>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:映画のCG技術に興味を抱き、研究者としてデジタル・アバターのR&Dに従事 第34回:長野光希(Pinscreen / Principal Scientist)
映画のCG技術に興味を抱き、研究者としてデジタル・アバターのR&Dに従事 第34回:長野光希(Pinscreen / Principal Scientist)

映画のCG技術に興味を抱き、研究者としてデジタル・アバターのR&Dに従事 第34回:長野光希(Pinscreen / Principal Scientist)

<2>スタートアップ企業で最先端のデジタル・アバター技術の研究に従事

――現在の勤務先であるPinscreenは、どんな会社でしょうか?

現在、働いているPinscreenという会社は、USCの教授によるスタートアップ企業です。映画やゲームはもちろん、近年のSNS、VR、オンラインショッピングなど、ますます拡大しているオンラインの世界は、個人を反映した魅力的なデジタル・アバターの存在抜きには議論できなくなりつつあります。そこで会社では、写真1枚から、誰でも簡単にハイクオリティな3DアバターをつくるためのR&Dに従事しています。

――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

今でこそ、大がかりな映画やゲームでは実写のように精密なデジタル・キャラクターが見られるようになりましたが、作成には膨大な労力と専門チームが必要です。素人が指先1つで、2次元の写真1枚から3次元のデジタル・アバターをつくるとなると、全く新しいコンピュータ・グラフィックスやコンピュータ・ビジョンの技術が必要になります。

デジタル・アバターを構成する要素には、顔、髪の毛、体、衣装など様々なものがあり、会社では、そういったものをデジタル化するアルゴリズムのR&Dを主に行なっています。日々新しいものの発見で、そういった研究の成果は、SIGGRAPHなどのトップカンファレンスで発表できることもあります。また会社では、最先端の技術をモバイルアプリに実装しており、その開発も行なっています。

開発の中から新しい研究ネタが生まれることもあり、良いシナジーになっています。最近は、会社の仕事をNetflixのTVエピソードで紹介してもらったり、LA Timesの表紙で取り上げてもらったりすることもありました。スタートアップは、1人1人の手に会社の命運がかかっているといっても過言ではないので、プレッシャーは大きいですが、それ故に感じられるやりがいや、スタートアップならではの圧倒的な開発速度は爽快です。

――英語や英会話の習得は、どのようにされましたか?

アメリカ留学が初めての長期海外生活で、それまでは海外で生活したことはありませんでした。高校までは、いわゆる受験英語を、誰もがやるように勉強していたと思います。よく言われることですが、何かを学習する手っ取り早い方法は、「〇〇を学習せざるを得ないような状況を強制的につくる」ことだと思います。

語学に関わらず、CGに必要なプログラミングのスキルのほとんども、実際にアメリカに来てから学びました。もし準備ができるまで待っていたら一生渡米できなかったと思います。今でも新しいスキルを身につけたいというときは、まずそのスキルが必要になるプロジェクトに手をつけてみるようにしています。

特に語学に関しては、座学で勉強するものの中には、日常や仕事であまり実用的でないものも、かなりたくさんあります。自分の実感としては、渡米してから「少しリスニングができるようになったかな」と実感するまでに2年程かかり、その後「少し喋れるようになったかな」と思うまでにさらに数年ありました。

もちろん今でもまだまだ英語でのコミュニケーションに不自由を感じることはあります。しかし普段はあまり意識しませんが、母国語の日本語にしても「言語をきちんと使う」という観点では、実は完璧に使える人は少ないと思います。なのでまずは使えるレベルを目指して、海外に行ってみることをお勧めします。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

漠然とアメリカに行きたいと小さな頃から思っていましたが、10年前に初めての海外旅行で渡米したときは、何もかもが衝撃的で、12泊の旅行で数千枚の写真を撮り溜めたのを覚えています。もしそのときの自分から見たら、いま自分が海外で働いていることは信じられないようなことかもしれません。

気がつけば、渡米してもうすぐ7年ですが、海外で働くということは何も特別なものではなく、日本で働くのと同じように、結局はただの選択肢の1つでしかないと思います。もしも、何か特別なことがあるとすれば、アメリカをはじめCGが盛んな所には、志の高い人材が世界中から集まってくるということかもしれません。特にCGはまだ歴史の浅い分野なので、歴史に名が残る人物がまだ現役で仕事をしていたり、そのような人に師事してCGを学ぶこともできます。

もう1つアメリカに行きたいと思った理由を挙げるとすれば、大学院から新しいことを始めて、CGを専攻するには「海外のほうがやりやすかった」というのもあるかもしれません。こちらでは今までのバックグラウンドがどうであれ、今の実力で評価してもらえるからです。一度意志さえ固まってしまえば、あとは「乗りかかった舟」です。自分の実力を試したい、海外でCGに携わりたいという人は挑戦してみてはいかがでしょうか。


PinscreenのR&Dチームの同僚と「SIGGRAPH 2018 Real-Time Live!」にて  

【ビザ取得のキーワード】

1.東京工業大学を卒業
2.南カリフォルニア大学博士課程に進学し、F1ビザを取得
3.OPTを利用して、Pinscreenに就職
4.OPTの期間を利用して永住権を申請中

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