<4>ファンタジー世界をアーティストのアイデアで構築する
異空間に浮かぶチャグム
下のシーンは、チャグムがナユグの谷底のような空間に浮いているシーンだ。チャグムを中心にカメラが回り込んでいるようなカメラワークのショットになっている。通常このような撮影では、俳優の周りに360度カメラドリー用のレールを敷いて撮影するが、本作では役者を回転台の上に乗せ、その回転台を回して撮影している。
背景はNUKE内に球体を作成してそこに背景用素材をマッピングし、カメラワークが合わせられた。このような現実にはないファンタジーの空間映像を制作するためのアイデアはどのようなところから発想しているのだろうか。
有田氏によれば「このような誰も見たことがないような映像は、それぞれのアーティストが持っている引き出しの中からアイデアやスキルを持ち寄って具体的な素材をつくりながらルックを検討しています」とのこと。
▼ナユグの異空間に浮かぶチャグムのショット
▲作成された背景素材をNUKE内の球体メッシュにマッピングし、チャグムの素材を中心にしてカメラを回転させている
▲完成ショット
<5>マットペイントやセットエクステンションによるシーン構築
マットペイントによる世界観構築
下はアジア的な山岳地帯というイメージから制作されたマットペイントだ。山々から数多くの滝が流れ落ち、幻想的な風景が作り出されている。風景を構成している滝は全て実写から構成されており、九州などの各地にある滝を撮影した素材を組み合わせて実現されている。一番奥にある山脈もヒマラヤの映像をレタッチしてディテールアップしたものだ。この滝のマットペイント素材は、ショットごとのパースに合わせてNUKE内で配置し、窓外の風景に使用されている。
▼山岳風景のマットペイント
▲様々な滝素材をNUKEでコンポジットする
▲マットペイントを作成するために撮影された滝の映像の一部。多くのバリエーションの滝が実写素材として使われている
▲非常に多くの実写素材を組み合わせて作成されたマットペイントの完成画像
セットエクステンション
下は、橋のセットエクステンションの例だ。途中まで作成された橋のセットをマットペイントによってエクステンションさせている。背景の川と川岸は、実写素材を使ったマットペイントによるものだ。主人公たちが暮らす実世界のシーンで使われている。
このようなマットペイントによるセットエクステンションは、大河ドラマなどでも多く使われているが、4K解像度でのセットエクステンションは作業的な負荷が大きく、HD解像度での制作に比べると簡単にはいかないという。ちなみに橋を渡る人物のうち、奥に位置する人物は3DCGで作成したデジタルダブルが配置されている。
▼実世界の橋のシーンのショットブレイク
▲カラーグレーディングが施された完成ショット
TEXT_大河原浩一(ビットプランクス)
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放送90年 大河ファンタジー『精霊の守り人』
3月19日(土)夜9時からNHK総合にて放送(連続4回)
演出:片岡敬司/脚本:大森寿美男/原作:上橋菜穂子(『精霊の守り人』ほか「守り人」シリーズ全12巻 偕成社刊)/出演:綾瀬はるか、小林 颯、東出昌大、木村文乃、高島礼子、平幹二朗、藤原竜也、ほか/制作:日本放送協会/©NHK
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