>   >  VFXアナトミー:#重力猫『GRAVITY CAT / 重力的眩暈子猫編』PV(VFX制作:オムニバス・ジャパンほか)
#重力猫『GRAVITY CAT / 重力的眩暈子猫編』PV(VFX制作:オムニバス・ジャパンほか)

#重力猫『GRAVITY CAT / 重力的眩暈子猫編』PV(VFX制作:オムニバス・ジャパンほか)

03 3DCG & コンポジットワーク

限界に挑んだからこその格別の達成感

ワンカット長回しで撮ったかのように仕上げるにあたっては、実写素材を12カットほどに分けてつないであるという(編集点は暗転などカメラを大きく振ったタイミングで乗り換えているそうだ)。「オフライン編集はふたりのエディターさんがつないだものに対して、柳沢監督自身でも編集を施すかたちでまとめられてありました。尺調整との兼ね合いもあって、細かな可変処理も施されているのですが、トラッキングの精度を高めるために自分の方で元の撮影素材から再構成した上でOJさんにはCG・VFX作業を進めてもらいました。セット内のリファレンス写真を大量に撮っていただけましたし、フォトグラメトリーによる3D環境(トラッキングデータ)を提供してもらえたので、ワンカットに見えるようにつなぐこと自体はそこまで苦労しなかったのですが、バレ消し作業が膨大に発生したので時間との戦いでした」(佐々木氏)。バレ消し/マスク切り作業の中でも特に窓の処理が大変だったそうだが、佐々木氏と交流のある6名のFlameアーティストに協力してもらったそうだ。さらに、PC画面の差し替えや中盤に登場するトートバッグへのカラスのイラスト(ゲーム自体のキーファクターのひとつ)のプロジェクションといった演出的に重要な合成処理も随所に施されている。

3DCGによる主たるエフェクトは、中盤に登場する蛇口から出る水と、それをコップに汲んで、倒れたストーブから出た火に蒔いたときの流体エフェクト(いずれも重力が逆方向のため、天井に向かって落ちていく)と、クライマックス前の本棚から妹に向かって落ちていく数十冊もの本だ。いずれもデジタルアーティストの市川 悟氏がリードした。「流体エフェクトについては、HoudiniでシミュレーションしたものをAlembic形式でMayaに読み込みV-Rayでレンダリングしました」。シンクまわりも亀村氏がしっかりと3D環境を用意してくれたので、それを基にシミュレーション。大変助かったとのこと。「落下物については、本のほかに破片やリンゴも作成しましたが、いずれも役者さんの演技や演出面への配慮が多いためシミュレーションではなく手付けでアニメーションさせています」(市川氏)。窓抜けの背景処理については、ベランダと窓枠は3DCGで作成。さらに窓自体の汚し素材についてもCGで作成されたが、こうしたさりげない加工によって確実にリアリティを高められたという。「背景素材をショットに組み込んでみると、近景の建物と遠景の間に視差がつかないことから平面的に見えてしまいました。そこでNUKE上で、適当な位置でマスク分けして視差を加えています。また、監督からのリクエストでビルのディテールが見えるようにハイライトを追加しました」とは、窓抜けの背景表現のコンポジットワークをリードした中江昌彰氏。

姉妹と子猫が窓から外へと飛び出した後のクライマックスもやはり作業は難航した。「昨年末の段階で、合成クオリティについてはおおむねOKとなったのですが、年明け早々の納品間際の段階で、役者さんをもっと奥まで飛ばしたいという修正リクエストをいただいたのです。そこで、フォトグラメトリーデータを加工して遠方にビルのオブジェクトを追加するなど細かな調整を行いました。難易度が高く、制作中はとにかく大変でしたが、それぞれのスタッフのセンスが良く、上手くかみ合って今回の作品を仕上げることができたと思います。このメンバーと、このタイミングだったからやりとげることができたと思うのですが、毎回このレベルを求められてしまうとさすがにキツいでしょうね(笑)」(松本氏)。公開後には、柳沢監督が自身のFacebookを通じて全スタッフのクレジットを公表したことから(粋なはからいである)、CG・VFXスタッフたちにも様々な反響が届いているそうだ。「海外でも評判が良いらしく、ここまでの反響は初めてだったのでとても感慨深い作品になりました。同業の方に好評いただくのは嬉しいことですが、本作のように一般の方からの反響というのは格別のものがありますね。これからもがんばっていこうと思います」(松本氏)。


