>   >  VFXアナトミー:関門PRムービー『COME ON! 関門!』(VFX制作:NISHIKAIGANほか)
関門PRムービー『COME ON! 関門!』(VFX制作:NISHIKAIGANほか)

関門PRムービー『COME ON! 関門!』(VFX制作:NISHIKAIGANほか)

<3>アニメーション&ショットワーク

良い画づくりの秘訣は楽しみながら困難に立ち向かうこと

本作の全体尺は約2分30秒。そのうち、カイセンドンが登場するVFXショットは15であった。ただし、クライマックスのカイセンドンが転倒するショットは40秒近くの長尺のため、アニメーション作業は、転倒するショットを福沢翔太氏が一手に引き受け、それ以外のある意味での正統な巨大怪獣の動きを、菊池愛理氏が担当という2名体制で臨んだという。「ここまで巨大なキャラクター(公式の設定では身長229メートル)を動かすのは初めての経験だったのですが、楽しく作業させていただきました」(菊池氏)。「転倒するショットについては、江口監督ご自身を実演されたリファレンス動画を提供いただけたので、そちらを見ながら動きを付けていきました。監督のこだわりが込められた迫真の演技だったので、動き出しのタイミングはそちらにしっかりと合わせた上で、怪獣の巨大な感じや重量感も出るようにブラッシュアップしてきました」(福沢氏)。カイセンドンが転ぶショットは、カメラのレンズが広角ということもあり、レンズに近くなると歪みが大きくなるため、腕や触手をあまり手前にはもってこれなかったことに苦労したそうだ。

海面の水飛沫に加えて立ち上がったときにしたたり落ちる水などの流体表現を白組のアーティストがHoudiniで作成したという。スケールの大きなエフェクトが求められたため、シミュレーション、レンダリング共にデータヘビーな作業になったようだ。「AnimationCafeさんに出荷していただいた作業データをライティング設定や海面の映り込み処理等をセットアップした後、V-Rayでレンダリングしました。レンダーエレメントは、基本のものが10パス。あとはショットの状況に応じて追加パスも書き出しました」(沼沢氏)。コンポジットワークでは、NISHIKAIGANの助っ人としてフリーランスの加藤泰裕氏が参加。NISHIKAIGANのコンポジター1名とふたりがかりで全ショットの作業を行なったそうだ。「撮影現場のリファレンスとして、魚眼レンズで撮影したHDRIに加え、ロケーション参考の写真を多数撮ってもらえていたのが役立ちましたね。また、ロトスコープについてはポストプロダクションを担当されたU2さんに作業していただきました」(加藤氏)。今回の取材で印象的だったのが、インタビュイーが一様に「楽しかった」と口をそろえたことだ。「こんなにしっくりきたチームは初めてと言っても良いくらい。自分の想像の超えたクオリティのものが上がってくることが多く、スタッフに恵まれたと改めて思いますね」(須永氏)。楽しみながら苦労をすることが、魅力的なクリエイティブを創り出す秘訣なのだ。

カメラトラッキング作業の例



  • SynthEyesによるトラッキング



  • 3DEqualizerによるトラッキング。基本的にはSyntheEyesを使い、ズームレンズで撮影された特殊なショットに対して3DEqualizerを用いたという


海中から立ち上がったカイセンドンのファーストカットのアニメーション作業例。クライマックスのコミカルな動きとのギャップを高めるべく、巨大な生物らしいゆっくりとした迫力のある動きが追求された


本作最大の見せ場となる、カイセンドンが関門海峡の潮の流れの速さに思わず転倒するショットのHoudiniによる流体シミュレーション。転んだときに上方へ大きく立ち上がる水飛沫については、波のシミュレーションとは個別に水柱だけでシミュレーションをかけ、水柱、飛沫、水煙の3要素に分けてボリュームをもたせている



  • NUKEによるコンポジット作業の例



  • V-Rayでレンダリングした主要レンダーパス。左上から順に、rgba、multimatte(目)、reflect、lighting、multimatte(本体と口部分の触手)、shadow、specular、velocity、xyzWPP。これらに加えて、ショットに応じてnormalやPoint Position等のパスを追加で書き出している

Point Positionとnormalパスを用いたリライティングの例。撮影素材に合わせて影などの調整が行われた



  • Pointo Positionパスから追加のマスクを作成



  • 左上から、カイセンドンのCGアニメーション、実写プレート、U2から提供されたマスク素材、合成結果。Point Positonパスは顔や腹部といった特定部位のカラコレにも利用されている



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.226(2017年6月号)
    第1特集:劇場アニメ『BLAME!』
    第2特集:映画『バイオハザード:ヴェンデッタ』

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2017年5月10日
    ASIN:B06ZYQP5WN

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