03 レンダリング用のノードを構築する
シミュレーションされた結果に質感を付加するシミュレーションが終了したら、質感を施していく。シミュレーションされたポイントにノーマルの情報がないと影の方向などがレンダリングできないため、カメラの視野情報からノーマルの情報を得て、ポイントに付加していく。スマートフォンモデルのボリューム化したポイントだけではレンダリング時に穴が開いて見えることがあるため、サーフェスにもポイントを配置することで、綺麗な形状と質感を得ることができたという。レンダリングエンジンにはMantraを使っている。Mantraはマイクロポリゴンレンダリングもあれば、物理ベースレンダリングもあるが、今回は物理ベースレンダリングが使われた。小さなジオメトリではノイズの問題が出てくるためにサンプリング数を上げる必要があったが、レンダリングコストと画像クオリティのバランスを気にかけながら作業を進めていったという。
スマートフォンのディスプレイ部分は、ガラスであるため、どのように砂に変化するかがポイントとなったが、表面がガラスの状態から、本体が砂状化する過程でディスプレイが点滅しながら消えていく様子なども表現され、監督からも好評価を得る表現となったそうだ。ディスプレイ部分は、ひび割れた感じを強調したいため、割れるブロックをforeach_meshノードで個別にメッシュ化し、パーティクルを生成している。そこにガラスの質感を設定し、ノードの設定だけで点滅しながら暗転するアニメーションが作成された。「Mayaなどで同じようなことをすると、キーフレームを設定したり手間がかかる作業になりますが、Houdiniであれば、プロパティの変更だけで点滅の周期を 変更することもできます」とパベル氏は言う。
▲シミュレーションされたキャッシュに質感を設定するノード構成。黄色の部分のノードはガラスの質感を設定するノードだ。右側のノードのフローは、ポイントにノーマルを設定するためのノードだ
▲ヒビが入った状態をつくるため、ガラスを部分で分割して個別にメッシュ化するforeach_meshノードのパラメータ
▲foreach_meshノードを展開したもの。黄色い部分が、分割してメッシュ化された領域から発生したパーティクルをメッシュ化するノード。右側はそのノードのパラメータ
▲レンダリング用の設定ノードの構成。灰色の部分は、MayaのシーンからAlembicやカメラなどのデータを書き出すためのノード。青い部分がレンダーエレメンツのノード。ここでは、ビューティ、シャドウ、スクリーン、グレインが登録されている。紫の部分はシミュレーションのノード。赤い部分はレンダーファーム管理ソフトと連携させるためのノード
シミュレーションからレンダリングまでをHoudiniで
本作では、前述したようにシミュレーションからレンダリングまでをHoudiniによるパイプラインで構築されている。レンダリング時には、コンポジットでビューティを再現できる程度のレンダーパスを出力しているが、レンダーパスの内容もノードで管理されている。スマートフォンが砂状化するシーンでは、本体と砂は別々にレンダリングされいるという。Houdiniではレンダリング画像にLUTを適用する機能があるので、LUTが適用された状態で素材がレンダリングされた。
HoudiniのMantraを使ってレンダリングされた素材
消滅するDVD
リンダではスマートフォンが砂状化するエフェクトのほかにも、床に落ちたDVDパッケージが砂状化して崩れていくというショットも担当している。DVDパッケージのエフェクトも基本的にはスマートフォンのエフェクトとつくり方は同じだという。「パッケージに空洞があり、スマートフォンとは若干崩れ方が異なるので、ノイズを入れて粘度を下げてすぐに潰れないような工夫をしていますが、つくり方は一緒です。空洞があったことでとてもリアルに見えるエフェクトになったのではないかと思います」と海老澤氏。シミュレーションに関しては、監督チェックではあまりリテイクもなかったが、DVDのエフェクトでは質感の調整に何度かリテイクがあったという。「砂なのでどうしてもスペキュラの感じが上手くでないという問題があり、そこはコンポジットで修正したり、追加素材を出して対応しました」と海老澤氏は話す。
▲床に落ちたDVDのパッケージが砂状化するエフェクトのシミュレーションノードの構成。ノイズを入れて粘度を増している以外は、スマートフォンのエフェクトと同様のノード構成になっている。他のシーン用に作成したノードを別のシーンで効率良く流用することができるのもHoudiniを使う利点のひとつだ
▲レンダリング用のノード構成。DVDパッケージの透明フィルムの質感から砂化する状態を表現するために、スペキュラの設定用に追加素材を出力して対応した
DVDパッケージが砂状化するエフェクトを構成するレンダーパス。シーンの3DCGモデルやカメラワークはジットが担当している
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映画『世界から猫が消えたなら』全国東宝系にて公開中
監督:永井 聡/出演:佐藤 健、宮﨑あおい、ほか
原作:『世界から猫が消えたなら』
川村元気・著
脚本:岡田惠和
撮影:阿藤正一
美術:杉本 亮
VFXスーパーバイザー:神田剛志
製作:映画『世界から猫が消えたなら』製作委員会
制作プロダクション:東宝映画
制作協力:ドラゴンフライ
配給:東宝
© 2016映画『世界から猫が消えたなら』製作委員会
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