>   >  VFXアナトミー:個性豊かな魔物たち、誰も見たことがない"黄泉の国"を白組のVFXで実現! 映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』
個性豊かな魔物たち、誰も見たことがない"黄泉の国"を白組のVFXで実現! 映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』

個性豊かな魔物たち、誰も見たことがない"黄泉の国"を白組のVFXで実現! 映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』

03 個性豊かな魔物たち

フォトリアルなだけではNG、キャラクター性も両立させる

山崎監督のできるだけ多くのキャラクターを登場させたいというリクエストをふまえ、どこまでCGにするのかを検証。「服までつくるとなるとスケジュールやコスト的にも厳しくなるので、首から上をリプレイスする手法を採りました。技術的には『寄生獣』に登場する寄生獣たちの発展形。このときの経験を活用しています。実作業ではトラッキングとマスクワークがポイントになることがわかっていたのですが、『寄生獣』のときは同一フレーム内で最大2キャラだったところ、今回は最大7キャラが介在するので難易度は大幅に向上しました」と、高橋正紀3DCGディレクターはふり返る。トラッキング作業にはPFTrackを使用、マスク処理はNUKEで行われた。上述のとおり、複雑かつ細密な作業が求められたためトラッキングは最終的にほぼ全フレーム手付けで調整していくことになったそうだ。

魔物のアセット制作について。魔物本田と天頭鬼はPhotoScanによるフォトグラメトリーをベースに、前者は植木孝行シニア3DCGアーティストがリード。後者のベースは山崎監督が自ら手がけている。特殊造形を制作する段階でデザインの方向性が定まっていたこともあり、CG工程ではデザイン面での苦労は少なかったそうだ。一方、象頭鬼や豚頭鬼など、特殊造形が存在しない魔物についてはより多くの試行錯誤が求められた。これらの魔物たちのアセット制作は、田口氏が山崎監督から提示されたラフデザインをガイドにイチから造形している。「キャラクター性もしっかりと盛り込んでほしいという監督からのリクエストがあったので、フォトリアルに仕上げるだけではNGでした。その落としどころが非常に難しく、トライ&エラーを重ねました」と田口氏。そして、天頭鬼の最終形態である6つ脚 状態のアセットは、先に出来上がっていた天頭鬼モデルをベースにZBrushで詰められていった。制作過程では髭を生やしてみる、頭に角を加えてみるといった具合に、かなりの試行錯誤をくり返したそうだ。また、調布スタジオとしては初めてレンダラにAnorldを採用。ArnoldはDirect Light 、Indirect LightがAOVで分けて出せるため、コンポジットで調整が利く部分が多く、従来よりも効率的だったとか。ノイズの処理は、AOVをNUKE側(Neat VideoのReduce Noise)で除去してから合成している。これにより、どんなに重いシーンでも最大1時間を上限に定め、基本的には10分程度に収めることができたそうだ(Arnold用のレンダーサーバは約20台)。一連の取材を通じて、少数精鋭で臨機応変に、高いモチベーションをもってプロジェクトに臨み、外部パートナーを含め実に10年以上にわたって共通するスタッフたちが阿吽の呼吸で取り組んでいることが、白組 調布スタジオの原動力であることを実感した。

魔物本田の3DCGモデル



  • PhotoScanによるフォトグラメトリー



  • ZBrushによるディテーリング



  • Mayaに読み込んだ状態(メッシュ表示)



  • Arnoldによるレンダリング例

天頭鬼(平常時)3DCGモデル



  • Maya上でアニメーション用コントローラを表示させた状態



  • レンダリングイメージ。天頭鬼のアセット制作は高橋氏がリードした

田口氏がモデル制作を手がけた豚頭鬼3DCGモデル



  • Mudboxによる作業例



  • ルックデヴ途中のテストレンダリング

クライマックスに登場する6つ脚状態の天頭鬼3DCGモデル(山口拓洋氏がアセット制作をリード)



  • 最終形態のシェーディング表示



  • 同メッシュ表示


ボディセットアップ。腹部にはソフトボディも仕込まれた




  • 魔物本田のフェイシャル用モーフターゲットを図示したもの。「モデリング、セットアップ、シーン構築までCG担当者が1名のため、特にフェイシャルリグは組まずに作業しました」(植木氏)



  • アニメーション作業の例。本田と天頭鬼についてはCVを務めた堤 真一のフェイシャルキャプチャ(Facewareを利用)も収録したが、人間と魔物では造形的に異なる部分が多々あるため手付けによるブラッシュアップが必須だったという



PFTrackによるマッチムーブ作業の例。中盤に登場する、ゼズニーランド(遊園地)で売り子に扮した魔物本田のショット


右上の図と同じショットのブレイクダウン



  • SSS(Indirect ight)



  • SSS(Direct light)



  • スペキュラ(Indirect light)



  • スペキュラ(Direct light)



  • CG素材をコンポジットした状態



  • 一連の処理を施した最終形



クライマックスシーンの見せ場のひとつ。一色正和(堺 雅人)と妻の亜希子(高畑充希)が乗るタンコロを、天頭鬼がくり出した黒虫の群れが食べ尽くすエフェクトは、鈴木勝巳氏がHoudiniで作成した。「基本的にはHoudiniのvoidアルゴリズムをベースにしているのですが、さらにVEXを書いて細かな調整が行えるようにしています。タンコロの破壊表現は、ブーリアンとRBDです。Houdiniのブーリアンが強力で安定していたので良い感じに仕上げることができました」(鈴木氏)。なお、タンコロ車内のショットでは、撮影時よりも天井を広くし、車体はほぼ3DCG化。「床は実写素材を用いているのですが、CGと実写を上手く融合させることができました」(渋谷氏)



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