>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:MBA取得を目指していた社会人時代から一転、「本当にやりたいこと」のため米国へ 第44回:神崎麻美(Jr.Designer / AppLovin)
MBA取得を目指していた社会人時代から一転、「本当にやりたいこと」のため米国へ 第44回:神崎麻美(Jr.Designer / AppLovin)

MBA取得を目指していた社会人時代から一転、「本当にやりたいこと」のため米国へ 第44回:神崎麻美(Jr.Designer / AppLovin)

<2>留学後、2度目のチャンスを掴みAppLovinに就職

――留学時代の話をお聞かせください。

28歳のとき、仕事を辞めてアメリカへ再び渡りました。私が留学した頃はドルが高めで、社会人時代の貯金で無事卒業できるか、常にハラハラしていました。自分がアメリカ人ならビザの心配もないし「ピクサークラスだけ取るのに......」と、そんなことを思いながら留学生活はスタートしました。でも実際は、全部の授業に良い思い出があります。

よく聞かれる質問ですが、1番心に残ったクラスは何かと言うと、実はピクサークラスではないんです。AAU最後の年、私が慕っていた外部講師の方が特別にシークレットクラスを開講することになり、そこに私も運良く参加させてもらいました。先生が監督となり、同級生数名と「1学期で2つのショート・フィルムをつくる」と言う、信じられない程タイトなスケジュールのクラスで、制作は困難を極めました。口論になることもありました。それでも何とか完成したときの達成感を、私は忘れることができません。喧嘩しながらも、相手の強い気持ちやこだわりを知ることで、私もいっさい妥協したくないと初めて心から思えました。そのときの皆とは今でも仲が良く、今度はプロとしていつか一緒に仕事をするのが私の夢です。

――海外の映像業界での就職活動は、いかがでしたか?

アメリカでは、2社で働いた経験があります。在学中はTonko Houseでインターンをさせてもらいました。プロのアーティストと一緒に仕事をするのは初めての経験だったので、見るもの聞くもの全てが勉強になりました。AAU卒業後、すぐAppLovinに就職しました。私の場合はラッキーなケースかもしれませんが、どちらも有難いことに先方から「一緒に働いてみませんか」と連絡をいただきました。

就職したAppLovinはフルタイムのポジションなので、面接前に実技のテストもありました。実は私はテストの時点で1度落ちてしまってるんですね(笑)。内容はAfterEffectsで広告をつくるというものだったんですが、AAU時代はMaya以外のソフトはろくに使えませんでした。

そんな状態なので1度目は不合格でしたが、その後、再度チャンスをいただき入社できました。慣れないないソフトでテストをパスできるか不安でしたが、アニメーションに関してはプリンシパルを知っていれば、作業自体は同じなので乗り越えることができました。

――現在の勤務先は、どのような会社でしょうか?

AppLovinは、世界中の人々に高品質なゲームを発信するモバイルゲームのデベロッパーを包括的にサポートしている会社です。アーティスト以外にもエンジニアやマーケターなど、異なるスキルをもった人たちが多数在籍しています。

私自身の主な仕事内容は、モバイルアプリの広告制作です。ユーザーに興味をもってもらえるよう、チームの皆と相談しながら日々作業しています。この業界はスピードが命なので、現場のペースは早く、毎日が一瞬で過ぎます。皆オンオフの切り替えがうまく、段取りの良さやチームワークなど見習うところががくさんあります。

入社面接で「なぜここで働きたいの?」と聞かれ、「頭のいい人たちと働きたいんです」と答えました。マネージャーには爆笑されましたが、私は大真面目で、頭の中には高校生のときに読んだ、あのピクサーの記事が浮かんでいました。「世界中の天才エンジニアが集まるITバブルの中心サンフランシスコで、優秀なメンバーたちと仕事がしたい。自分もアーティストとして成長したい」と強く思っていました。それが叶って嬉しいと同時に、周りに置いて行かれないよう努力し続けたいと思っています。

――英語の習得は、どのようにされましたか?

英語のレベルに関わらず、CG関連の英語は慣れない方が大半ではないでしょうか。私が日々意識しているのは「完璧」を目指すのではなく「必要分」から吸収していく、ということです。学校や職場での会話の中で、何度も出てくる言葉をメモして家で発音を練習し、翌日なるべく使う。シンプルですが今でも繰り返している方法です。

――将来、海外で働きたい人へアドバイスをお願いします。

よく聞くアドバイスかもしれませんが「行ってみたら、なんとかなる」というのは本当だと思います。海外で働いているアーティスト「全員」に唯一共通することは、「海外に行ってみたい」という気持ちを行動に移した点です。

当たり前に聞こえますが、意外とここで思い留まっている人は多いのではないでしょうか。行くとさえ決めてしまえば、正直、その後の困難はどれも乗り越えられるものばかりだと思います。優先順位をはっきりさせること、そこに向けて逆算して行動すること、それができればどんな人にも海外で働くチャンスはあると思います。


サンフランシスコオフィスにて

【ビザ取得のキーワード】

①日本の4年制大学を卒業
②留学後、STEM領域の学位取得(※)
③OPT、STEM OPTを活用し、現地企業に就職
④H-1Bビザを申請準備中

※OPT(オプショナル・プラクティカル・トレーニング):アメリカの大学を卒業すると、自分が専攻した分野と同じ業種の企業において、実務研修を積むため1年間合法的に就労できるオプショナル・プラクティカル・トレーニングという制度がある。STEM分野で学位を取得すると、OPTで3年までアメリカに滞在することができるので、留学先の学校に確認してみると良い

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