02 夜市シーン
目指す表現と制作条件に対する最適解を求めて近景の特徴的な建物は、カメラワーク(画角の変化)との整合性が求められるため3DCGをベースにしているが、3Dシーンとして作成するのではなく、実写プレートに対して部分的に3DCG素材を合成するのが基本方針となった。そのアプローチで作業を行うにあたっては、Adobe CC 2014から対応した3ds MaxのステートセットとAfter Effects(以下、AE)間でのデータ互換を可能にする「Compositor Link」を活用したという。サインディスプレイは世界観のキーファクターだが、一連のUIグラフィックスを手がけた小嶋裕士CGディレクターのディレクションの下、デジデリックの2DデザイナーがIllustratorで素材(最終的に100種類上に達したそうだ)を作成し、それらにモーションタイポとしてアニメーションまで施したものをAEに読み込んで合成している。「サインディスプレイを合成する際も3ds Maxで作成したカメラデータやNu(ll 位置情報)をCompositor Linkで読み込み、AE上で質感を高めていきました」(相澤大樹3DCGデザイナー)。
VFXが介在しないのはほんの数カット、全編にわたってVFXワークが施された本作。その一方では、先述のとおりポストプロダクション期間は20日ほどだったことから、クランチタイムはデジデリックのCGスタッフ総出でトラッキングやマスクワークを行なっていたそうだ。さらに「夜市」シーンのコンポジットワークにはKhakiの田崎陽太氏が助っ人として急遽参加した。「アーティストが街中を歩くパートのコンポジット作業を50ショットほど担当させていただきました。非常に多くのサインディスプレイが配置されていたのでマスクワークに苦労させられましたね。mocha Proで正直にトラッキングしていたのでは納期に間に合わないそうになかったのでキーイングとロトブラシも積極的に活用しました。大変でしたけど、お祭りみたいで楽しかったです(笑)」(田崎氏)。日頃からコンポジットを手がけることが多いという田崎氏だが、「できることはなんでもやってみたい」と、プロジェクトの制作条件や作風に応じて臨機応変にツールやアプローチを使い分けることを自然体で行なっているため、今回もそうした経験が役立ったそうだ。
相澤氏が作成した未来カー完成モデル(3タイプ)
カラーバリエーションを加え、全20種が用意された
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「夜市」シーン用のマットペイントの例
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建物CGモデルの例。「ある程度質感を付けたものをビル単位で書き出し、AE上でレイアウトしています」(大山氏)。Compositor Link機能を使い、テクスチャ素材のマッピングもAE上で行うことで効率化が図られた
冒頭カットに対する東監督の修正指示の例。基本的にグループチャットSlackを介してレビューが行われたが、チェック用画像に対してペイントオーバーやテキストによって明確に指示されていたことが窺える
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AEにCGカメラワークを読み込み、建物のCG素材に対してテクスチャ素材を追加して質感を高める
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主立ったサインディスプレイ素材。細かなサイン素材はAE上で合成するようにすることで、デザイン修正が発生した場合も単純な差し替えで対応できるようにされた
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電線素材。「ドローンによる空撮カットなのですが、『空間(奥行き)を感じさせたいよね!」という、東監督の鶴のひと声で、急遽加えました(笑)。手間はかかりましたが、カメラが空間を抜けていく感じを高めることができたと思います」(大山氏)
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グレーディング処理を施した最終形
AEの3Dカメラトラッカーによるトラッキング作業例。ショットの特性に応じてPFTrackなども利用された