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TVCM 株式会社ミニミニ『MINIMINI MAN』篇

TVCM 株式会社ミニミニ『MINIMINI MAN』篇

03:背景制作 大量の実景写真を駆使した背景制作

三部作を通して、背景は全てグリーンバックで撮影されているため、背景にはマット画と写真を描き変えた3Dマット、加えてモデリングされた背景モデルを使ったフル3DCG背景が制作されている。

マット画や3Dマットの制作には多くの風景写真が利用されているが、これらの写真はスタッフが都内の近未来的な風景に加工できそうな街並みを夜な夜な探し出し、本番撮影に近いアングルで大量に撮影したものだそうだ。撮影された風景ショットは約1,000枚。露出ちがいを入れると約3,000枚はあるという。撮影された写真素材はすぐに仮合成され、問題があるようであれば再び撮影が行われた。

「当初はニューヨークとかに撮影に行こうという話もありましたが、再撮影などの手間を考えて都内で撮影することになりました。機動力が必要なので、あまり三脚を使わず手持ちのNikon D800で撮影しています」と岩崎氏は語る。

マット画は全部で4枚制作されており、コンセプトアートも作成しているINEIが担当した。セットの抜けに配置されるマット画はある程度流用が利くので、似たアングルではビルの位置を変えられるようにし、臨機応変なレイアウト変更に対応できるように制作されている。

一方地上部分の背景はマット画ではなく、写真を3Dモデルにカメラマップして街並みを構成するような写真要素が強い背景となっている。最初は近未来的なビルで構成しようと思っていたそうだが、最終的には表参道的なおしゃれなショーウインドウなどの写真で構成されることとなった。

▲(左)高層ビルから撮影した都心の夜景
▲(右)街中のショーウインドウなどの写真も利用された

▲(左)Mayaで簡易なビルのモデルを作成し、そのモデルに加工した写真を投影している
▲(右)Mayaで作成した背景を俯瞰でレンダリングしたもの

▲(左)実写プレートに合わせたカメラワークで背景をレンダリングした素材
▲(右)レンダリングされた背景の抜けにマット画を合成したもの

▲完成した背景に、実写プレートと、看板のCG素材を合成した完成ショット

フル3DCGで背景が作られている例

▲(左)敵キャラが現れるビルのモデルデータの全体像
▲(右)カメラワークを付けたシーンデータ

▲レンダリングされた素材

▲(左)看板が落下するビルのモデルデータの全体
▲(右)カメラワークを付けたシーンデータ

▲レンダリングされた素材

▲ビルのモデルに使われているテクスチャデータ。ディフューズやバンプ、リフレクションなど高解像度のテクスチャが用意されている。実写と比べると3DCG背景は情報量が少なくなりがちなので、高解像度でディテールが描き込まれている

04:シーンメイキング オープニングカット

オープニングのカットは、MINIMINI MANの実写プレートに3DCGで作成された屋上、INEIが作成したマット画による背景で構成されている。

マット画はローダイナミックの状態で仕上げられているので、煙素材や光を加えていくとマット画自体の色彩が濁ってくるが、窓の明かりなど輝度が高い部分の色が1以上になるように調整することで、輝点が濁らず綺麗な夜景を保つように加工されている。

煙素材やレンズフレアを足しながら雰囲気を出しつつ、実写感を足すためにRGBの各チャンネルをずらしたり、画面の隅の明るさを落とすなど、実在感のある画づくりに注力したという。

▲(左)MINIMINI MANの実写プレート
▲(右)モデリングされた屋上。プリビズを参考にカメラから見える範囲がモデリングされている

▲(左)輝度調整の例。オリジナルのマット素材では窓明かりなど輝度が高い部分でも各チャンネルの値が1以下になっている
▲(右)輝度の高い部分の各チャンネルが1以上になるように調整した状態

