>   >  VFXアナトミー:オーソドックスな手法を巧みに組み合わせ、フォトリアルかつ幻想的な"ホムンクルス"を創出。映画『ホムンクルス』
オーソドックスな手法を巧みに組み合わせ、フォトリアルかつ幻想的な"ホムンクルス"を創出。映画『ホムンクルス』

オーソドックスな手法を巧みに組み合わせ、フォトリアルかつ幻想的な"ホムンクルス"を創出。映画『ホムンクルス』

<2>歌舞伎町シーン&組長のホムンクルス

自主的なブラッシュアップでリッチな表現に仕上げる

名越が初めて自分の新たな能力(右目をつぶって左目だけで見ると、ホムンクルスが見える)に気づく歌舞伎町シーンは序盤の見せ場だ。このシーンには、複数のホムンクルス(以下、モブンクルス)が登場するが、全てを3DCGで描くのは非現実的だったため、特殊造形を施した演者をコンポジットワークで仕上げるという手法も併用された。CG主体で作成されたモブンクルスについては、平田氏と潮 杏二氏(VOXEL)で分担。ペラペラ男と呼ばれたホムンクルスは、平田氏がMayaで作成。回転ギャル、モザイク女、チェーン女、眼鏡男と呼ばれた4体は潮氏がHoudiniで作成した。

特殊造形ベースのホムンクルスを担当したのは、コンポジターの大野俊太郎氏(VOXEL)である。通称・木オンナは、操演者を消して表情などを修正。通称・真っ二つ男は、手をつないだ双子の演者の実写プレートを2D処理で作り替えたものだ。そして、複数のホムンクルスの様子をワンカットに収めたロングショットも、大野氏のコンポジットワークなしには完成しなかっただろう。このカットは、4Kで撮影した実写プレートにデジタルパンを付けて臨場感あるカメラワークを創り出しているが、実は各ホムンクルスごとに異なるテイクを使用しており、コンポジットワークでワンカットに(同ポジに)見えるように細かな加工が施された。「同じホムンクルスでも変身前と後で別テイクを使ったりもしています。切り替えるタイミングでモーフィング的な処理を加えることで自然な見た目になるように心がけました」(大野氏)。

超合金ロボのようなヤクザの組長のホムンクルス(通称・組長ロボ)については、独自のワークフローを採用。先述の通り、ロボットの左腕は特殊造形が作成されたが、この造形は組長の回想シーンに登場するロボット玩具(小道具)のデザインを踏襲している。実はこの小道具は、林氏が作成したロボットのローポリモデルを3Dプリンティングで作成したものだったので、組長ロボのモデルについては小道具用のローポリモデルに特殊造形の左腕のフォトグラメトリーモデルに合わせたディテールを加えていくという要領で仕上げられた。組長ロボのパーツが徐々に壊れていくカットでは、大きいパーツは手付けで、小さい部品はシミュレーションによって作成された。監督チェックの度に自主的にブラッシュアップを重ねていく林氏の姿勢は監督にも好評だったという。「組長ロボは、細部の詰めは自発的につくらせていただけました。大変さも増したのですが、知恵を絞って提案したものがOKになることも多くてやりがいがありました」(林氏)。

デフォーム

ペラペラ男はPFTrackでマッチムーブを行い、Substance Painterで質感設定、Mayaでセットアップとアニメーション、Arnoldでレンダリング。Mayaではシンプルにセットアップした後、全身を潰すブレンドシェイプとウェーブデフォーマを組み込んだ

▲デフォーム前

▲デフォーム後

ブレイクダウン

Houdiniによるシミュレーションカットのブレイクダウン。実写素材の人物の動きをMayaでトレースし、Houdiniでシミュレーションと配置作業を行なってMantraでレンダリングした

▲メガネ男のHoudiniでの作業画面。Mayaで実写の演者をロトスコープして合わせたモデルデータをHoudiniにエクスポートし、メガネモデルをボディに沿うように配置。メガネの配置換えなどを簡単に制御できるようにプロシージャルに作成した



  • ▲実写プレート



  • ▲メガネのレンダリング素材

▲Nukeでコンポジット

▲モザイク女のHoudiniでの作業画面。歩く軌跡に沿ってモザイクが発生し、縮小して消えるようにpoints from volumやattribute wrangleなどでモザイクの動き・サイズなどを制御している。実写プレートから演者を切り出したモザイクモデルに対して、カラー情報をマッピングして作成。修正指示に対応できるよう、モザイクのサイズや動きをプロシージャルに作成

▲Nukeでコンポジット

完成モデルとセットアップ

組長ロボの完成モデルとセットアップ。腕と鎌は前述の通りフォトグラメトリーをベースにモデリングした



  • ▲頭部モデル



  • ▲手先と鎌のモデル

▲セットアップ

レンダリング

組長ロボの質感設定はSubstance Painterで行い、Mayaで最終調整してからライティングとレンダリングを行なった

▲歌舞伎町シーンでのルックデヴ作業

▲歌舞伎町シーンのテストレンダリング

▲組長の部屋でのルックデヴ作業

▲手の質感設定

ARの活用

▲ロボの大きさがどのように見えるかを検証するため、ARを活用。簡易モデルをUSDフォーマットで作成し、それをiPhoneやiPadに読み込ませるだけでARでの配置が可能になる

Nukeでの合成作業

▲ロボのレンダリング素材と実写プレートのNukeでの合成作業

ブレイクダウン

コンポジットのブレイクダウン



  • ▲ディフューズ(ダイレクト)



  • ▲ディフューズ(インダイレクト)



  • ▲スペキュラ(ダイレクト)



  • ▲スペキュラ(インダイレクト)



  • ▲エミッション



  • ▲モーションベクター



  • ▲Zデプス素材



  • ▲クリプトマット(アセット)



  • ▲クリプトマット(マテリアル)



  • ▲それぞれを合成したもの

▲完成ショット

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