<3>女子高生1775&伊藤 学のホムンクルス
定評ある技法を組み合わせてモダンかつリッチな表現に
女子高生1775のホムンクルスは、演者にホムンクルス状態も含めた一連の芝居を通しで演じてもらった実写プレートに対して、砂表現のCG・VFXを施すというアプローチが採られた。空舞台ではなく、演者込みの状態のプレートを用いるためロト処理等の手間は増えてしまうが、あえて選択した理由は、現場で演出やカメラワークを決めていく清水組のスタイルに合わせるためだったという。「作業の手間は増えますが、監督、現場スタッフ、そして役者さんたちはイメージしやすかったはずなので、結果的には良かったと思います」(平田氏)。
1775の砂表現は、当初Houdiniで作成する予定だったが、シミュレーション時間や最終的には見た目合わせで仕上げることを考慮し、MayaのnParticleやBifrostを使うことにしたという。一部の砂表現にはAEやNukeのパーティクルも用いているとのこと。1775の身体が徐々に砂化していく表現には、NukeのSmart Vectorツールが効果を発揮した。この機能は、表情など実写プレート中の特定部位の動きや形状の変形に応じて、マッピングする2D画像を自然な見た目に変形させるため、立体的な表現に仕上げることができたという。なお、一部のカットのコンポジットはAEで行われているが、AEの場合は同様の処理が行えるプラグイン「Lockdown 2」が使用された。1775の思いが砂のモーションタイポとして表れるカットについては、Mayaのパーティクル機能でモーションタイポ素材を作成し、それをCHPが作成した1775のメッシュにディスプレイスメントマッピングしてレンダリングしている。まさに知恵を絞ることで、オー ソドックスな手法によってモダンかつリッチな表現を創り出した好例である。
伊藤のホムンクルスは、一見、透明だが実は金魚が泳ぐ水槽というもの。伊藤のフォトグラメトリーモデルに対してMayaのノーマルのAOVでレンダリングするという、光学迷彩的な手法が用いられた。泡は実写素材とCG素材をカットによって使い分けているが、体内を泳ぐ金魚は全て実写素材とのこと。伊藤のホムンクルスは透明度が高いため、本番用の実写プレートは空舞台が必須となった。そこで伊藤を演じた成田 凌氏が入った状態のリファレンスと、演者が立っていた位置にマーカーとしてテグスを吊した状態の空舞台を撮影。「最終的に、かなりのアップショットになりました。マッチムーブのターゲットとなる背景の表示面積が小さくなったため、手付けベースで合わせるほかなく、非常に手間がかかっています(苦笑)」(平田氏)。
AEの使用
1775の異空間シーン。本作での合成作業は基本的にNukeを使用したが、1775に関しては砂や煙の合成が多いため、Trapcode Particularなどプラグインが豊富なAEを使用。タイミング調整などの面でAEの方がフットワークが軽いことも理由のひとつだ
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▲AEで見える部分のマーカーや背景などを消し込み、CG素材のベースを合成
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▲Mayaで作成した砂素材や実写の砂埃素材を合成して完成。場面によっては、Trapcode Particularで砂を少し足す
フェイシャル
フェイシャルはiOSアプリのFaceAppで作成した
▲1775のフェイシャル作業
▲伊藤父のフェイシャル作業
ブレイクダウン
1775のブレイクダウン
モーションタイポグラフィ
砂塵が文字になっているというモーションタイポグラフィ
▲テクスチャの基になる、文字が動き回るダイナミクスのシミュレーションを実行。続いて質感とノーマルマップをレンダリングしてテクスチャ素材を作成する
▲ノーマルマップ
▲テクスチャを貼る前の足のモデル。読ませたい文字だけはアニメーションを手付けする。周囲に散らばってるのは、降り落ちる文字たちのパーティクル
▲足のモデルにテクスチャを貼った状態
▲レンダリング結果
泡のエフェクト
▲伊藤に浮かぶ泡のエフェクトはMayaで作成した
金魚
▲水槽(伊藤)の中を泳ぐ金魚の表現。Mayaでノーマルマップを書き出してNuke上で屈折させ、さらにその上にハイライトやデフォーカスの処理を乗せている
ブレイクダウン
名越が伊藤のホムンクルスを見るカットのブレイクダウン
▲完成ショット