<2>渋谷駅前スクランブル交差点を再現する
実物大のオープンセットで交差点を再現
物語の起点となる渋谷駅前スクランブル交差点のシーンでは、ハロウィンで仮装した人々が交差点上を行き交う中で話が進行していく。実際に交差点で撮影しているようなシーンであるが、実はオープンセットで撮影したプレートと実際の渋谷の街の実写プレートを組み合わせて構築されている。スクランブル交差点のセットは千葉県長生郡にあるロングウッドステーションの駐車場に実物大のセットが組まれた。セットには、交差点から見える交番や地下鉄入口などが、リアルに再現されている。
「作品の中でもスクランブル交差点のシーンはショット数が多かったので、セットを建てて撮影することになっていたのですが、オープンセットを建てるにしても何をどのように建てたら良いのかなど、絵コンテから想定される方向を考えてプランニングしています」と道木氏は語る。プランニングの際には、マリンポストの堀尾知徳氏らがプリビズを作成してカメラワークやエキストラの配置なども検討されている。オープンセットではハロウィンのコスチュームを着たエキストラの群衆もこのオープンセットで撮影されているため大量のマスク切りの作業が発生することになった。このマスク切りの作業は橋本公行氏が中心となり、エム・ソフトのRayBridシステムやアネックスデジタルによって行われた。ある程度までは自動でキーアウトできるのだが、今回は動きの速いショットもあるため、多くは手作業でキーアウトしているという。
「マスク切りの作業は34カットくらいなのですが、ナイターの撮影で、しかも20人くらいの群衆が動いている状態で撮影されているのでとても手間のかかる作業でした。それでも背景の抜けが少なくグリーンでもブルーでもない白スクリーンで撮影してもらっていたのは、とても効率的で良かった。何を残して何を捨てるのかがわかりやすいプレートだったので助かりました」と橋本氏は語る。
スクランブル交差点のシーンのプリビズとオープンセット
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▲<1>群衆がスマホで写メを撮っているショットのプリビズ
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▲<2>109方向を向いている鈴木と比与子のプリビズ
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▲<3>オープニングタイトルの交差点の俯瞰ショットのプリビズ
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▲<4>オープンセットに建てられた渋谷駅前交番
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▲<5>交差点のスターバックス方向のセット
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▲<6>地下鉄入口のセット
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▲<7>落書きなどもリアルに再現されている
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▲<8>スクランブル交差点の横断歩道などもリアルスケールに合わせて作成されている
群衆プレートのマスク作業例。
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▲<1>オープンセットで撮影された群衆のプレート。背景に白スクリーンを建てた状態で撮影されている。群衆の全員が動いているというマスク作業がとても難しい状態のプレートだ
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▲<2>マスク作業後の群衆プレート
スクランブル交差点にクルマが進入するシーンのコンポジット例。
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▲<1>実景を撮影したプレートを組み合わせて作成された背景プレート
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▲<2>オープンセットで撮影された群衆の実写プレート
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▲<3>群衆プレートのマスク処理後の素材
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▲<4>フロントガラスの素材プレート
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▲<5>交差点に進入したクルマの中から見たショットの完成ショット。なるべく背景の地面の境界を見せないようにするなど、画面を構築しやすいようにカメラワークも工夫されている
<3>スクランブル交差点を俯瞰で表現
エキストラによる群衆
渋谷スクランブル交差点のショットの合成は、マリンポストが担当している。背景ショットに映るネオンの明減に応じて、オープンセットで撮影された群衆への照り返しなどもマッチしており、コンポジットされているとは思えないクオリティだ。とても複雑な作業が必要なコンポジットに見えるが、マリンポストの堀尾知徳氏によれば、カメラの傾きなどを調整するなど若干の補正はかけているが、ロトスコープによるマスク素材の精度が良かったことと、オープンセットで群衆を撮影する際にネオンの点滅などの影響を考えて照明をセッティングしているため、それほど手間な作業にはならなかったのだとか。
本作のVFXはインビジブル・エフェクトでは素材の撮影時から的確なプランニングを行うことで、クオリティの高いコンポジット作業が効率良くできるというインビジブル・エフェクトの好例と言える作品だ。「実写の背景だけでは表現が難しいかもしれないと思い、差し替え用の3DCGによる渋谷の背景素材なども用意していたのですが、撮影してもらった素材だけで使える背景が用意できたのでコンポジットの作業自体はとても楽でした」と道木氏は話す。
唯一3DCGによる建物などのデータを利用したのは、タイトルバックに登場する渋谷スクランブル交差点の俯瞰ショットだ。交差点には非常に多くの人々が行き交う様子が描かれているが、これら群衆はクラウドツールを使ったシミュレーションではなく、エキストラを場所ごとにまとめて分割して俯瞰でドローン撮影した素材を、コンポジットで上手く1つの画面に収めて大量の人々が行き交うハロウィンの夜のスクランブル交差点が作り出されているのだが、その群衆の周囲を囲む建物に3DCGが利用された。
タイトルバックの背景で使用している素材の構成。
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▲<1>3DCGで作成作成されたスクランブル交差点を囲む建物のデータ
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▲<2>オープンセットで撮影された群衆の中央部分用実写プレート
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▲<3>左上および交差点を渡っている人用実写プレート
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▲<4>下部用実写プレート
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▲<5>左側用実写プレート
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▲<6>全ての素材を合成して完成した背景プレート
タイトルバックでは、スクランブル交差点の俯瞰映像に無数に飛び交うトノサマバッタが合成された演出になっている。このトノサマバッタのプレートは4Dブレインが制作した。
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▲<1>遠景用バッタのローモデル
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▲<2>パーティクルオブジェクトには羽ばたいた状態のバッタのレンダリング画像が使用されている
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▲<3>羽ばたいている状態のバッタのマスク素材
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▲<4>遠景用バッタの群衆アニメーション素材
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▲<5>中景用バッタの群衆アニメーション素材
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▲<6>遠景、中景のバッタ素材にハイメッシュで作成したバッタのモデルを追加してコンポジットしたバッタのみの素材
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▲<7>背景素材にバッタの素材を合成した状態
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▲<8>建物のライティングなどを調整した完成ショット