<3>ショットワーク~地下道~
バーチャルプロダクションでイメージをより効果的に共有
4話のゲーム会場となる地下道シーンの制作では、UE4を用いたバーチャルプロダクションによってプリビズが作成された。「クロヒョウのカットと、ウサギたちを襲う水流のカットの演技や撮影プランを検討するためにプリビズを作成しました。ハリウッド映画の事例を調べたりしながらチャレンジしました。撮影監督の河津(太郎)さんとアクション監督の下村(勇二)さん、そしてアクターさんにオパキス(DFのパフォーマンスキャプチャスタジオ)にお越しいただき、ロケ地(神戸市の港湾トンネル)を3Dスキャンモデルから作成した地下道のUE4シーンのバーチャルセットで撮影を行いました。UE4のリアルタイム合成は、そこそこフォトリアルな見た目で確認できるので、イメージを共有しやすくてとても有意義なプリビズになりました」(土井氏)。
クロヒョウは浜松の動物園に行き、実物からリファレンスを収集。遠目から見るとただの黒に見えるが、近距離で見るときちんと豹柄が見える。そうした点もしっかり3DCGで再現された。実作業中には、毛を生やすと筋肉の揺れがあまり見えなくなり、大きめに揺らすなど試行錯誤があった。「クルマの揺れなどもあるので、役者さんの撮影時はアクターさんにクロヒョウを演じてもらいました。基本的に頭でトラッキングできるようにターゲットを付けて、手や足は役者との接触部分が馴染ませやすいにように、フサフサした手足に仕上げました」と、土井氏。クロヒョウは、角度によっては表情が意図せず可愛く見えてしまうため、目線や表情には非常にこだわった。なお、クルマの下に逃げ込んだヤマネを襲うカットでは、入れないようにサイズを約1.4倍にデフォルメして対応しているとのこと。そして、地下道の途中が鉄板で塞がれており、その鉄板が水流の圧力によって吹き飛び流れ込んだ大量の水がウサギたちに迫り来るというクライマックス。水の表現はHoudiniで作成されたが、苦心したのが水のスピード感だったという。「ウサギたちは走って逃げるのですが、水が迫ってくるスピードの方が圧倒的に速いわけです。そこで、すぐ背後にまで水が迫っている緊迫感を保つために、カットに合わせて水流の移動距離と開始位置を調整していきました」(土井氏)。
最後に土井氏が本プロジェクトを総括してくれた。「みんなが知っている渋谷を無人の街として描くのはかなりのチャレンジでしたが、なんとか期待に応えることができたと思います。フォトリアルな動物表現やUE4の利用についても、次のステップへと進める手応えがありました。本作はシーズン2の製作がすでに発表されていますが、次回はHDRへの対応も必要になってくると思うので、しっかり準備を進めようと思います」。
水で鉄板が破壊されるカット
Houdiniによる、水で鉄板が破壊されるカットの制作。シミュレーション速度を重視して、鉄板の変形にはBullet Solverとコンストレインを組み合わせた。また、本来は水圧で変形後の鉄板を動かすべきだが、RBD Packed ObjectsはFlip Solverでは正しくコリジョンせず、かといってRBD Objectにするとシミュレーションが重すぎるため、鉄板の動きは水のシミュレーション前に完結させ、コリジョンのためだけに読み込むことにした。なお、変形時に飛ぶビスの動きや飛沫は、鉄板の動きの変更後はプロシージャルに変わるようにセットアップしている
▲変形部分のアップ
シミュレーション
鉄板の変形シミュレーション完成後、水と飛沫のシミュレーション制作の様子
▲水のシミュレーションの適用結果
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▲飛沫のエミッターは水のシミュレーション結果を基に作成。シミュレーションを軽くするため、DOP内でカメラ外のポイントを消し、シェーディングで使用するMaskアトリビュートなどを作成した
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▲最終ショット
プリビズ制作
トンネル内のクロヒョウシーケンスのプリビズ制作。DFのモーションキャプチャスタジオ「オパキス」で、バーチャルプロダクションを使用している。撮影は監督がバーチャルカメラで行なっており、今後はレール、クレーンなどを持ち込んで行う予定とのこと
クロヒョウのモデル
3DCGによるクロヒョウのモデルは、当初からMaya用プラグインZiva VFXで筋肉のシミュレーションを行うことが内定していたため、モデル制作はそれを想定したメッシュの密度とトポロジーで制作。毛の作成にはYetiを使用した
▲Mayaで作成したモデル
▲登場人物の等身大モデルとのスケール確認と調整
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▲Yetiによる毛の作成。黒はベースの毛、赤は毛の質などのバリエーション、青は鼻や口周りのウェットな質感用、緑はInstance機能を使用した汚しディテール
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▲質感は物理ベースではあるものの、暗いショットで理想的なルックになるよう成分のバランスを調整
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▲Ziva VFXによる筋肉シミュレーションモデル。レンダリングしてみると、毛の長さなどによって筋肉の動きが目立たない問題が発生したため、シミュレーション結果を読み込んだ状態で調整した
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▲フェイシャルのリグ。実写動画を参考に、レンダリングしながらリグとベースアニメーションを作成
クロヒョウのアニメーション
クロヒョウのアニメーションは、トラッキングプレートとカメラをMayaにインポートしたら、まずはリグが軽めのボディから作業開始。監督チェックでOKをもらったら重めのフェイシャルに取りかかるというながれになった
▲クルマの上から襲いかかるショット。迫力を出すために現実より1.4倍ほど大きめにしている
▲キャストに噛み付くショット。カメラに貼った映像を見ながら激しく動くキャストに少しずつ合わせた
コンポジット
Nukeによるクロヒョウ登場ショットのコンポジット例
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▲Reflectionに対して発煙筒の光の影響を適用し、GIやSSSなどのAOVを重ねる。クロヒョウの手前にマスクを作成し、撮影プレートを乗せる
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▲撮影プレートに合わせてカラコレ、空気感などの調整を行い、発煙筒の照り返し用素材を調整して乗せる
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▲この時点ではドアに挟まれている表現になっていないため、挟まれている顔部分を抜き出し、ドアの手前に乗せる。抜き出しにはDeep素材を使用し、DeepHoldoutノードでマスクを作成した
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▲影やオクルージョンなどの馴染ませ処理を行い完成したショット