03 アーティストとのインタラクション
確かな信頼関係の下、"無茶"をする実写プレートのトラッキングは、各ショットのコンディションに応じてAEのモーショントラッキングとPFTrackを使い分けたという。「夜市」シーンからクライマックスの舞台へと移動する場面転換のシーンでは、アーティストが宙を飛ぶ未来型バイクに乗るのだが、このショットのマッチムーブが最も大変だったそうだ。「単純なパンではなく、三次元的なカメラワークだったのでフレーム単位で追いかける必要がありました。グリーンバックをかぶせたオートバイに乗ってもらい撮影しているのですが、アーティストさんのハンドルの動きに合わせてCGバイクのハンドルも動かせるようにリグも組みました」(大山氏)。
UIグラフィックスについては、小嶋氏がUIデザインからショットワークまで一括して担当。「『攻殻機動隊 新劇場版 VIRTUAL REALITY DIVER』(2016)など、東監督のプロジェクトではUIを担当させていただく機会が多いのですが、少しずつノウハウを蓄積できていると思っています。誰かに真似されるようなUIをつくり出せるよう、今後も積極的にチャレンジしていきたいです」(小嶋氏)。クライマックスの舞台となる「King's Room」向けのUIでは、柱が多くある建物がロケ地のため、膨大なマスクワークが発生したそうだが、アーティストのフォトグラメトリー素材(PhotoScanを利用)も組み合わせることでインパクトのあるUIに仕上がっている。
ほぼ全カットにVFXが介在するという大物量のため、できるだけレンダリングコストを抑えることも必須だったという。「3DCGのレンダリングはV-Rayで行なったのですが、最初の設定では1フレームに1時間半くらいかかってしまったので、画面には映らない要素を省くかたちで細々とダイエットを行い、最終的には1フレーム3~5分くらいで回せるようになりました。そうした意味でもCompositor Linkは重宝しましたね。僕はCG歴15年ぐらいになるのですが、DCCツールの進化には目覚ましいものを感じています。より効率的にクオリティを高められるようになっているわけですが、今後は個人のアーティストとしてもプロダクションとしてもよりいっそうデザインセンスが問われるようになっていくと思います」(大山氏)。「大山さんも田崎さんもアートディレクションからおまかせできる、ディレクター気質のアーティスト。自分としては、そうした方々とのコラボレーションによって予想を超えた表現が生まれることを楽しみにしているんです。4年に1本ぐらいのペースで"無茶なプロジェクト"に取り組んでいるのですが、本作もまさにそうしたプロジェクトになりました。嬉しいことにアーティストさん、そしてファンの方々にも好評です。今後も機会をみつけてぜひ無茶をしていきたいですね(笑)」と、東監督は総括してくれた。
「夜市」からのシーン展開のフックとなる未来バイクの走行シーンのブレイクダウン
「King's Room」のアクセス解除プログラムを実行するUIグラフィックスのコンポジット作業例
ブレイクダウン
「King's Room」用のUI素材(一部)
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ホログラムとして浮かび上がるアーティストのフォトグラメトリー素材(PhotoScanを利用)
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スケジュールと作業量との兼ね合いであえてリトポせずに用いられたが、ノイジーさが独特の風合いを引き出している
UI素材をレイアウトした3ds Maxシーンファイル
クライマックスのストーリー的に重要なショット(※YouTube版では未公開)のブレイクダウン