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映画『寄生獣 完結編』

映画『寄生獣 完結編』

03:森林でのバトルシーン

難しい環境下でのCG合成

物語のひとつの山場でもある森でのミギーと後藤のバトルシーンは、細かい樹木や枝が茂っているという複雑な環境でのショット制作となった。

ここでの後藤に頭部の変形などはないので、浅野氏は手にマーカーを付けた状態のみで演技している。ミギーと絡むようなショットでは、木の枝に繋げたロープを引っ張る状態で演技が撮影された。ミギーや後藤の触手のアニメーションは、PFTrackによってトラッキングした実写プレートを基に付けられていくのだが、カメラワークが限定された空間でのバトル表現はとても困難な作業になったという。

「ミギー単体が木の枝に掴まった状態で後藤と戦うという設定なので、寄りのカットなどは特に背景との兼ね合いや、後藤の触手とのスケール差もあって、触手を受け止めたりする際の反動などが表現しづらかったです。限定された状況の中でいかに激しい攻防のやりとりをしている感じを出すかがとても難しかったですね」とアニメーターの河原佑樹氏は話す。

撮影時にはミギーの位置にマーカーを置いて撮影しているが、距離感がわかりにくかったり、枝の前後関係が難しかったりと、森の中という環境ゆえの難しさがあったという。

コンポジットにおいても、森の中という環境は難しい条件となったようだ。森の中での撮影では、日照が時間によってかなり変化するために、時間との勝負になったという。

「隣接したカット同士でも照明の状態が異なるので肌の色が変わってしまったり、カットごとの擦り合わせが難しいシーンでした。ショットに合成するCG素材はまずそのショットの肌色の調子に合わせておき、最終グレーディングでシーンを通して同じ色調になるように調整しています」とコンポジターの前 和佳子氏は語る。

ミギーと後藤の対決ショット。

▲(左)実写プレート。ミギーの代わりに枝に繋げたロープを引っ張っている
▲(右)ロープや手の部分を消去した実写プレート

▲(左)ミギーのCGプレート
▲(右)色調整用シャドウマスク

▲完成ショット。ミギーと後藤は5mぐらい離れている設定だが、スケール感や距離感の調整が難しかったそうだ

後藤と激しいバトルをするミギーのアップ。木漏れ日がミギーに落ちているという難しいVFXだ。

▲実写プレート

▲(左)ミギーのCG素材
▲(右)木漏れ日の影を乗せた状態のミギーのCG素材

▲完成形

04:卓越したデジタルリムーブによるショット構築

触手によって運ばれる赤ちゃん

本作は不要物を映像中から除去するデジタルリムーブ、いわゆる消し込みが必要になるショットも多い。その中でも特に難易度が高かったという、田宮良子(深津絵里)が触手で赤ちゃんを受け取るシーンを紹介したい。

この一連のシーンのデジタルリムーブを担当したのがIMAGICAの武坂耕二氏をはじめとするクリエイティブプロダクションユニット五反田VFXグループだ。このショットでは、本物の赤ちゃんを使って撮影をしたいという監督からのオーダーがあり、実際の撮影では田宮の触手の代わりにスタッフが手を使って赤ちゃんを抱えて運んでいる。

「深津さんが赤ちゃんを抱えている演技のショットを空画としていただいて、あとは赤ちゃんの入ったショットをもらって合わせていくのですが、現場は風が強かったようで背景にある樹木の揺れ方が合わなかったりと、難しいショットでした。樹木の揺れは枝葉の塊を切り取って合成することで整合性をとっています」と武坂氏は語る。

また、赤ちゃんを包む布はスタッフの持っている状態と、CGの触手が持った状態に置き換えた時では形状が変わってくるので、布の形状修正が非常に難しかったそうだ。IMAGICAではこれらの作業をFlameで行なっている。

このような撮影条件の厳しいショットの消し込みのコツは「これらのショットでは、レンズディストーションを一度外して、カメラワーク全体を大きな1枚の画として捉え、必要な部分の消し込み作業をし、作業が終わったら元に戻して合成していきます。ショットによってレンズの歪み方が異なるので、1枚画にして歪みをなくすことで安定した作業を行うことが可能です」と武坂氏は話す。

