらず、アメリカ人家族の下にホームステイし、日系スーパーも日本語のTVもなしという環境で英語漬けの毎日を過ごすことで、まったくできなかった英会話も3ヶ月程度で少しづつ理解できるようになり、ESL課程を終える頃には、少なくともアメリカの大学に入学し授業についていける程度の英語力を身につけることができました。

ところで、「英語で夢を見るようになったら英語をマスターした証拠」と言われることがありますが、私は渡米初日の夜に英語の夢を見ました。英語が全く聞き取れないと言う夢でした......(笑)。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

もしLinkedInに未登録であれば登録し、職場内外で外国人アーティストと接する機会があれば繋がっておきましょう。採用者はLinkedInの候補者リストであなたの名前を検索して、共通の知り合いがいないかチェックする可能性が高いです。アメリカでLinkedInに登録していない業界関係者に出会ったことはありません。

また、就労ビザ取得は簡単ではなく、巡りあわせによるところも大きいですが、能力や努力がなければ巡り損なうこともあると思います。偉そうに言うつもりはなく、私も人生で常に最大現の努力をしてきてはいません。しかし、留学中と就労ビザ、永住権を取るまでの一連の期間はここぞとばかりに夢中でやりました。

いつか海外で、一緒にお仕事をしましょう。


お仕事中の大竹氏。スーパーバイザーとして、インゲームやシネマティックスの背景3Dアート制作の管理に携わる日々  

【ビザ取得のキーワード】

1.Academy of Art Universityに入学
2.卒業後、OTPを利用し複数のスタジオで経験を積みH-1Bビザ取得を目指す
3.サンフランシスコベイエリアの小規模なスタジオでH-1Bビザを取得
4.SIEでグリーンカードを取得

info.

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