02 〈邪鬼〉太郎のVFX
クリエイティブワークに専念するための詳細な仕様書の作成先述の通りテトラは30名規模であるが、本作のような大型案件に対応できる体制づくりを以前から整えてきたという。その施策のひとつが外部パートナーへ配布する詳細な仕様書の作成だ。仕様をまとめるにあたっては、国内だけでなく中国やカナダといった海外プロダクションの協力を得られるよう、事前に仕様を固めることでトラブルの発生を軽減させる、そして制作の佳境に万が一先方がやりきれなかったデータを引き継ぐ際にもスムーズに対応できるよう配慮したという。こうした取り組みは、ひとえにクリエイティブワークに集中できる環境を構築するための一環だと谷口氏は語る。モデリングやアニメーションなど各セクションごとに仕様書を作成し、さらに指定した仕様通りにデータが作成されているかを確認するチェックツールなども独自開発しており、完成したデータはSHOTGUNで一元管理しているとのこと。「データのネーミングがルール付けされていないと、それを解析するのに多くの時間を費やすだけでなく、レンダリング用のモデルにアニメーションのデータが流し込めないといった致命的な問題が発生しかねません。そうしたリスクにも配慮して、社内のプログラマーには作業を効率化するためのプラグインやスクリプトを開発してもらったりもしているんです」(谷口氏)。テトラにはTDではなく専任のプログラマーが4名在籍している。彼らはCG・映像制作に精通しているわけではないそうだが、高度なプログラミングスキルを活かしてはAfter EffectsのカメラデータをNUKEへ移行するツールやDeadlineへのジョブを投げるツールなど多彩なツールを開発しているそうだ。なおコンポジット作業については外部パートナーごとに培ってきたワークフローや使い慣れたツールがあることから、NUKEとAEが併用された(ただし、プラグインについては一定の範囲を揃えたそうだ)。
本作に欠かせない個性豊かな邪鬼のモデル制作について。まず、それらのデザインワークを進めるにあたり、太郎は恐竜、百目はワニ、姫は爬虫類、痩身型は人間の延長線上といった具合に質感に変えることで差別化を図ったという。その方針の下、アートチームがイメージボードやZBrushによるコンセプトモデルを作成(ちなみに一部のコンセプトモデルは、撮影用のモックやプロップとして美術班にデータが支給された)。一連のデザインワークを終えたら、本番アセットの制作に着手。コンセプトモデルをMayaに読み込みリトポロジーを実施。リトポ作業についても効率化を図るため仕様を固めたというが、ディスプレイスメントマップを用いた際に同じルックになるよう再構築するのに多くの時間を費やしたほか、データ量の増加やめり込みなども考慮して設計する必要があったため何かと苦労したそうだ。
序盤の見せ場となる「太郎」のコンセプトアート(上)と設定資料(下)
インハウスツール「TT_ModelChecker」(画面中央のUI)の使用例。モデルの仕様統一と、確認時間の短縮に役立てられた。「二重頂点や、多角形ポリゴンの検出、ネーミングルールのチェックなど、モデルのパブリッシュ時に確認すべき事項についてワンクリックで仕様を確認することができます。問題のない項目は緑、エラーのある項目は赤で表示され、エラーの有無が一目瞭然で、エラーの詳細はScript Editorで確認できるようになっています」(平田真一モデリングスーパーバイザー)
太郎のセットアップ
外部パートナー向けに作成された仕様書の例。リトポロジー作業の手順に関するもの
太郎ショットのブレイクダウン例