田宮が赤ちゃんを触手で受け取るショットのショットブレイク。

▲(左)実写プレート。赤ちゃんをスタッフが手で運んでいる
▲(右)スタッフの手を消去した実写プレート

▲(左)触手のCG素材。日中の屋外というごまかしの利かない状況だが、肉の質感などがとても上手く表現されている
▲(右)完成ショット

田宮の手元に赤ちゃんが戻るショットのショットブレイク。

▲(左)赤ちゃんと田宮の実写プレート。触手が赤ちゃんをまだ抱いている状態なので、スタッフが手で赤ちゃんを支えている
▲(右)空画を使ってスタッフを除去し、CG素材の触手を合成してもおかしくないように、赤ちゃんを包む布の形状を変形させている

▲(左)触手のCG素材
▲(右)完成ショット

05:VFXによって創出されたカーチェイス

手法にこだわらないVFX

新一とミギーが後藤からクルマで逃げるカーチェイスのシーンでは、背景からクルマまで多くの要素をVFXによって構築している。とても多くの要素が絡んでいるシーンのため、数カットなのだが大がかりな制作体制で挑まれた。

このシーンは、車内のカットと車外のカットに分かれているが、車内のカットはスタジオにクルマを置いて停めて撮り、外を走るクルマは実車をカメラカーで撮影している。車内カットの窓外から見える背景は、360度の視界をカバーするように配置された7台のGoProを使って山道を撮影。その映像をNUKE内に構築した天球にプロジェクションしている。

GoProの動画はそれぞれ4K解像度で撮影しているが、それでも解像感が低く合成に苦労したという。また、背景の変化に合わせてボンネットやハンドルなど車内の照り返しを表現するのが非常に手間のかかる作業となった。

クルマがガードレールを突き破って落下し爆発するカットでは、クルマとガードレールはフル3DCGで作成されているが、爆発するクルマや飛び出す新一は実写素材を使っており、CGと実写の素材が入り交じる状態だったことから、動きの整合性をとるための調整が大変だったとのこと。全てがCGであれば、クルマの落下も自由に動きが付けられたが、それでも実写の爆発の説得力が優先された。

本作ではこのように素材を臨機応変に使い分けて作られているVFXが多い。「うちのチームは画を見てどのような素材を使うか判断するので、CGがダメなら実写を使うし、実写がダメならCGを使います。手法にこだわりはなくて、あくまでも画の完成度だけを考えて作業するのです」と高橋氏は語る。CGだけではない白組 調布スタジオならではのこだわりが感じられる作品だ。

ミギーがクルマを運転する車内のショット。

▲車内の実写プレート

▲(左)7台のGoProで撮影した背景素材を天球に貼り込んで、360度視野の背景を作成
▲(右)GoProで撮影した素材で対応できない場合は、撮影された映像から使いどころをチョイスして組み合わせることで背景を作成している

▲(左)ミギーのCG素材
▲(右)ミギーのデプス素材。背景変化による日差し感を出さないといけないため、このほかにもいくつかのパスが使われている

▲完成形。フロントガラスへの映り込みなどもつくり込まれている

クルマがガードレールを突き破るショット。

▲(左)クルマと後藤のCG素材。通常調布スタジオではビューティしか出力しないそうだが、ここでは複数のパスが出力されている
▲(右)ガードレールのCG素材。変形はMayaのシミュレーションで行われた

▲(左)道路の実写素材
▲(右)完成ショット

クルマが爆発するショット。

▲(左)脱出する新一の実写プレート
▲(右)クルマが爆発する実写プレート

▲ミギーのCG素材を合成した新一の素材

▲完成ショット

TEXT_大河原 浩一(ビットプランクス)

Information
映画『寄生獣 完結編』
2015年4月25日全国東宝系で公開中
監督・VFX:山崎 貴/脚本:古沢良太、山崎 貴/原作:岩明 均「寄生獣」(講談社刊)/音楽:佐藤直紀/撮影:阿藤正一/美術:林田裕至/VFXディレクター:渋谷紀世子/
出演:染谷将太、深津絵里、阿部サダヲ、橋本 愛、浅野忠信ほか/制作プロダクション:ROBOT/配給:東宝
©2015映画「寄生獣」製作委員会 kiseiju.com

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