<2>アセット制作
大量の触手のセットアップとシミュレーションに苦しめられる先述のとおり『海峡怪獣カイセンドン』のモデリング、セットアップ、ルックデヴといった一連のアセット制作ならびにキャラクターアニメーションは、Cafeグループを構成するModelingCafeとAnimationCafeが手がけている(一連の進行管理はAnimationCafeの金城侑香コーディネーターが担当)。まずは森田氏から提供されたコンセプトモデルに対してZRemesher(ZBrushの自動リトポロジー機能)を適用し、全体を手早くまとめたという。「この途中段階のモデルを提供してもらい、われわれの方で同時並行でレイアウト作業を行いました」とは、NISHIKAIGANの沼沢良典VFXディレクター。ひとえにスケジュールがタイトであったことへの対応策だったというが、ここで全体的なスケジュールについてふれておく。今年1月に企画がスタート。江口監督が描いた演出コンテを下にロケハンを実施し、2月1日(水)と10日(金)の2回に分けて実写撮影が行われた。それとの並行でカイセンドンのデザインワークとアセット制作が進められたというわけだ。
実はアニメーション作業が始まった後にモデル修正が発生したという。「元の形状では演出内容に合ったアニメーションが難しそうだったので関節部分の修正などを行いました。腰まわりもツイストできるようにしたりといった調整も行なっています」(坂上千穂モデラー)。なお、一連のモデル制作には坂上氏のほかに、ModelingCafeの北田栄二モデリングSVならびに北野修平モデリングSVも携わっているとのこと。テクスチャについてはZBrushのPolyPaintで作成。脚の寄りのショットはマットペイントも併用して描き込んでいるという(ModelingCafeの小池新太郎氏が担当)。スケジュールの都合上、ある程度モデルが仕上がったところでセットアップに着手。「最初の4日間で粗方仕上げたものをアニメーターに渡して、NISHIKAIGANさんからレイアウトが上がってきているショットから順次アニメーション作業を進めてもらっていました。リグについては、自分の個人的なストックの中から怪獣の動きに向いているものをカスタマイズしています。細かなところまでやりはじめるとキリがないので、目立つ要素に絞ってまとめていきました」(岡田博幸CGスーパーバイザー)。セットアップで悩まされたのが、触手の口や胴体に配された触手の数の多さに苦労しめられたという。「触手、基本的にはnHairのシミュレーションで自動で動く揺れのしくみを作成し、手付けでカスタマイズもできるようにつくりました。けっこうな本数なのでなかなか大変でした(苦笑)。触手の動きについては、基本的にはボーンベースでシミュレーションをかけています」(岡田氏)。そのほかにもアニメーション作業が始まったタイミングで、「怪獣を吠えさせたい!」という追加の監督リクエストもあったとか。「さすがに想定外でした(苦笑)。そもそもモデルの構造的に口を開閉させることができなかったので、スケジュール的に許される範囲で調整しました」(岡田氏)。
「海峡怪獣カイセンドン」モデルの変遷
コンセプトモデル。モデルデータを流用するのではなく、あくまでもビジュアルのリファレンスとして活用したという
主要テクスチャ
カイセンドンのリグ
フェイシャルリグ。「口部分のみ、カニの脚のような部分のコントローラを仕込みました。触手部分は簡易的に手付けでアニメーションできる骨が仕込まれており、その動きとプラスしてnDynamicsでシミュレーションができるようにセットアップしました。体の触手にも同様の仕込みを施しています」(岡田氏)
途中段階のモデルを使い、NISHIKAIGANが作成したレイアウトより。これらを基にアニメーション作業が進められた(余談だが、グレーディング等が施されていない素の実写プレートが興味深い)