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映画『彼岸島デラックス』(VFX制作:テトラほか)

映画『彼岸島デラックス』(VFX制作:テトラほか)

04 〈邪鬼〉姫のVFX

環境も3DCGベースで多足の表現に対応

本作に登場する邪鬼の中で最も大きな見せ場となるのが「姫」との戦いだろう。原作漫画ファンの間 でも1、2位を争うほどの人気キャラクターでもある姫が登場する全シークエンスのVFXを担当したのがユーフォニックだ。「2014年9月くらいにテトラさんからご相談をいただき、7~8名のスタッフでリギングからアニメーション、ライティング、コンポジットまでを担当させてもらいました。姫はムカデのように多足キャラクターなのでリギングやアニメーションは非常に苦労しました」とは、ユーフォ ニックの福井隆弘CGディレクター。

姫が登場するシーンは走っていることが多いため腕の動きを自動化するリグを構築したが、制御の難しさや違和感を感じたためほとんどのカットを手付けのアニメーションで対応することにしたのだと いう。さらにカットに応じて胴体の長さやサイズを変えられるようなリグを構築する必要もあり、リ ギングには多くの時間が費やされた。「姫が螺旋階段を駆け上がるシーンでは全ての手が手すりを握れているか細かくチェックしました。指先まで丁寧なアニメーションをオーダーしたので相当苦労されたと思いますが、最初のチェックでかなり質の高い画を上げてくれたので手応えを感じていました」と谷口氏が語るように20テイク程度のリテイクを重ねて完成したカットもあるという。

また、姫は原作のイメージや漫画のコマを再現することもテーマのひとつで、逆さまになっても髪が垂れないのは髪型の変化によってキャラクターイメージが崩れないように配慮した結果でもある。坑道の中で姫に追われ主人公たちがトロッコで逃げる一連のシーンでは坑道を直線や斜坑などのパーツに分け組み合わせることで広大なステージを構築しており、このモジュール化は工数の軽減にもつながっている。そして崩壊する坑道のエフェクトはHoudiniと実写素材を併用することでダイナミックさと疾走感を兼ね備えたシーンが完成した。「モジュールを組み合わせただけでは実写プレートとライティングが合わないこともあるのでカットごとに調整する必要がありましたが、コンセプトアートなど設定資料がしっかり準備されていたのでコンポジット作業は迷いもなくスムーズに進めることができました」と、谷口博昭デジタルアーティストが語るようにトロッコ戦は赤、螺旋階段は緑、太郎戦は黄色といった具合にシーンごとにキーカラーを決めカラースクリプトを作成しており、実写撮影時にも照明の参考としても活かされている。

「僕はミーハー心が強いので(笑)、以前から国内の有力スタジオさんや海外の先端ワークフローを取り入れた制作を行いたいと思っていたんです。今回のプロジェクトでは、なにかと初めての試みが多かったので、決してパーフェクトとは言えませんが、実写畑の方々から理解と協力を得ることができるなど確かな成果を得ることができました。ぜひ今後もテトラ独自のコンテンツ制作を実践していきたいですね」と、谷口氏は今後の展望を語ってくれた。

CGW219連載「VFXアナトミー:彼岸島デラックス」

CGW219連載「VFXアナトミー:彼岸島デラックス」

姫(怒り時)のコンセプトアート(上)と設定資料(下)

姫の完成モデル。シェーディング表示(左)とメッシュ表示(右)。2節目以降の胴体に該当する部分は共通化されている

姫のセットアップ

CGW219連載「VFXアナトミー:彼岸島デラックス」

テトラから提供された「姫」シーンの背景セットに関する仕様書の例

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    テトラが作成した背景パーツ

  • CGW219連載「VFXアナトミー:彼岸島デラックス」

    背景パーツを組み合わせて加工した実際の背景


3DCGベースのショットのブレイクダウン例

CGW219連載「VFXアナトミー:彼岸島デラックス」

アニメーションの作業UI

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    背景のみ

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    姫(キャラクター素材)を配置

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    砂煙等のエフェクト素材を追加

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    カラコレ処理を施した状態

CGW219連載「VFXアナトミー:彼岸島デラックス」

画ブレ、モーションブラーを加えた最終形I


キャストなどのグリーンバック撮影した実写素材が介在するショットのブレイクダウン例

CGW219連載「VFXアナトミー:彼岸島デラックス」

アニメーションの作業UI

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    背景のみ

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    トロッコのCGを配置

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    トロッコの実写素材を合成

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    カラコレ処理を施した状態

CGW219連載「VFXアナトミー:彼岸島デラックス」

画ブレ、モーションブラーを加えた最終形I



  • CGW219連載「VFXアナトミー:彼岸島デラックス」
  • 映画『彼岸島デラックス』

    10月15日(土)全国ロードショー
    原作:松本光司『彼岸島』(講談社「ヤングマガジン」連載)/監督:渡辺 武/脚本:佐藤佐吉、伊東秀裕/アクションコーディネーター:吉田浩之/VFXスーパーバイザー:谷口充大/ 特殊メイク・特殊造形:江川悦子/リード VFX:テトラ/制作:エクセレントフィルムズ/特別協力:サンセイアールアンドディ/配給:松竹メディア事業部
    higanjimadx.jp

  • CGW219連載「VFXアナトミー:彼岸島デラックス」
  • 月刊CGWORLD + digital video vol.219(2016年11月号)
    第1特集:映画『GANTZ:O』
    第2特集:エフェクト進化論

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2016年10月8日
    ASIN:B01LBFWPG4

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