Flameによる実写素材のクリーンアップ作業の例。猫が演技をしているように見せるにはトレーナーの存在が不可欠だが、撮影プレートの随所でバレてしまっているため、OJから提供されたトラッキングデータ(FBX形式)と写真素材を用いて消し込み処理が施された。(図・左上)top ビュー(この3D空間を真上から見た状態)/(図・右上)Resultビュー(このショットの最終的な見た目)/(図・左下)カメラマップをしているaction(AEにおけるコンポジション)のスケマティックビュー/ (図・右下)このシーン全体のスケマティックビュー

クリーンアップ作業のBefore(画像左)/After(画像右)


中盤に登場する重力方向が真逆になった水の表現(蛇口から出る水、姉がコップから蒔いた水)は実写では撮れないため、Houdiniによる流体シミュレーションが用いられた。図は、FLIPで作成した水のメッシュとコリジョンオブジェクトのワイヤーフレームを表示した状態

水エフェクト合成のBefore(画像左)/After(画像右)


クライマックス直前に描かれる、ベランダへ通じる高窓の上に立った妹に向かって落ちてくる本は3DCGで対応した(演技とのインタラクションや役者の安全面を考慮)。本の手付けアニメーションに加え、パーティクルで作成したガラス片、ベランダ、窓枠をMayaで作成



  • 撮影プレート



  • 合成した最終形



ベランダ越しの背景環境のNUKEによる加工例。CG班から提供された素材のままでは、実際のカメラワークが付くとフラットに見えてしまったため、近景と遠景にマスク分けした上でそれぞれに応じた質感の調整が施された(UI中央のグリーンのワイヤーフレームは室内の3D空間)

クライマックスの背景環境の拡張について


PhotoScanから書き出した背景モデルに対して、カメラ移動によって見えてくる建物ごとにメッシュを整理。それに応じて、カメラマップしているテクスチャにも調整が施された



  • さらに目立つビルの屋上にダクト等の細かなパーツを追加。解像度が足りない建物も新規にモデリングしたものに置き換えられた



  • 窓抜け用のHDRIを加工して、シーンのライティングに利用

コンポジット作業過程を図示したもの



  • 初期の太陽入り背景



  • ビル群の質感調整を行うため、太陽なしのフラットなイメージ素材にレタッチした上で、コンポジット上でリフレクションを追加するワークフローを採用



  • 手前のビル群を切り抜き、視差をつくるために手前のビルをマッピングした外側よりも小さいスフィアをシーン内に配置



  • 太陽をなくしたことで、日陰になってしまったビルにハイライトを追加



  • ベランダのCG素材を合成。その上でカラコレ、LUTを適用



  • CG班が作成した窓に対する室内映り込み素材と汚れ素材を合成


実写プレートを合成した最終形

背景素材のブレイクダウン



  • プロジェクションマップしたHDRIをそのままレンダリングした状態(奥の街並みや空はそのまま使用)



  • PhotoScan素材を加工したビル群



  • ガラスの映り込みやライティング素材を個別に書き出し、コンポジットで調整。さらに、下手の太陽のフレアを再現



  • 元のHDRIを合成した上でLUTを当て、最終的な画角に寄せた状態



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.220(2017年4月号)
    第1特集:最新レンダラ徹底比較
    第2特集:デジタル作画 最新動向

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2017年3月10日
    ASIN:B01MSB5L7Y

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