03 耽美なデジタルノイズと破壊表現
破壊表現においても美しさを追求
クライマックス直前にユニークな表現が登場する。アーティストや背景アセットのポイントクラウドに対してデジタルノイズ的なエフェクトが加わったものだが、この表現はHoudini、NUKEの連携で作成したという(2DエフェクトではAfter Effectsも併用)。デジタルダブルのモデルから生成したポイントクラウドを利用し、Houdini上で若干のディストーション処理を施し、positionとnormalのパスをエクスポート。それをNUKEの3D空間上でノイズアニメーションを適用している。
そして、自然を滅ぼした人間たちは互いに争いをはじめた結果、世界は崩壊する......そんなストーリーラインが込められたクライマックス。最大のチャレンジとなったのは、「過激な暴力描写ではなく、破壊のなかに美しさを込める」ということ。これには、中国政府のメディア規制(放送コード)への配慮という面があったそうだが、全編にわたり美しさを意識した画づくりが徹底された。
最後に、本プロジェクトで用いられたDCCツールについて紹介しよう。3DCGのメインツールはMaya、レンダラは日本でも導入事例が増えつつあるGPUレンダラのRedshiftを採用。そして、破壊や流体といった複雑なエ フェクト表現についてはHoudini(レンダラはMantra)で作成。一連のコンポジットワークはNUKEで行われた(一部カットでは、AEも併用)。「実は、Redshiftについては制作途中から導入しました。AVATTAとしては初めてRedshiftを使用したのですが、パラメータなどの設定がArnoldと共通する点が多く、Arnoldの知識があれば比較的覚えやすいレンダラだと思います。個人的には、前職時代でも使用経験があったのですが、当時のバージョンよりもAOVまわりが改良されていますし、何よりもレンダリングが高速なことに助けられました」と、田森氏。また最終的なルックは、紀里谷監督監修の下、編集を担当したエヌ・デザインの川瀬基之エディターによって、Autodesk Smokeによるカラコレで仕上げられた。そのため、AVATTAとしてはフラットなコンディションのルックに留め、LUTを外したOpenEXR形式でパブリッシュ。その際にカラコレ用のマスクも添えて納品したという。
クライマックス直前に登場するデジタルノイズFXシーン
Houdiniによるエフェクト作業。アーティストのデジタルダブルを使い、ダンスモーションのポイント情報に対してRay SOPを適用。ノイズ処理については、楽曲のオーディオ波形と同期させたPoint Wrangleによって表現している
After Effectsによるコンポジット作業
クライマックスに描かれる螺旋モデルの上に立ったダンサーたちが次々と破壊されているシーン
柳島氏が作成したDNAの立体構造をモチーフにしたアセット。前項で解説したモノリスと同じ手順で、ZBrushによるスカルプトによって螺旋状のモデルが作成された
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Houdiniによるダンサーの破壊エフェクト作業。シーンに配置した約300体のダンサーモデルに対して、5種類の破壊シミュレーションを適用。それと同期する破片パーティクルをCrowdシミュレーションによってランダムに発生させている
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After Effectsによるコンポジット作業
終盤に描かれる螺旋モデルの破壊表現
Houdiniによるエフェクト作業。螺旋モデルが破砕されるアニメーションに対して、その断片が細かく分解されるシンプルなエクスプレッションをSOP Solver内に組み込むことで表現。さらに画面奥から手前に向かってくるブラックホールを彷彿とさせるパーティクルエフェクトを発生させている
After Effectsによるコンポジット作業
螺旋モデルが崩落していく表現
Houdiniによる崩落エフェクト作業