<3>ショットワーク
リードスタジオとして新境地を開拓したKhaki
Khakiでは、普段のコンポジット以降の作業は本編集チーム(Flame)とCGチーム(AE)に分かれている。しかし今回、ショット数の多くを占める鬼を中心とした3DCG要素のコンポジットにはNukeを導入することにした。Nukeを本格的に導入するのは今作が初だったため、SVとしてフリーランスの吉川辰平氏が参加。吉川氏にアドバイスをもらいつつ、ACESシーンリニアワークフロー、CGはlogファイルでの作業という形態になったという。
ロトスコープは、カンボジアのKhaki子会社と、ANNEX DIGITALが担当。トラッキング作業は主にSyhthEyes(一部にBoujou)を使用、Khaki内では平井美潮氏が一手に引き受けたという(難易度の高いオブジェクトトラッキングはフリーランスの加藤泰裕氏も協力)。なお平井氏は、鬼の登場する門や図書室のシーンのセットエクステンションも担当している。「トラッキング用のマーカーを設置したり、HDRI撮影(RICOH THETAZ1)など、何度か撮影現場へ行くタイミングがあって、並行して実作業もするのはなかなか大変でした。それでも、大勢のスタッフと絡むことは今まで少なかったので、良い経験になりました」(平井氏)。「太田を中心に若手メンバーでやりきってくれたので、とても有意義なプロジェクトになりました。自分たちベテランはサポートに徹していたのですが、僕自身はコロナ禍によって実写案件が2ヶ月ほどストップしていた期間を利用し、Blenderを勉強して後半に出てくる壁のVFXを一部担当させてもらいました。新しいツールを習得するのはいくつになっても楽しいですね!」とは、Khaki代表取締役で本作のVFXプロデューサーを務めた水野正毅氏。
最後に、太田VFXスーパーバイザーが総括してくれた。「VFX制作者として映画に対する憧れを抱いていましたが、いざスタートするとそれどころではありませんでしたね(苦笑)。実は、Cafeグループの佐藤(大洋)さんは私と同年齢なのですが、映画VFX制作を経験されていたのでいろいろと相談にものっていただきました。そのほかにも多くの方々に助けていただきました。コロナ禍の影響もあって、当初の予定よりも制作期間が長くなったのですが、モチベーターとして推進力になり続けることが使命だと思い、ふんばりました。今後も果敢にチャレンジしていきたいです」。
ライティング
▲鬼が登場するカットのライティングは、Cinema 4Dのシーンに鬼のデータを配置し、GPUによるバイアスレンダラRedshiftを使ってリアルタイムでライティングの具合を探りながら設定を進めた
ブレイクダウン
主人公たちがトラックの下から鬼を見るカットのブレイクダウン
▲マスク
▲演出のため用意したLens Distortion
▲完成ショット
ブレイクダウン
クローネ(渡辺直美)が鬼に掴まれるカットのブレイクダウン
▲Nukeによるディープコンポジティングの作業
▲完成ショット
コンポジット
巨大な壁を前にする主人公たちのシーン。リソースが足りなかったため、コンポジット班が壁素材を貼り付けて対処する予定だったが、草木が複雑に絡み難航。様々なテストの結果、Blenderの有料アドオンScatterの仕上がりが良いと判断。コンポジット班はイチからBlenderを学習、今作で試験的に導入したが、物理ベースのレンダラEeveeが非常に軽く、コンポジットチームも違和感なく使用できたという
▲Blender+Scatterによる作業
トラッキング
▲図書室のシーンでは、セットに天井がないため、CGによるエクステンション作業が必要となった。まずはSynthEyesで撮影プレートのトラッキングを行なった
エクステンション制作
トラッキングしたデータを利用して行われたエクステンション制作
▲トラッキングデータをCinema 4Dで展開、ガイドオブジェクトを配置
▲ガイドオブジェクトに合わせて拡張部分のモデルを配置
▲張部分のモデルのみをRedshiftでレンダリングした結果
ブレイクダウン
図書室シーンのコンポジットのブレイクダウン