<2>アセット:キャラクター&メカ
アニメのニュアンスとリアリティの両立
本作では、キャラクターやメカなどのアセット制作も複数社(者)からのチームで分業している。人物のモデリングはPictREGOの小薬健太郎氏、メカおよびプロップはstudio picapixelsの帆足タケヒコ氏、それぞれのリギングはATTICのリチャード・ハウ氏が各々をリードするという座組みだ。上述のとおりそれぞれの得意分野にタスクを割りふることで制作のスピード感を確保する、東監督によるマネジメントの好例である。キャラクターモデルの制作をリードした小薬氏がメインで使用したのはMayaとZBrush。3ds Maxを用いるチームが混在することは最初から想定されていたため、はじめに制作された素子とバトーについてはデータコンバートの確実性を重視して髪の毛の表現は板ポリゴンにとどめるなど、汎用性を重視して制作された。なお、その後に制作された容疑者(織部)と容疑者の妻(ユリ)についてはイチから3ds Maxで制作されている。このようにチーム全体ではMayaと3ds Maxが混在した制作環境となっていたが、メインレンダラとして使用したV-RayのVRmat Converterを使用することで、Mayaで制作された質感を3ds Maxにコンバートし、作品全体で共通のルックを表現することができている。キャラクター設定は劇場アニメ『ARISE』の設定をベースとしたが、当初アニメテイストで制作したモデルはほどなくVR作品のテイストに合わないことがわかり、およそ1ヶ月をかけてリアル系に寄せた調整が行われている。VR制作ではこのように、実際につくってみないとわからない、という点も多い。特にVRならではのつくり込みが必要となったのが光学迷彩スーツのデザインだ。アニメの設定ではツルっとしたシンプルなテクスチャとなっていたが、VRでは細部の立体感の見ごたえを出す必要があり、自主的にディテールが足された。ただし、スケジュール上の制約もあり、ノーマルマップを多用することでの対応となっている。
帆足氏のチームが担当したメカ/プロップ制作については劇場版アニメ向けに作成されたモデルをベースにすることができたが、それらはトゥーンシェーディングに最適化されたもののため、実写に寄せることと、VRならではの細部の立体感を出すことを意図。コンテをチェックし、ディテールが必要な部分にはパーツを付け足すなど再モデリングが行われている。また同様に、メカの破壊パターンもコンテからの情報をベースに、破壊の方向、歪みなどを詳細にモデリング。細かなサビや傷まで表現されたテクスチャは、帆足氏による完全な描き直しだ。帆足氏が「アニメの設定が非常に詳細だったため3Dできちんと見せたかった」という素子の左手メカは非常に多数のパーツが複雑に展開しグレネードランチャーが露出するというものだが、こういった高難度のギミックも含め、全てのリギングはATTICのハウ氏チームが担当した。同社ではMotionBuilderとのシームレスな統合がなされた内製のツールを使用し、制作を効率化しているという。上述のいわゆる"素子ハンド"も、スイッチ1発で展開、かつ様々な演出が加えられるよう、他チームによるシーン構築時の利便性を考えて丁寧なセットアップが行われている。
【メインキャラ】
草薙素子のモデル変遷。アニメのキャラデザを踏襲したものから、よりリアルなデザインへとブラッシュアップされた
素子の完成モデル。レンダリングイメージ
光学迷彩スーツの完成モデル(ダメージ表現あり)
バトーの上半身モデル(側面)の作業過程を図示したもの。よりハイディテールへとつくり込まれていった
スケジュールやコスト面との兼ね合いから本編には登場しないが、素子と同じくバトーの光学迷彩スーツVer.にはダメージ表現を施したものも作成されていた
【サブキャラ】
攻殻VRで新たに登場するテロリストの織部とその妻ユリについては、『ARISE』シリーズの総監督を務める黄瀬和也氏がデザインを起こした
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織部のモデル
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ユリのモデル。織部と同じ要領で作成された。髪の毛は3ds MaxプラグインのHair Farmで表現。小薬氏が作成したベースモデルをブラッシュアップするかたちでdigidelicが完成させた
【メカモデル】
ロジコマと織部が操るアーマースーツの両モデルをARISE版と攻殻VR版とで比較したもの
帆足氏のチームは、銃器などのプロップやアーマースーツの寄り画向けのパーツ、素子の左手に施されたギミックガン(後述)のモデリングなども手がけている