02 黄泉の国~世界観の構築~
未知なるビジュアルに臨場感をもたせる
山崎組では、撮影可能なものはできるだけ実写を使い、VFXはそれが不可能なものに注力するというスタイルが基本となっている。それは本作でもゆるぎなく、「黄泉の国」シーンの制作においてもミニチュア造形が実写素材とCG素材をシームレスに融合させる役割を果たしている。山肌に立ち並ぶ木造家屋のミニチュアは、『ALWAYS』シリーズから改良を重ねて使い続けている6軒、新規10軒の計16軒。本編に描かれる物量に対して、その数の少なさに驚かされるが、これを積み上げ方等を変えながら巧みなモーションコントロール撮影によって豊富なバリエーションを生み出している。また、揺れものの木や洗濯物など、スケール感の出るものについてはCGやペイントオーバーで対応しているとのこと。一方、天頭鬼の玉座シーン用のミニチュア撮影では、カメラワークやレイアウトを決めてからの作業になるため、CGチームが作成したプリビズをガイドとしてミニチュア制作が行われた。ミニチュア造形&撮影は、4月後半からスタート。作業のピークは6月末で、最終的なミニチュア素材のフッテージ数は、合成用の素材含めると100カットに達したという。
黄泉の国の世界観としては、イメージボードがあるわけでもなく、武陵源などの資料と監督のスケッチを基に田口工亮3DCGアーティストが試行錯誤しながら、岩山や建物の空間要素をモデリング。ティザービジュアルを作成し、予告編作成の過程でマットやコンプにより細部や光の回り方などが詰められ、徐々に全体の世界観が固まっていった。「マットペインティングとしては、地獄の箇所はしっかりと描きましたが、それ以外は3Dや実写からのペイントオーバーが主体でしたね。カメラが大きく動くショットはフル3Dで、奥の方、松の出方、岩のレイアウトや、構図をマットの方で整える。今回ACESccを使用するということでレンジを維持した状態で作業でき、綺麗なデータのまま返せるのが非常に良かったです」と、長年にわたり山崎作品のマットペインティングを手がけている江場左知子氏(fude)はふり返る。三途の川については山崎監督から「これを渡ったら本当に現世には戻れないという印象をビジュアルで描きたい。海のような広さで」というオーダーを受け、早崎達矢シニア3DCGアーティストがBifrostで表現。川は本来凹凸があまりないが、しっかり凹凸も付けつつ、川の印象を保つために水の流れは一定方向にまとめたそうだ。水の表現では、三途の川へと流れ落ちる大瀑布も印象的だ。一連の滝表現や現世と黄泉の国を繋げるトンネル的な入口といったエフェクトは、古川泰行エフェクトアニメーターがHoudiniで作成。「シミュレーションでそこまで長くしてしまうと波頭のResが稼げないので、上半分と下半分に分けてシミュレーションしています」(古川氏)。ユニークなものでは、山崎監督がトロント国際映画祭に参加した際に、ナイアガラの滝まで遠征してiPhoneで撮影した素材もあったが、実際に合成してみると滝壺からの水飛沫や波紋が臨場感を高める上で実に効果的だったそうだ。
「黄泉の国」シーン用の家屋ミニチュアとモーションコントロール撮影の様子。ミニチュア造形は元内義則氏と佐々木利佳氏が担当。ミニチュア撮影は、細山正幸氏と菅波 純氏が手がけた
天頭鬼の屋敷内にある玉座シーン用のミニチュア。「黄泉の国」の家屋は1/24スケールで、こちらの屋敷内のミニチュアは1/6スケールで制作された
田口氏が作成した岩山のアセット。本文で解説したとおり、ミニチュア、CG、ペイントオーバーを巧みに使い分けることで情感あふれる黄泉の国が誕生した
HoudiniのFLIPによる滝シミュレーションの例。「このショットは、メインの滝のシミュレーションの結果を良くするために、シミュレーションする範囲を分割して、複数のシミュレーションをレンダリング時やコンポによって結合しました」(古川氏)
黄泉の国マスターショットの変遷をまとめたもの
完成形
真俯瞰から滝をとらえたショットのブレイクダウン