>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:渡米から約30年、デジタル移行期のディズニーからWeta Digitalまで第一線で活躍し続ける。 第35回:鈴木松根(Weta Digital / Modeler)
渡米から約30年、デジタル移行期のディズニーからWeta Digitalまで第一線で活躍し続ける。 第35回:鈴木松根(Weta Digital / Modeler)

渡米から約30年、デジタル移行期のディズニーからWeta Digitalまで第一線で活躍し続ける。 第35回:鈴木松根(Weta Digital / Modeler)

<2>Weta Digitalで新たなミッションに取り組む日々

――現在の勤務先であるWeta Digital(以下、Weta)はどんな会社でしょうか?

ここは『ロード・オブ・ザ・リング』3部作、『キング・コング』(2005)、『猿の惑星』リブート・シリーズなどの数々のヒット作品を手がけてきたピーター・ジャクソン監督が設立したVFX会社です。

ピーター・ジャクソン監督は、私が想像していたハチャメチャなイメージとはほど遠く、とても静かで理知的な方でした。以前、夜のシーンでスタンドインをやりましたが、余分な撮り置きをしたりせずに、ご自分の欲しいショットが撮れたら満足して解散。「今日は明け方頃まで帰れないかなぁ」と思っていたら、夜10時には帰宅できて驚きました。監督は自分の頭の中にある映画を、鮮度が落ちないうちに画像転写しているという感じでした。

Wetaが最近手がけている作品は、『アバター』や『アベンジャーズ』など大作シリーズが目白押しです。長年ディズニーでファミリー作品を手がけてきた自分としては、久し振りにピリ辛作品が多く、これはこれで楽しんでいます。

――日本でも話題となった『アリータ: バトル・エンジェル』にも参加されたそうですが、どのような作業を担当されましたか?

基本的にはハードサーフェス系のモデリングです。建物や街中の車両、ロボットアームなどを担当しました。

しかし出社の初日に渡されたのがカテドラル廃墟の資料だったので、苦労することも多かったです。というのも、今までは自分で劇中のモノを想像してモデルにして「コレでいきましょうっ!」とプレゼンして来たわけですが、今回はそうもいかなかったためです。当然ながらクライアントの意向がありますし、すでに撮影ステージでプレート撮りされたショットもあったわけですから。そして、それを今までと全く異なるパイプラインにちがうやり方、新しいプログラムも使ってつくる。正直なところ、慣れるまではキツかったです。

映画『アリータ:バトル・エンジェル』日本オリジナル予告【天使降臨】編
TM © Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved. © Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

――現在のポジションの面白いところはなんでしょうか。

細部が決まっていないモノの制作が来たときに、デザインしながら制作プレゼンできるところでしょうか。久しぶりにメカメカしい題材に携わると、エキサイティングです。また、使ったことのなかったプログラムやパイプラインなんかも面白いです。

――英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

実は、学生時代の友人達が「なんでオマエが英語圏でっ!?」と絶句するほど、英語がダメだったんですよ。もう、ダメなまま渡米して、ホームステイを始めました。ホームステイ先が偶然にも俳優さんの家で、自家用機やらプライベートビーチ、家に馬や孔雀やら......アメリカの凄さを目の当たりにしました。初日の晩に「コーヒーいる?」って聞かれたときも、英語をうまく理解できなかったのを思い出します。

以下の体験談は私の個人的なものなので、誰もができるという保障はないのですが......。

私のホームステイ先はLAだったのですが、大体夕方の4時~5時頃に、TVで昔のくっだらないコメディの再放送が流れるんです。これを、英語がわからないながらも、ダラダラ観るのです。あんまりにくだらないストーリーなんで、なんとなくなにを言ってるのか絵面で想像がつくんです。これをボケ~っと約3ヵ月間観続けると、あるとき突然、ボコッとなにを言ってるか、聴こえて来るんです。私の姉も渡米していたのですが、コレは姉弟共通の体験です。英語は、だんだんと上手くなるんじゃなくて、ある日突然やってくるという(笑)。

この後、今度はニュース番組を見ました。ニュースなので、なにを言うか予想がつかない。しかしこれも観続けていると、約1ヵ月でボコッと内容が理解できるようになりました。そして最後は電話です。これは、自分で受け答えをしなくちゃならないから難しい。でもはじめてから1ヵ月弱で、これもなんとかなるようになりました。

今でも英語は得意な方ではありませんが、皆さんも常日ごろ日本語を外で話すときのことを思い出してみてください。買い物するときに、レジで哲学を語ったりしません。むしろ無言で電光板の金額を見て、お金を払うだけ。会社でも景気動向の分析を語るわけでもなく、ビジュアルで見せる。むしろソコが勝負でしょう。英語はそこそこでも、なんとかなるものです。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

まず「海外で働こう」と考えたときに、多くの人の頭に浮かぶのが次の2つでしょう。

①なんか手続とか大変かも
②英語ができない

①はビザの手続き、アパート探し、銀行口座開設、車の免許、保険、電気/水道/ガス接続など、生活基盤の立ち上げの諸々です。ビザは、まずアメリカに長期滞在できるビザを取得すること。経済的になんとかなるなら、まず最初は学校へ通い、学生ビザ(F-1)を取ってその期間で就職準備を整えることをオススメします。日本にいながら直接応募して就労ビザのサポートを得るためには、ポートフォリオをアメリカの会社に応募して、気に入ってもらえたら、その会社からH1-Bなどの就労ビザを出してもらって渡米。ある程度、日本での実績がある方にはO-1ビザ。受賞歴などがあれば強いです。

生活基盤の立ち上げ手続は、中堅クラス以上のスタジオだと、担当者が面倒を見てくれる会社もあります。逆に言うと、最初はあまり小さい会社をねらわない方が、断然楽です。

②の英語については、当然事前に準備できる事項です。勉強しておくに越したことはありませんが、実際アメリカへ来てみると、全然別モノの感があります。渡米すると日本の授業とは別の感覚で学べますよ。


『タンタンの冒険』でのプリビズ制作風景。Wetaのモーションキャプチャ・ステージにて

【ビザ取得のキーワード】

1.アートセンター・カレッジ・オブ・デザインを卒業
2.イントロビジョン・インターナショナルよりH1-Bビザを取得
3.ドリームクエスト・イメージズでO-1ビザにトランスファー
4.ディズニー・アニメーション在籍中にグリーンカード(永住権)を取得

info.

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