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AVATTAによる最新テクノロジーで描かれた独創的な映像美、紀里谷和明監督の意欲作『desire』MV

AVATTAによる最新テクノロジーで描かれた独創的な映像美、紀里谷和明監督の意欲作『desire』MV

02 モノクロームの世界

フレキシブルな演出はまさに画家そのもの

前項でもふれたとおり、アセット制作は柳島氏がリード。デジタルダブルをはじめ、動物たち、モノリス、クライマックスに登場するDNAをモチーフとする螺旋状の造形などを手がけている。「狼、フクロウ、馬などの実在する動物については市販モデルをリファンインするかたちで作成しました。基本的にはディテールが足りなかったのでZBrushでスカルプトを加えてからMayaに読み込んでディスプレイスメントを施しています。モノリスには幾何学的な装飾を加えたいと監督からの要望があったので、相談しながらつくり上げていきました。けっこうな時間を監督の目の前で一緒に作業できたので、イメージの共有はとてもしやすかったです。作成したモデルをベネットさんに渡し、Houdiniで破壊するながれがチームワーク良く、スムーズに行えたと思います。エンバイロンメントは空用のHDRIがありましたが、フォトリアルに合成するのが今回の使命ではなかったのでそれほど重要視せず一応存在していた程度です」(柳島氏)。

伏見氏がデザインしたアーティストの衣装については、実際の衣装をフォトグラメトリーデータを基に、柳島氏が調整。一方、フルCGのダンサーたちの衣装については大伸社コミュケーションデザインの堀江雅也氏が、伏見氏のデザイン画からMarvelous Designer(MD)で作成している。ただし、非常に複雑なデザインのためMDで作成した衣装モデルに直接クロスシミュレーションを施すのは厳しかったため、最終的にはベネット氏の方でリダクションしたという。CGキャラクターのボディ&フェイシャルリグとセットアップもベネット氏が担当。「デジタルダブルのフェイシャルは、約60パターンのブレンドシェイプを作成することでリップシンクに対応しています。最終的に7,000フレームほどの口パクを作成しましたが、歌詞が中国語のパートもあったので大変でした(苦笑)。『観たことないものを観たい』という紀里谷監督の期待に応える上では、苦労も多かったのですが、紀里谷監督はアイデアとセンスが素晴らしくて、作業状況にフレキシブルに対応されるスタイルは、まさに画家です。一緒につくり上げていく感覚はクリエイターにとっても嬉しいもので、貴重な機会になりました」(ベネット氏)。

柳島氏による、アーティストのデジタルダブル制作過程を図示したもの



  • 柳島氏がモデルデータを受け取った時点ですでにスキャンデータからR3DS「Wrap3」によりベース素体の形状とテクスチャが適用されていたが、目や口などの細部ディテールに破綻があったため、スキャンされた頭部を参考にしながら素体のディテールを加えつつ調整



  • モデルにディテールを足しながらテクスチャの欠損している部分をPhotoshopMARIを使い調整



  • 衣装についてもスキャンデータからリトポされた形状とテクスチャが用意されていたため、形状の調整作業と各部の最適化がメイン。布として厚みのありすぎる箇所や、人物と衣装が別撮りなので実際のアーティストが着ている写真を見ながら実写パートと差が出ないように調整



  • 前髪を板ポリで作成、今回は引きのサイズで用いるモデルのため、テクスチャによる表現のヘアとした。形状が完成したらRedshiftでシェーダ作業を行う



  • 完成モデル(メッシュ表示)



  • モデル完成後も実写のアーティストとのルック的な整合性がさらに高められた


柳島氏によるモノリスの制作過程を図示したもの



  • 紀里谷監督からのフランク・ロイド・ライト(帝国ホテル旧本館などを手がけたことでも知られるアメリカの著名な建築家)的なデザイン様式というリクエストを汲みつつMayaでモデリング



  • モノリスはSubstance Painterでテクスチャを作成するため、オーバーラップがないように注意しながらUDIM方式でテクスチャUVを展開



  • 完成したモデルをFBXで書き出しSubstance Painterでマテリアルを作成。出来上がったテクスチャを再びMayaへ書き出す。以後はMayaでシェーダを調整しつつ、テクスチャのチューニングはPhotoshopで行われた



  • 金属と光沢のある石板の中間あたりを目指してRedshiftでシェーダを調整。並行して周囲の背景用として地面と水面も作成された


冒頭のフクロウが崩壊していくカット

MotionBuilder (以下、MB)によるレイアウト&アニメーション作業。森や動物等が崩壊していくイメージは、当初から監督の構想にあったという。「絵コンテ段階ではカメラはFIXという指示でしたが、アニマティクス作業を進めていく過程で視差が出るように動かしてほしいということで最終的にはカメラワークを付けました。崩壊エフェクトは、ベネットさんがHoudiniで作成してくれたものをAlembic形式でMayaに読み込み、Redshiftでレンダリングしています」(田森氏)

ライティング作業。ソフトなトップ光(特に明確な時間等がわからないイメージの世界)という監督のオーダーの下、画づくりが行われた。このカットではフクロウの見映えを高めるためのソフトなキーライトを追加している

コンポジット作業(AVATTA担当分としての完成形)。「中盤のフルCGダンサーたちが出てくるシーンに合わせて作業を進めました。シンプルなカットなのでAOVはDepthやWorldPositionといった必要最小限の要素に留めています」(田森氏)


前半に登場する黒いシーンのダンサーたちのカット

MBによるレイアウト&アニメーション作業

ライティング作業。「このパートのライティング、コンポジット作業など、一連の画づくりは回の小坂 健さんに担当していただきました。構成要素がシンプルなシーンですが、デプスを巧みに用いて綺麗な明度の展開でビジュアルをつくってくれました。ダンサーたちのパートではRedshiftのライトAOV(シーンのライトごとのAOV)を使用することで、コンポジット時の柔軟性が増しました」(田森氏)

コンポジット作業(AVATTA担当分としての完成形)。画面を構成する要素が少ないことに加え、水面のリフレクションのおかげで、アングルによっては映り込んでほしくないライトが出てきがちだ。さらにアーティストを中心に円形状にダンサーが配置されたシーンを周りからねらうアングルが多いため、通常のアプローチではリムライトの調整等が煩雑になりがちである。そこで、ライトごとのAOVを出力し、それらをNUKE上で再構築することでダンサーの見え方や不必要なリフレクション等をMayaに戻らずNUKE上で調整できるようにしている


中盤に描かれる赤いシーンのダンサーたちのカット

MBによるレイアウト&アニメーション作業

ライティング作業。黒いシーンからひき続き、小坂氏がライティング&コンポジット作業をリード。「森などの背景はすでに崩壊しているため、画面内の構成要素は水面、ダンサー、水飛沫しか存在しないシーンですが、小坂さんのセンスとアイデアによってスタイリッシュなビジュアルに仕上がりました」(田森氏)

コンポジット作業(AVATTA担当分としての完成形)。黒いシーンと同様にライトごとのAOVを出力し、それらをNUKE上で再構築することでダンサーの見え方や不必要なリフレクションの調整等はNUKE上で行なっている

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03 耽美なデジタルノイズと破壊表現

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