<4>マットペイントで現実を加工する
マットペイントで廃工場を作り出す
現代劇ではあるが、作品のもつ世界観を具現化するために様々なシーンでマットペイントやコンポジットによるシーン構築がなされている。このようなVFXによるショット制作は日本映像クリエイティブが担当している。ここでは廃工場のマットペイントと、蝉の相棒である岩西が事務所から飛び降りるショットを紹介する。このような単純に背景を合成しているだけに見えるようなショットも、リアルさを求めて多くの試行錯誤が行われている。
日本映像クリエイティブの久村英徹氏によれば、この岩西の事務所のシーンでは、背景の明るさなどかなり細かく撮影監督からオーダーがあり、事務所内の照明に合わせて背景の明るさの調整を何度もリテイクしているという。また監督のオーダーの中でも難しかったのが廃工場のマットペインティングだ。「現存の工場をマットペイントで廃工場にするというオーダーだったので、それほど時間のかかる作業ではないと思っていたのですが、実は監督が廃工場マニアで現存する廃工場の写真を見ながらリアルな廃工場を目指して何度もリテイクしています」と久村氏は話す。
「監督からは築20~30年くらいの古い工場を目指してくれというオーダーだったので、錆び素材などを使って実写素材にペイントしていったのですが、チェックを受けるたびにもっと汚してほしいというオーダーがあってどんどんエスカレートしていき(笑)、最終的には廃工場というよりは廃墟に近い感じになっています」とマットペイントを担当した髙塚万理子氏は語る。完成ショットを見てもらえばわかるように、細部までつくり込まれた汚し素材によって、なんの変哲もない工場が、どこかに存在していそうなリアルな廃工場に加工されている。同時に登場する鯨のキャンピングカーの色合いと共に印象的なシーンに仕上がっている。
廃工場のマットペイント。
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▲<1>現存する工場の実写プレート
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▲<2>使用した雨だれのテクスチャ素材
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▲<3>使用した錆びのテクスチャ素材
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▲<4>実写プレートに施されたマットペイントから汚しのレイヤーだけ表示したもの
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▲<5>道路部分のマスク素材
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▲<6>猫のマスク。このシーンでは黒猫が登場するのだが、実は白猫のマスクを切って黒猫に加工されている
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▲<7>鯨のキャンピングカーの実写プレート
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▲<8>完成ショット
岩西が窓から飛び降りるショットのブレイクダウン。
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▲<1>マットペイントで作成された背景プレート
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▲<2>ブルーバックで撮影された実写プレート
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▲<3>背景合成用のマスク素材
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▲<4>完成ショット。撮影監督のチェックによって、実際に撮影したらこのような露出になるのだろうと思わせるリアルなショットになっている