03 エフェクト、ライティング&コンポジット
監督はバンドマスター、デジタルアーティストは奏者
CG・VFXワークは約1ヶ月。途中チェックは3回行われたが、1回あたりの打ち合わせは非常に細かく行われたため、4~5時間を要したという。「他のチームだと、あと10回リテイクしてもこうはならないと思う。いろいろ汲み取って、自主的に進めてくれる犬童くんのチームだからこそ応えてくれたと思います」と、辻川監督はふり返る。
エフェクトについて。溶けるものに関してはパーティクルでつくって、質感やUVなどをそれに与えて溶ける前のオブジェクトと乗り換えるなどしている。波エフェクト等はHoudiniで、メッシュをしっかり細分化して作成。ひとつマスターとなるしくみを作成し、それを流用するかたちで作成。また、版画の箇所のリボンだけClothシミュレーションも使用されたが、物理シミュレーションの要素をさりげなく加えることでそのショットのクオリティがグッと上がるのだと、犬童氏。また、3DCGのレンダリングは、Houdiniによる表現にはMantraを使用。これまでMARKでは、Houdiniで作成したデータをAlembic形式で3ds Maxに読み込み、V-Rayでレンダリングすることが多かったそうだが、今回は最初からMantraでやるつもりだったという。「特にvelocityの受け渡しが気になったので。アトリビュートを抜き出してやればできるんですが、今回はそのままMantraでやることにしました」(犬童氏)。一方のMayaベースで作成した銅版画パートは、V-Rayとソフトウェアレンダーを併用しているとのこと。レンダリングは32bitのOpenEXR形式を採用し、データ上の劣化が生じないように配慮。ただし、After Effectsでマルチチャンネルを扱うと動作がかなり重くなってしまうため、最終的には素材を各要素にバラしてコンポジット作業で詰めたそうだ。「一見地味に見えますが、多くのレンダーエレメントを書き出しています。いずれも不可欠の要素でしたので、プロの方にご覧になっていただくと非常に細かい処理を随所に施していることをわかっていただけるかと。プロデューサーとしては、犬童ができるだけ作業に集中できるようにスケジュールを組むことを心がけました。MVの制作はスケジュールがタイトなのが常ですし、本当に難易度の高いプロジェクトでしたが無事に終わって良かったです。ぜひ、何度もくり返し観てください。ジワジワと伝わるものがあるはず」とは、貞原能文氏。
最後に、辻川監督が独特の表現でプロジェクトを総括してくれた。「今回は、バンドとして演奏したものを一発録りしたような感じでした。生演奏特有の、コントロールしきれない部分がかえって良かったのかなと。それぞれが音に合わせて作成してガッチャンコするのがセッション的で楽しく、それが音像に合わさって、上手く融合した気がする。ヒエラルキーが良い感じに散るので、自分が予想していなかったところに散る感 じがカオティックで有機的な作品に仕上がったのかな」。
特徴的な音像である「トレモロ(奏法)」の可視化というコンセプトで作成されたエフェクト作業の例。部屋に配置した家具に波紋エフェクトを施している
サイマティクス(cymatics:流体、粒子等の物体による音の可視化)がコンセプトのエフェクト作業例。(左)HoudiniによるシミュレーションのR&D。WrangleノードによるVEX言語での実装/(右)サイマティクスが出現する冒頭カット。最終的には2次元でのR&Dを応用して、立体的な模様が生成されるように3次元的なサイマティクスを実装した
鍵が溶けて消えるエフェクト作業の例。(左)POPnetwork/(右)メッシュ化した状態
水銀が弾けるエフェクト作業の例。(左)POP Network/(右)メッシュ化した状態
実写プレートに対するHoudiniのライティング設定。(左)部屋のモデルに撮影したHDRを貼り付けたシーンファイル/(右)撮影素材に合わせて、家具や小物に影響するライトを配置したシーンファイル
実写空間シーンのブレイクダウン
ラコレを施したコンポジットとしての完成形(グレーディング処理前)
銅版画シーン(1つめ)のブレイクダウン