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映画『ジヌよさらば~かむろば村へ~』

映画『ジヌよさらば~かむろば村へ~』

03:心象風景をVFXで作り出す
変形するキャッシャー

シーンにVFXが溶け込んでいるクオリティの高いインビジブル・エフェクトが多い本作だが、武晴がお金を手にしたときにキャッシャーが変形する幻覚を見るショットでは、大胆なVFXが使われている。

このショットはアニマロイドが担当した。「このショットを作るにあたって、監督からは現実にはあり得ないような、主人公が我を失った感じを表現したいというイメージをいただいていたので、キャッシャーの底が落ちていったり、ねじれていくような感じなど、いくつかサンプルを作って監督に提案しながらイメージを探っていきました」とCGディレクターの戸田貴之氏は語る。

ショットの方向性が決まった後も、貨幣の動きや見え方などに監督から細かい要望があったため、5パターンくらいを作成し監督に選んでもらいながらブラッシュアップしていったという。

貨幣のモデルは、写真撮影した素材を利用してモデリングを行い、ノーマルマップを作成することでシワや凹凸をリアルに再現している。キャッシャーの変形は3ds Maxでデフォームを使って変形し、硬貨の動きはパーティクルで付け、目立つ硬貨についてのみベイクして置き直しているという。

「3ds Max 2014から搭載されたParticle Flow Tools: Boxでフィジックスのシミュレーションができるようになったので、コインとキャッシャーに当たり判定を設定して干渉しないようにしたり、様々なテストをしながら動きが自然になるようにしています」とテクニカルディレクターの今宮和宏氏は語る。

▲(左)モデリングされた貨幣モデルのワイヤーフレーム。非常に細かいメッシュで構成されている(中)貨幣のモデルにノーマルマップを適用したもの(右)貨幣のテクスチャを貼ってレンダリングしたもの

▲(左)キャッシャーを変形させたモデル(中)キャッシャーを上から見た状態。貨幣の見え方など細かく調整されている(右)シェーディングされたキャッシャーのモデル

キャッシャーのレンダーパス

  • ▲全体のマスク

  • ▲アンビエントオクルージョン素材

  • ▲ディフューズ素材

  • ▲イティング素材

  • ▲キャッシャー部分をマスク分けした素材

  • ▲ノーマルマップ素材

  • ▲デプス素材

  • ▲ビューティ素材

シーンのショットブレイク

  • ▲シーンの基になる実写プレート

  • ▲キャッシャーの受け皿のみをCGに置き換えたもの

  • ▲貨幣のCGを追加

  • ▲色調補正を行なったもの

▲完成ショット

松尾ワールドを支えるVFX
04:蹴られてへこむGTR

松尾監督独特の演出を表現するために、細かいところでVFXが使用されている。

蹴られてへこむGTRのドアも、実車をへこますわけにはいかず、車の側面をCGに置き換えてショットを制作している。ドア1枚だけをCGに置き換えてしまうと色合わせに手間がかかるため、側面全体がCGに置き換えられた。

ボディの映り込みや人の影は、実車プレートに映りこんでいるものを切り抜いて利用しているという。ボディの文字も、ドアがへこんだときに一緒にへこまないと見た目としておかしいので、テクスチャで差し替えられた。

  • ▲へこむ前のモデル

  • ▲へこみを付けたモデル

  • ▲へこむ前のレンダリング素材

  • ▲へこんだ後のレンダリング素材

  • ▲実車プレート

  • ▲ドア部分のCG素材

▲下半分をCG素材で置き換えた完成ショット

頭にヒットする弁当箱

かむろば村の村長、与三郎が投げた弁当箱が多治見の頭にヒットするショット。

実際に弁当箱を投げているのだが、弁当箱がフレームから見切れたところからCGの弁当箱に置き換えられている。2D素材を単純にアニメーションさせているのではなく、地面に落ちたときのアクションも考慮して3DCGを使ってアニメーションされている。

  • ▲実写プレート

  • ▲モデリングされた弁当箱のモデルデータ

▲完成ショットを一部拡大したもの。弁当箱のひもの挙動は、2Dで細かく描かれている

森から飛び立つ大量のカラス

森から大量のカラスが飛び立つショットは、予定では実写でやることになっていたが、ロケ現場周辺にカラスが生息しておらず撮影できなかったため、カラスをCGで作成し実写プレートに追加している。

カラスは遠方で飛んでいるだけなので、ラフにモデリングしたモデルが利用された。なお、このカラスの飛ぶ軌道は全てモーションパスで作成しコントロールされている。

  • ▲実写プレート

  • ▲手前の森だけをマスクした素材

  • ▲カラスのモデルデータ

  • ▲アニメーション付けはMayaを使ってモーションパスで動きをコントロールしている

▲完成ショット

人里離れた温泉を作り出す

本作で制作されたVFXショットは約100ショット。

下のような温泉もVFXによって作品の世界観に合うように加工されている。このほかにも引きずられていく人物の下に敷いた台車を消したり、当たっていない棒をいかにも当たっているように加工したりなど、一見わからないが多くのショットにVFXが使用されている。

「VFXであることが観ている人にバレてしまったら、がんばってくれている役者さんの演技を殺してしまうことになります。本当に細かいVFXが積み重なってできている作品です」と藤原氏は言う。

▲温泉の実写プレート

▲実写プレートの左側にある建物を消すために別撮りされた樹木の素材

▲完成ショット

Information
映画『ジヌよさらば~かむろば村へ~』
4月4日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督・脚本・出演:松尾スズキ/出演:松田龍平、阿部サダヲ、松たか子、
二階堂ふみ、西田敏行 ほか/原作:いがらしみきお
『かむろば村へ』(小学館 ビッグコミックス スペシャル刊)
/企画製作:キノフィルムズ、グリオ/制作プロダクション:シネグリーオ
/配給:キノフィルムズ
©2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会
www.jinuyo-saraba.com

TEXT_大河原 浩一(ビットプランクス)

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