<2>ショットワーク~渋谷~
3DCGと合成の知見を総動員しリアルな渋谷をつくる
前項で述べたとおり、オープンセットには渋谷のスクランブル交差点の中心部分から奥はなかったため、抜けに映り込んでくるマルイや道玄坂などのエンバイロンメントを制作することになった。また、交差点の地面の起伏がセットと実際で若干異なったため、オープンセットのレーザースキャンやキットバッシュをミックスしながら実写に合わせて調整。さらに、セットと実景とのちがいとして渋谷駅前の東急百貨店などの影の有無があった。そこで、そうした落ち影を表現するための建物モデルも作成し足し、実写プレートに影を合成させている。
走行するクルマやモブも3DCGで作成。モブ表現は、土井氏が普段から愛用しているAXYZ社のanimaを使用。アプリ内にモーションライブラリが用意されており、選んでシーンに読み込み配置するだけなので効率良くモブをつくり出せるそうだ。「モブキャラはほとんどanimaでまかなっています。QFRONT 2Fのスタバ店内にいるお客さんもanimaで作成したキャラクターがベースです。窓の透過表現についてはリアリティを出すために建物本体とモブ、窓ガラスを個別にレンダリングして、逆サイドの東急のビルもしっかりと反射するように設定しました」(土井氏)。駅前の大きな看板など演者に近いものは美術で作成されたが、景観内の看板は制作プロダクションにそのままカット内に登場させてもOKか確認してもらいつつ、NGだったり演出的に差し替える必要があるものはデザイン(テクスチャ素材の制作)を外部パートナーに協力してもらいCGで作り替えているとのこと。こうした街並みのアセット制作は撮影が始まる前から着手し、トータルで約7ヶ月を費やしたそうだ。
5話以降のメイン舞台となる「ビーチ」シーンについては、建物のベースとなるホテルの所在地と撮影したロケ地が異なるため、3DCGで再現したホテルを合成している。また、クライマックスで発生する火災の表現については、演者との距離が近いためHoudiniによるボリュームエフェクトと実写の炎素材を組み合わせて作成された。実写素材とCGの使い分けは、演者が手に持つ松明の炎や壁に当たって動きが変化するなど、演技との整合性やロケ地の形状とインタラクションさせる必要のあるものにCGを利用しているとのこと。
背景素材のコンポジット
レンダリングした背景素材のコンポジット
ライティング
今回、背景アセットのライティングが多かったが、撮影プレートに合わせて環境を作成しても、対象サイズが大きく異なること、リファレンス写真の日の入り方も実際のカットとは異なるため、そのまま使用できないことなどで苦労をしたという
▲THETAやD800で撮影したRAW画像を現像し、パノラマ写真合成ツールPTGuiで統合したHDRI画像
▲撮影チャートとMayaのレンダリング画像をNukeに読み込み、比較して調整
▲Mayaと同等の環境をUE4で再現し、揺れる木をムービー出力してシミュレーションコストを削減した
▲ライティングのOKテイク
ブレイクダウン
撮影プレートのキーイング、および背景素材とのコンポジットのブレイクダウン。撮影プレートにはグリーンバックと空が混在していたため、その境目が今回のキーイングの難所となった。また、撮影プレート・CG素材が共に4Kサイズで容量が大きく、読み込み負荷が高くなり効率が低下したため、Nukeのローカライズ機能を活用したり、途中段階でプリレンダリングを行なって工夫した
NukeによるVFX作業例
▲レーザーで撃たれる瞬間のショット。Mayaでアニメーションを付けたシリンダをNukeにインポートし、NukeでNoiseにアニメーションを付け、レーザーの質感を出している。また、顔への照り返しは、Mayaで素材をつくり、足りないところをNukeのRotoPaintノードで補った
▲レーザーで撃たれた後のショット(左が適用後)。右目眼球の変化は、Nukeに目のオブジェクトをインポートし、2Dトラッキングで位置を合わせ、3Dで目の角度を変更している