>   >  VFXアナトミー:高い技術力を用いてひたむきに「格好良さ」を追求したフルCGアニメーションMV、millennium parade『Fly with me』MV
高い技術力を用いてひたむきに「格好良さ」を追求したフルCGアニメーションMV、millennium parade『Fly with me』MV

高い技術力を用いてひたむきに「格好良さ」を追求したフルCGアニメーションMV、millennium parade『Fly with me』MV

<3>ショットワーク(後半パート)

ストーリーの急展開に応える精緻で繊細な演出

闇夜に包まれる後半パートの直前に、メインキャラクターのひとり、高身長で黄色のヘルメットが特徴のPopchopが破壊される。ストーリーの展開的に重要なシーンで、制作にもこだわりが出た。
本シーンのライティング&レンダリングをリードした藤原氏は次のようにふり返る。「神戸さんから、その前とはガラリと変わった印象深いシーンにしたいということで、リファレンスもいくつかもらい検討しました。全体としては、暗転した中に緑や赤いライトを置いて、カラーライティングでインパクトのある画づくりをしていこうということになりました。破壊エフェクト(目立つ背骨やベースのアセットはMaya、細かいパーツはHoudiniでシミュレーション)や最終的なライティングとレンダリングはエヌ・デザインさんにやっていただきました。佐々木さんと神戸さんのお二人ともビジョンが明確なのでとてもやりやすかったです」。

同じく藤原氏がショットワークをリードしたFuzzableのアジトシーンは、帆足タケヒコ氏(studio picapixels)がモデリング。細部までつくり込まれており、ライティングしてレンダリングするだけで良い感じになったという。ところどころに攻殻機動隊とのコラボが仕込まれ、隠しキャラのようなものも配置されている。ぜひ見つけてもらいたい。

クライマックスの夜シーンは、先述の通り齊藤氏が率いるチームが担当。オプティカルフォースから支給されたアニメーションデータでシーン制作を行なった。Tayが操る巨大な腕の表現は、ベースの手にアニメーションを付けてもらい、それをエミッタとして3ds MaxのParticle Flowでオブジェクトを配置、スピンさせるなどして動きを付けた。発光部分はマスクを出してコンポジットで処理している。レンダリングにはデジタル・ガーデンが強力な助っ人になったそうだ。「この夜シーンのレンダリングはかなりヘビーだったので、デジタル・ガーデンさんにお願いしました。納期までに完成できたのも彼らの協力があってこそでした」と齊藤氏。

さらに、本編集ではPERIMETRONが数フレーム、グラフィティなど手描きの絵を差し込み、ヒップな演出を施したりもしている。最後に川瀬氏が本プロジェクトを総括してくれた。「スケジュール的にも物量的にもしんどい面もありましたが、それを忘れさせてくれるくらい純粋にものづくりを楽しむことができました。PERIMETRONさんの熱量は相当なもので、CGチーム一丸となって期待に応えるべく全力を尽くしました。MV公開後は、SNSの反響も今までにないくらいあって、とても良い刺激になりました」。


Popchopの破壊エフェクト



  • ▲ シーンのカメラビュー。MV本編2:09、Popchopが破壊されるエフェクトはHoudiniで作成された。RBD Bullet SolverやHDA(Houdini Digital Asset)を使用し、SOPレベルで破壊シミュレーションを行なっている



  • ▲ シミュレーション開始直後、Popchopのみを斜めから見たところ



  • ▲ シミュレーション進行後の破壊の様子



  • ▲ シミュレーション開始直後、Popchopのみを正面から見たところ

▲ 破壊シミュレーションのSOPノードツリー


▲ 神戸氏のディレクションにより、この破壊シーンは背景を真っ暗にして逆光でシルエットを見せる演出にしている。神戸氏からイメージに近い洋画のカットを数種類提示され、制作に取りかかった。作業はMayaで、V-Ray Rect Lightを2灯(その内、黄土色の1灯がメインライト)、V-Ray Dome Lightを1灯使用している


Popchop破壊シーンのブレイクダウン

▲ シーンが暗転する直前に映し出されている、背景の壁面に使用したグラフィティデータ



  • ▲ キャラクター類のみのビューティ



  • ▲ アンビエントオクルージョン



  • ▲ テクスチャマッピング情報



  • ▲ クリプトマット



  • ▲ デプス



  • ▲ サーフェス法線



  • ▲ 3DCG部分の完成形



  • ▲ カラコレ等適用後の最終形


Fuzzableのアジト

▲ MV本編2:55、Fuzzableのアジトの背景セット。細部までつくり込まれている


Fuzzableのアジトのシーンのブレイクダウン

▲ レンダリング前のカメラビュー

▲ モニターグラフィックスのテクスチャ画像



  • ▲ ビューティ



  • ▲ アンビエントオクルージョン



  • ▲ テクスチャマッピング情報



  • ▲ クリプトマット



  • ▲ 3DCG部分の完成カット



  • ▲ カラコレ等適用後の最終形


Fuzzableのサングラス表現

MV本編3:42、Fuzzableのサングラス表現のブレイクダウン。「サングラス型のモニタということをわかってほしかったので、顔がぐっと近づいたあたりで砂嵐が入って、その直後に映り込みが入ったグリッチ表現の効いたロゴが出てくるようにしてもらいました。また、グリッチ表現には2進数のコード表のアニメーションを差し込んでもらっています。このロゴすらそういう電子の世界観で成り立っていて、それが混ざり合って崩壊しようとしている、ということを暗示したかったのです」と、藤原氏



  • ▲ NGとなったノイズ入りのサングラス表現



  • ▲ 神戸氏のディレクションを反映したカラコレ等適用前の完成カット



  • ▲ レンダリング前のカメラビュー



  • ▲ ビューティ



  • ▲ アンビエントオクルージョン



  • ▲ テクスチャマッピング情報



  • ▲ サングラスに表示するロゴマーク



  • ▲ デプス



  • ▲ 3DCG部分の完成カット



  • ▲ カラコレ等適用後の最終形


Tayが操る巨大な腕

警官ロボの集団が巨大な腕に変形するシーン。パーティクルのエミッタにするモデルをアニメーションさせて、MV序盤に登場した警官のローモデルを発生させている。「複数の手が絡み合って、巨大な腕になるイメージでつくりました」と、齊藤氏



  • ▲ 3DCGモデル



  • ▲ パーティクルのプレビュー


MV本編3:28、Eugeneと巨大な腕を操るTayが対峙する印象的なシーン。YouTubeのサムネールにも採用された

▲ カメラビュー

▲ 腕のみを表示


上記シーンのブレイクダウン



  • ▲ ビューティ



  • ▲ 3DCG部分の完成カット

▲ カラコレ等適用後の最終形


Eugeneの変身カット

MV本編3:56、Eugeneの変身カット。「岩﨑さんがつくられたOPとのつながりを感じさせながらちがいも出したかったので、渦巻いてるイメージを形にしました」と、齊藤氏

▲ カメラビュー

▲ シーンの全体像


Eugene変身カットのブレイクダウン



  • ▲ ビューティ



  • ▲ 3DCG部分の完成カット

▲ カラコレ等適用後の最終形



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