>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:ILMの技術力を支えるR&Dエンジニアとして活躍 第42回:鈴木剛夫(Industrial Light & Magic / R&D Engineer)
ILMの技術力を支えるR&Dエンジニアとして活躍 第42回:鈴木剛夫(Industrial Light & Magic / R&D Engineer)

ILMの技術力を支えるR&Dエンジニアとして活躍 第42回:鈴木剛夫(Industrial Light & Magic / R&D Engineer)

<2>ILMではテクスチャ関係の社内ツール・システムなどを開発

――ILMで勤務されてみて、いかがですか?

ILMはサンフランシスコに本社があります。長年の歴史があり、規模も比較的大きな組織です。業界歴が長く経験の豊富な人が多いので、問題解決能力に優れた人が多いと思います。

プロダクションの体制も比較的安定していて、短期間で大量のショットを仕上げることに大変優れたスタジオです。大規模で強固な製作体制であるが故に、新しいことを試したり、何かを変更したりすることが敏速にできないという側面もあるように感じます。これは大手VFXスタジオである以上、どちらも表裏一体であると思うので、「善し悪し」とはまたちがう話ですね。


K-2SOと

――R&Dを通じて、映画作品のプロダクションにはどのように携わっておられますか?

自分はR&Dを担当しているという関係から、VFXアーティストとは異なり、「特定の映画作品にアサインされる」という仕事のスタイルではありません。しかし、関わったツールやシステムは全てのプロジェクトで使用されることになります。

ときにはエンジニアとして作品のエンド・クレジットに載ることもありますが、どの映画作品も、特にVFXの場合はテクノロジー関係のクレジットの人数枠がとても少ないので、R&Dチームは毎回数人しか載りません。

ILMのR&Dの場合、クレジット枠は基本的に「順番まち」です。特定の作品のためにツールを開発したような場合は優先的に載ることもあります。ILMが担当した全作品をチェックしている訳ではないのですが、自分が知る限りでは、最近の映画で自分の名前がクレジットされたのは『キャプテン・マーベル』だと思います。

――R&D担当として、面白いところは何でしょうか。

現在、ILMでテクスチャに関係する社内ツール、システム関係を担当しています。メインはMariと自社ツールZenoですが、テクスチャペイントのワークフローを構築する上で、カスタムシェーダ、プラグイン、スクリプトを社内でたくさん開発しています。自社パイプラインに乗せるために必要な部分も開発しています。テクスチャはモデリング、カラーマネージメント、シェーディング、レンダリングなどとも密接に関係するので、それぞれの部署との連携も担当範囲です。

以前の会社では、TDとしてアーティスト業務もやっていたので、その頃の経験はR&Dエンジニアになってからも、とてもいきています。自分が担当しているテクスチャワークフローの特徴としては、テクスチャペイントとルックデブの境目が、あまりハッキリと区切られていないところでしょうか。テクスチャペイントはマテリアルを追加&調整することで実現でき、最終的なレンダリング結果がある程度リアルタイムに再現できるようなフレームワークをつくりました。

これらを実現してプロダクションで回していくためには、レンダリング工程から遡ってマテリアルモデル、シェーディングモデル、シェーディングパラメータを包括的にデザインする必要があります。

このシステムは、スター・ウォーズ続3部作(レイを主人公とする、シークエル・トリロジー)の製作が決まった辺りから、大量のアセットを効率的かつ、再利用が可能になるようにデザインされたフレームワークで、ILMのテクスチャ及びルックデブのコア・システムになっています。

――英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

習得していないです(笑)。自分は、アメリカの学校には通わず日本から直接こちらの会社へ就職したので、特に渡米したばかりのころは、本当に英語がわかりませんでした。仕事の上での読み書きは時間を掛ければどうにかなったのですが、ミーティングや日常会話は壊滅的にダメでした。聞き取れないし、発言できない。前述のように、渡米当初の頃は、ただおさんに英語の面でも助けてもらっていました。

会話、特に聞き取りは、慣れと経験が必要だと思います。英語の音に触れた時間が長いほど、聞き取りができるようになると思います。それから、「日本の概念や言い回しが、そのまま英語には置き換えられない」ということを意識すると良いと思います。日常のある場面でどういう言い方や反応をするかは、その国の言語、文化、習慣によって大きくちがいますから、これも現地のネイティブを観察して経験を積む必要があると思います。

日本に居ながら英語の準備をするのであれば、上記のような経験を積める環境を探すと良いのではないでしょうか。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

「海外で仕事をする」という経験は、旅行や留学では得難いものです。間違いなく、自分の人生においての新たな発見に繋がると思います。また、それまで生きてきた環境を再度咀嚼し、客観的な視点をもつキッカケを与えてくれると思います。環境のちがいに適応するのは、様々な意味で若いうちの方がやりやすい(しがらみも少ないですし)と思うので、将来海外に出るのなら、できるだけ早い方が良いと思います。

とは言え、CG/VFX業界への海外就職については、(誰もが同じことを言うと思いますが)人によって向き不向きがあると思います。現在、海外で大量に外国人を雇用しているCG/VFXスタジオは、大きな組織である会社がほとんどです。ILMを含め、支社をいくつももっているような大規模な会社は、その大量の人材と作業量を効率的に運用するために、制作環境がかなりシステム化されています。

その中に入って、与えられた仕事をこなしていくことも暫くの間は良い経験、勉強になりますが、そこから先の「伸びしろ」はあまり多くなく、そこから抜け出そうと思うと、平均以上のコミュニケーション・スキルや政治力が問われることになります。また、制作が分業化されていて、それぞれの役割がかなり深化しているので、様々なことを広くやってみたい方は、少々窮屈な思いをするかもしれません。

海外で働き始めて10年未満で、帰国するか留まるか、少なくない数の人たちが、悩むことになるのではないかと思います。以上のような点はあるにしても、少しでも興味があればぜひ海外に出てみて下さい。キャリアの上では大きくステップアップできると思います。将来、この記事を読んでいただいた方と、どこかで一緒に仕事ができたら嬉しいです。


『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の告知パネルの前で

【ビザ取得のキーワード】

1.東京工芸大学 大学院を卒業
2.国内スタジオで経験を積む
3.渡米し、ESCにてH-1Bビザを取得
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info.


『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
12月20日(金)全国公開
starwars.disney.co.jp/movie/skywalker.html
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