>   >  VFXアナトミー:VR作品『攻殻機動隊 新劇場版 VIRTUAL REALITY DIVER』(VFX制作:WOW、stoicsenseほか)
VR作品『攻殻機動隊 新劇場版 VIRTUAL REALITY DIVER』(VFX制作:WOW、stoicsenseほか)

VR作品『攻殻機動隊 新劇場版 VIRTUAL REALITY DIVER』(VFX制作:WOW、stoicsenseほか)

<3>背景セット

異なるレンダラ間でルックを統一させる

本作のいくつかのシーンでは、キャラクターが絡む部分と背景の制作とを完全に別のスキームで制作を行なっていることも特徴と言える。具体的には、メカとのバトルが展開する湾港のシーンと、織部と素子の意識世界が描かれる桜の島シーンにおいて、キャラクター部分はMaya/3ds Max、背景はCINEMA 4D(以下、C4D)で、ツールもチームも別々に制作されている。背景制作を担当したのはKahkiの田崎陽太氏チーム(桜の島)、および横原大和氏チーム(湾港)だ。各背景のおおまかなレイアウトは東監督によるプリビズで指定されていたため、それに沿ったかたちで近景をつくり込む。湾港シーンの意匠については、『ARISE』のコミカライズ作品や実写サンプルを参考資料としてディテールをつくり込んだという。

問題は、C4Dで制作されたデータが、キャラクター関係のチームが使用しているMaya/3dsMax環境ではでは上手く読み込めないこと。「同様のルックをMayaで再構築するのは大変すぎてナンセンス」との判断から、Maya+V-Rayによるレンダリング結果と、C4D+OctaneRenderによる背景レンダリング結果をコンポジットするという手段をとった。このため、V-Rayで出力された各シーンでは、C4Dから出力されたIBLデータを用いてライティングが行われている。また、3ds Max上で動作させたキャラクターのマスクを用い、余計な部分が背景映像に出力されないような工夫も行われている。例えば、桜の花びらが舞い散るシーンの近景では、キャラクターにパーティクルがめり込まないよう、キャラクターの動きに合わせてマスク用のオブジェクトを配置するといった具合だ。

制作当初はV-RayもOctaneRenderもネイティブではパノラマ立体視(S3D)に対応しておらず、外部レンズプラグインを使ったレンダリング結果がどうしても数ピクセルずれてしまうという問題に直面した。一時はS3Dをあきらめようという声も出るほどだったが、V-RayとOctaneRenderのどちらもにパノラマS3Dに正式対応。コンポジット結果がピタリと一致するようになり、ことなきを得たという。とは言え、左右の映像出力のため2倍のレンダリングコストがかかるという事情は変わらず、V-Rayには外部レンダラを組み合わせたり、OctaneRenderではTITAN Xの12枚体制でGPUレンダリングを回す、目立たない部分のオブジェクトやライトを減らすなど、レンダリング時間の短縮に向けて様々な努力が行われた。それでも背景1フレームあたりのレンダリング時間は40分程度が目安。1シーンのレンダリングに2週間かかるといった状況で、納品タイミングから逆算した制作進行はかなりのヒヤヒヤ感を伴ったようだ。出力されるデータ量も10GBを超えるなど、オンラインでやりとりするには厳しい大容量のため、東京と大阪のチーム間でのやりとりに航空便・バイク便を組み合わせるといったアナログな工夫も求められた。

【港湾のコンテナターミナル】

バトルシーンの舞台となる港湾のC4Dシーンファイル。原作漫画やアニメシリーズで描かれる港湾や設定資料をベースに、国内外に実在するメガターミナルをリファレンスとして作成された

完成した背景セット。アニメーション以降のショットワークを担当するN-DESIGNへ出荷された

【桜の島】


「桜の島」と名付けられた織部のゴーストが存在する深層の空間(C4Dシーンファイル)。アルノルト・ベックリンの絵画『死の島』に着想を得たという


「桜の島」シーンのプリビズより。プリビズでシーンの広さとオブジェクトを指定した後、その上にラフスケッチと写真の資料をベースに完成イメージがブレストされたという


完成した背景セット。アニメーション以降のショットワークを担当するdigidelicへ出荷された

【ルックの統一】

Khakiが作成したHDRI。IBLを用いることでMayaや3ds Maxで作成されたキャラクター素材と、KhakiがC4Dで作成した背景セットのルックの統一が図られた


キャラクターアセットはMayaベースで作成されたが、digidelicのメインツールは3ds Maxのため、V-Rayの「VRmatConverter」(docs.chaosgroup.com/display/VRAY3MAX/VRmat+Converter)を介して、Mayaで作成した質感を再現。左がMayaで作成した素子、右が3ds Maxに読み込んだもの。完全に一致とはいかないが、かなり高い水準を保っている

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<4>ショットワーク