02 アセット制作&アニメーション
監督が思い描いたビジュアルを阿吽の呼吸で発展させる
一連のCG・VFXワークは、犬童氏が全体を監修しつつ、主に実写空間シーンをリード。そして銅版画シーンは斉藤壮平氏がリードするかたちで、各々4~6名のチームで作業が進められた。実写空間シーンはHoudiniと3ds Maxで、版画シーンはMayaベースで作成された。プリプロダクションと並行してアセット制作をスタート。既存のモデルを本作向けに加工したりしながら用意された。
実写空間シーンのトラッキングについて。撮影現場のフォトグラメトリーやサイバースキャンはあえて行わずに、現場に貼ったマーカーをターゲットにSynthEyesでトラッキングしている。マーカーは、Null値をFlameアーティストに渡して消してもらっている。「しっかり計測してSynthEyesで物と物の距離の数値を入れ、どのカットでも矛盾がないようにしています。原点を決めてそれぞれの位置を計測して値を入力しており、今回、マーカーのXYZを5ポイントも設定すれば、そこそこバチっと合いました。HDRIを原点から投影するとピッタリくるようになるまで追い込んでいます。写真ベースでスティッチする方法より、今回はこの方が精度が高いだろうと判断しました」と、犬童氏。
ユニークなアセットとしては、本編の中盤に登場する、中林忠良氏の銅版画2作品をスキャンしたものが挙げられる。「元の版画作品は解像度が実はとても大きくて、情報量も圧倒的に多く、そこで情報量の差が出てしまうのではないかと心配していましたが、密度のあるパーティクルなどを上手く使い、リプルもダサくならず、センスよく斉藤くんが仕上げてくれました。実のところ、このシーンは苦戦すると思っていたのですが、嬉しい誤算でしたね」と、辻川監督も絶賛する。「絵の線とか点とかはいったん消して、要素をバラして3Dで再構築し直しています。ぐるぐる回すのも、かなり効いたかなと。上手く絵画的な表現になったかと思います。全体的にはあくまでも、版画の元の世界観を壊すことなく、かつチープにならないように、詰め込みすぎないように気をつけていました」と、斉藤氏はふり返る。
一方、主となる実写空間シーン(本作のアートディレクターを務めた柳町建夫氏の新オフィスで撮影)のアニメーション作業では、3D的にレイアウトを詰める必要があった(=調整要素が複雑、多岐にわたる)ため、絵画シーンよりも自ずと作業が難航したという。「物の出現、消失のタイミングは、ほんの数フレームで印象がガラっと変わるし、犬童くんが、感覚で上手く動かしてくれた。センスです」と、辻川監督。「結局、深度も入れてみないと最終イメージがなかなかつかめず、位置関係やサイズ感も明確ではなかったので、制作中は終始不安でした。ようやく見通しがついたのは最終週でした。『あー、こうなるんだって(笑)』」と、犬童氏はふり返る。未知なる表現への道のりはいつでも険しいのだ。
ボーカルとシンクロするネックレスの完成モデル
Houdiniでによるネックレスのセットアップ。(画面・左)DOP Network。wire solverがネックレスの物理的な挙動をシミュレートし、並列にあるsop solverがヘッドの軌道(手付けアニメーション)に沿う動きを担う。(画面・右):sop solver内のVOP Network。ヘッドに近いほど軌道に沿う動きが強く、ヘッドから遠いほど物理的な挙動になるように制御している
その他の小物アセットの例。(左)レンダリングイメージ/(右)メッシュ表示。ドラムはフォトフレームや鍵といった金属製の物、シンセサイザーはコーヒー(カップ)やタバコ&煙、ガラス製の香水ボトルといった具合に、各音像に合わせて用意された
シンセサイザーの音像を表現するコーヒーや香水ボトルは、音の伸びや震動に合わせて流体シミュレーションのセットアップが施された
【上段画像】実物を棒の先に付けて撮影したリハーサル動画のキャプチャより。(左)冒頭カットのピアノの音像に合わせたサイマティクス(cymatics)的な表現のレイアウトガイド/(右)辻川監督自身によるネックレスの演技リファレンス/【下段画像】リハーサルに相対する各々の本番用実写プレート
冒頭カットのSynthEyesによるトラッキング作業例
Houdiniによるアニメーション作業例。小物系アセットをdelayedloadで配置し、アニメーションさせている
【上段画像】最初に登場する1つめの銅版画パートのブリッジとなる撮影プレート(左)と、撮影用美術のスキャニングデータを基にMayaで作成した3Dシーン(右)/ 【下段画像】同様に後半に登場するギターパート用の銅版画シーン向け撮影プレート(左)と、3Dシーン(右)