▲完成した背景のマット画。霞がかかっている部分でも窓明かりが明瞭になり、ディテールの表現力を落とすことなく合成されている

▲(左)実写のカメラワークに合わせたシーンデータ
▲(右)レンダリングされた屋上のCG素材

▲マット画、CG素材、実写プレートを合成した完成ショット

着地ショット

屋上から飛び降りて着地したMINIMINI MANが、爆発するビルを見上げるというカット。

背景はNUKE内に構築した3Dモデルに建物などの写真を投影して構築されている。コンポジターの福田林太郞氏によれば、背景は写真ベースであるため、スモークを焚いたり、看板のLEDが動いていたりするような、なるべく動く要素を画面に足すことで活きた街であることを強調しているという。

爆発は3ds MaxでthinkingParticles とFumeFXを使って作成されている。

▲(左)実写プレート
▲(右)NUKE内に再構築したモデルに加工した写真を投影

▲(左)NUKEのカメラから見たシーンの状態
▲(右)爆発素材。FumeFXで生成した煙にXYZ各方向からそれぞれ異なる色のライトを照射して陰影調整用のマスクを作成している

▲完成ショット

群衆の中から飛び出すMINIMINI MAN

落ちてきた看板を支え、敵キャラに向かって飛び立つMINIMINIMANのカット。

このカットでは画面内に密集した群衆が配置されることになるため、どのようにエキストラの人たちを配置して、どのように分割して撮影するのが一番効率的なのかをプリビズから分析し、カメラの位置やレンズの構成、エキストラの配置を細かくプランニングした上で撮影に臨んでいる。

エキストラはいくつかのグループに分けて、真上、少し角度をつけたもの、さらに横にしたショットといったように、カメラの撮影角度を変えたものを円周上に配置して撮影された。また隙間を埋めるために、PhotoScanでエキストラの人たちのデジタルダブルを作成して配置している。

ミニミニの看板は、美術部が作成したラフデザインを基にモデリングしたものが使われている。看板は社名ロゴを加工して作成しているためCM制作上最も気を遣う作業となるが、クライアントが非常に柔軟で自由に表現することができたという。

▲(左)群衆を分割して撮影するためのエキストラの配置を記したプランニングシート
▲(右)エキストラを撮影する際のカメラの位置や角度を記したプランニングシート

▲分割撮影されたエキストラの実写プレート

▲エキストラのデジタルダブル

▲(右)合成された群衆プレート

▲(左)看板のモデリングデータ
▲(右)看板の鉄骨用マスク素材

▲(左)ネオン管用マスク素材
▲(右)マスタービューティ素材

▲(左)実写プレートに看板を合成したもの
▲(右)MINIMINI MANのCG素材

▲完成ショット

MINIMINI MAN vs.敵キャラ

CM三部作のラストを飾るMINIMINI MANと敵キャラとの対決は、MINIMINI MANを含めフル3DCGで作成されている。

屋上のルック調整は冒頭の屋上カットで検証済みなのでそんなに困ったことはなかったそうだ。通常CM制作では、映像を各要素に分けて納品してInfernoで組み直して代理店とクライアントでつめるということが行われるが、本作に関しては、フルコンポジットまでエヌ・デザインで行い納品しているという。いかに監督とエヌ・デザインがクライアントから信頼されていたかがわかる作品だ。

▲(左)対決カットのMayaによるシーンデータ。背後にビルの3Dモデルが足されているのがわかる
▲(右)背景マット素材

▲(左)レンダリングされた屋上のCG素材
▲(右)キャラクターのCG素材

▲完成ショット。キャラクターなどのCG素材では全編通してIBLを使ったライティングが施されている。夜景の写真素材を撮影する際にHDRも撮影されているが、結局グリーンバックで撮影したHDRを使ったIBLが自然に馴染んだという

TEXT_大河原 浩一(ビットプランクス)

Information
TVCM 株式会社ミニミニ『MINIMINI MAN』篇 公開中
監督:KIRIYA PICTURES/VFX制作:エヌ・デザイン
©minimini.inc
minimini.jp/tokushu/cm

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