<2>キャラクターアセット&ショットワーク(前半パート)
各自が最もパフォーマンスを発揮できるツールを駆使する
2月のキャプチャ収録までの準備段階には、自身も3DCGを手がける神戸氏がキャラクターのデザインを起こしていた。「神戸さんにはデザインワークに注力してもらうため、普段使われているCinema 4Dで自由につくっていただき、僕の方でMayaや3ds Max用にコンバートするというながれで作業を進めました」(齊藤氏)。キャラクターデザインについては、服装などの要望レベルが高く、残り時間の都合上、だいぶ折れてもらった箇所もあったとのこと。例えば女性キャラクターFuzzableのトップスは当初スカジャンが予定されていたが、その場合揺らさないと違和感が出るため、タンクトップに変更するといった具合に、ディレクターとCGスタッフがお互い歩み寄ることで、限られた条件下でベストを追求した。背景等の世界観については、当初からややトゥーン感のあるルックが求められたそうだが、スラム街や富裕層の住む地域のルックは試行錯誤で調整していったという。「まさにアウトラインを付ける案も候補にありましたが、最終的に3DCGはフィジカルベースでレンダリングして、After Effectsで少しトゥーンの要素も感じられる仕上げにする方向で落ち着きました」と、前半パートの中心となる昼シーンの画づくりをリードした岩﨑氏。
DCCツールは参加プロダクションやアーティストによって異なったが、前半は昼シーン中心、後半は夜シーン中心とルックの方向性が明確に分けられており、分業する上では好都合だったそうだ。制作に進めるシーンが上がってきたら、求められる表現やスケジュール的な都合に応じて担当するアーティストを決めていった。DCCツール的な体制としては、エヌ・デザインやNEWPOT PICTURESはMaya+V-Ray、後半の夜シーンを担当した齊藤氏のチームは3ds Max+V-Ray、そして、神戸氏が一手に引き受けたゲームに興じる謎のキャラクター2体を描く荒野のシーンはCinema 4D+Arnoldという3つに分かれたが、シーンファイルの階層構造や命名規則をあらかじめ決めておくことで大きな問題は起こらなかったそうだ。また、リップシンクのフェイシャルアニメーションにはiOSアプリ「Face Cap」が用いられた。アップで細かい演技をする用途となると厳しいかもしれないとのことだが、ミドルショットのリップシンクとしては十分なクオリティが得られたという。
キャラクターの完成モデル
▲ Eugene
▲ Fuzzable
Eugeneのリップシンク用フェイシャルリグとセットアップ
▲ 頭部形状が反映されているのはT字モデルの右にある1点のみで、他のモデルは表情パターンとして全キャラクター共通で使用。画面右のShape EditerにはこれらBlend Shapeの一部が表示されている
▲ Mayaによるフェイシャル作業
スラム街の背景セット
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▲ 全景。左が富裕層が住む遠景、右が貧困層が住む近景のスラム街。。近景のスラム街は主人公を含む貧困層が、遠景の超高層ビルは富裕層が住んでいる設定
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▲ 近景のスラム街。周囲をスラムビルに囲まれた設定だが、密集させてしまうと太陽光が当たらず単調な画になってしまうため、カメラ外にヌケをつくり光の通り道を確保している
スラム街のディテール。増設をくり返したビル、電線、ネオン看板、道路標識などを配置し、近未来の東京を感じさせるスラム街に仕上げられた
PERIMETRONから提供されたグラフィティデータ
▲ PERIMETRONから提供されたグラフィティデータの一部。提供されたデータは300枚以上あったが、全ては使いきれないため、取捨選択して使用。PERIMETRONから使用箇所を指定されたものもあった。グラフィティの内容は、millennium paradeのファンならニヤリとしてしまうものや『攻殻機動隊』へのオマージュ、コロナ禍の時勢を反映したものなど多種多様
▲ 実際に使用したテクスチャの一部
▲ グラフィティデータを使用したカット例
▲ Mayaによるライティング作業。情報量を上げるため画角内にはできるだけ物を置き、カメラ外のキーライト方向には光をさえぎる物を置かないよう、カットごとに配置を調整した
After Effectsによるコンポジット作業
▲ Mayaから出力した3Dカメラ(赤ライン)と煙素材をAfter Effectsに読み込んだところ
▲ 3Dカメラ&煙素材とシーンの位置を合わせてコンポジット
ブレイクダウン