03 外部パートナーとの協業
スピードとクオリティを両立させる確かな手立て
フルCGで制作された3エピソードのうち、アウストラロピテクス・アファレンシスとホモ・ハビリスの2編は、Image Engine(以下、IE)が担当。実写合成で仕上げられた7エピソードのVFXワークは、デジタル・フロンティア(以下、DF)が担当。そして、撮影コーディネートとポストプロダクションはソニーPCLが手がけている。3社とも『キングスグレイブ FFXV』プロジェクトにも参加しており、良好なパートナーシップが築けていること、そしてなによりも確かな技術力をもっていることがオファーの決め手になったという。
IEとの共同制作は、2017年3月頃から2018年1月末までの約10ヶ月にわたったという。「制作ボリュームとしては約6分でしたが、『キングスグレイブ FFXV』とはちがい、今回はクオリティの指針となる映像がない状態からのスタートでした。そして、一部のアセットやデータを共有する必要がありました。さらに監修への対応も求められたのでいっさい気は抜けませんでした。その意味でもIEさんと過去プロジェクトを通じて信頼関係が築けていたことに助けられましたね」と、IE担当パートの進行管理を務めた、佐藤 英開発マネージャー(SQEX)はふり返る。
実写パート用の撮影はオーストラリアで実施。ロケハン含めて6週間(撮影:45日間)で行われた。「海外の撮影ということもあり、現地のスタッフとのやりとりも少し不安ではありましたが、バイリンガルの越野創太さん(ソニーPCL)に参加していただけたので何かと助けられました。やはり細かいニュアンスは、実制作に精通されていない通訳さんではどうしても伝わりづらい面があるので」(綿森氏)。最終的な納品フォーマットは4Kだが、実写撮影とポスプロ工程を担当したソニーPCLが独自に開発したカラーパイプライン、アップスケール技術を活用することで、実写撮影は5Kで行いつつ、CG・VFXは2Kで制作された。撮影カメラはメインがRED EPIC、ドローン空撮はInspire2、ハイスピードはPhantom HD。撮影現場でのリファレンス収集としては地形データの収集にFARO、HDR素材はNikonデジタル一眼とRICOH THETA Sを併用。「FAROがなかったら成立しなかったかもしれません。屋内など閉じている空間での使用経験はありましたが、今回のようなオープンな場所でどれくらいできるのかはチャレンジでしたが、屋外ロケでもFAROの有効性を実感しました」とは、山本善樹コンポジットSV(DF)。DFの制作環境としては、レンダラはV-Ray、毛の生成にYeti、筋肉シミュレーションにZIVA VFXを使用したという。「今までは内製の割合が高かったのですが、外部パートナーとの共同制作によって、自分たちの表現幅を広げられることを実感することができました。それぞれの得意分野をもち寄ることで世界でも十分に戦っていけるはず。ひき続き取り組んでいきたいです」と、綿森氏はさらなる展望を語ってくれた。
アファレンシスのブラッシュアップ例
アファレンシスモデルのチェック用レンダリングイメージ
ハビリスのチェック用レンダリングイメージ。IEが制作したキャラクターアセットのうち2種(メガンテレオン、デイノテリウム)はSQEXとの共有アセットのため、相応のコンバート作業(Arnold+Yeti/V-Ray+Ornatrix)が発生した
アファレンシスのフェイシャル作業例。ショットワークがある程度まで進行したものをテストレンダリングしてチェックというフローが採られた。IE担当フェイシャルは期待以上の仕上がりで、フルCGパート全体の指針にもなったという
Image Engineが開発するオープンソースのノードベース型アプリケーション作成ツール「GAFFER」( www.gafferhq.org )。「個人的に一番考える必要があったのは、各キャラクターはもちろんですが、どのシーンにも登場する、ある意味で主役のエンバイロンメントでした。各ショットのカメラから見える範囲の検証や、距離的にどこまでパララックス(視差)が見えるのかなど、プリビズが終了した時点で『どこからどこまでをアセットで制作し、どこからマットペイントに切り替えるか』を明確にした上で作業を進めました」とは、IEの清水雄太CG SV。実作業では、GAFFERを使い、ポイントベースで環境の構築を行い、最後に同じくGAFFERのインスタンサーで草や木を配置。風などの表現は、草や木単体でのシミュレーションを500フレームほど行い、GAFFER内のポイントデータにクオンタイズされたデータを乗せることで、目に見えるリピートを防ぎつつ、自然に見えるように構築したという
アファレンシス ショットのブレイクダウン例。IEからはLUTをベイクしていないOpenEXR形式で納品。各ショットごとに、Asperaを介して連番が納品されたものを、SQEX側でダウンロード+社内指定領域へパブリッシュするかたちで管理。「手作業だとかなり大変ですが、『キングスグレイブ FFXV』時に開発したツールを本作用にカスタマイズすることで自動化しました」(佐藤氏)。今回は、アセット制作に関しては期限がきた段階でそれ以上の追い込みはあえて行わずに、シークエンスでのライティングや見え具合によって(必要に応じて)ブラッシュアップすることで、スケジュールとクオリティを両立させたという(ひとえに過去プロジェクトからの信頼関係があってこそ成し得たものだ)
オーストラリアにおける実写撮影の様子
ブルースクリーン機材は現地プロダクションで調達。ソニーPCL、DF、現地の撮影クルーで協力して設営された。現地の撮影クルーはCG・VFX制作に慣れておりとても協力的だったという
3DレーザースキャナFAROによる、リアリティキャプチャの様子。そのほかにも定番のカラーチャート、銀玉、グレーボール、そしてファーボール等のリファレンスが撮影された
ネアンデルタール人のエピソードに登場するケブカサイのブレイクダウン。毛並みの生成にはYeti、筋肉シミュレーションにはMayaプラグインのZIVA VFXが用いられた
アイベックスの群れショットのブレイクダウン。「一番最初に撮影を行なったシーンだったのですが、特に難易度の高いVFXが求められました」とは、DFの大塚康弘CGディレクター