<4>合戦シーンのVFX
エキストラやデジタルダブルを使った群衆表現
戦国時代を舞台にした作品では合戦シーンが付きものだが、本作でも大規模な合戦シーンが描かれている。合戦シーンの群衆にはエキストラを使った表現とデジタルダブルを使った表現が利用されている。エキストラを使った群衆表現では、ロケ現場で4回くらい群衆を分けて移動させて撮影した素材を合成するという昔ながらの手法だが、群衆の人数をこれまでになく大量に増員することになり、非常に手間のかかるショットとなったという。
旗も部分的にCGで作成して合成していたり、エキストラの人が動けないような場所ではデジタルダブルを使って埋めたりし、できるだけ現場で人などの素材を撮影して合成に使っている。素材を撮影するときも、シーンごとに両軍の戦闘状態を確認しながら、エキストラの人に動いてもらって撮影を行うなど、不足がないように慎重に撮影された。「このような群衆の表現も、ある意味インフォ・グラフィックスなんだろうなと思いました。
合戦の情勢や状況をぱっと見て理解できるように表現されていますから。テロップで説明するのではなく、映像をひと目見ただけでどちらの軍が優勢かわかるような画づくりを監督は望まれました。インフォ・グラフィックスと同じで画を使って情報を伝える松山監督らしい表現だなと思います」と赤羽氏は語る。そのほかにもこの合戦のシーンでは、鉄砲隊の発砲などのエフェクトも合成されているが、このような発砲も現場で実際に空砲を発砲している状態を撮影し利用しているのだという。
エキストラを使って群衆を増やしている例
▲<1>個別に撮影されたグループの実写素材を合成して作成した軍勢素材
▲<2>ベースとなる実写プレート
▲<3>実写素材を合成して作成した相手の軍勢素材
▲<4>地形などを変形して作成した実写プレート
▲<5>全ての素材を合成した完成ショット
デジタルダブルを利用した例
▲<1>エキストラを撮影した実写プレート
▲<2>デジタルダブルを合成するために作成されたマスク素材
▲<3>一番奥を隠すためのデジタルダブル素材
▲<4>両脇を埋めるためのデジタルダブル素材
▲<5>全てを合成した完成ショット
<5>炎上シーンのVFX
撮影された炎をVFXで拡張する
最後に紹介するのが炎上シーンのメイキングだ。炎が上がるようなシーンの場合、最近ではスタジオセットや安全上の都合から、大部分の炎をCG素材で合成して表現している作品も多いが、本作では大規模なセットを建築し実際にセットを燃やして撮影されている。その燃えているショットに、さらにVFXで炎を足していき、臨場感や緊迫感を際立たせているのだ。ショット制作を担当した斎藤大輔氏によれば炎の増量感は2.5倍ぐらいだという。右に掲載したのは、焼き討ちされた村と若き日の信長、本能寺の3つのショットだ。
「本能寺のシーンは5日かけて撮影されています。最終日にはセットを丸ごと燃やしてしまうのですが、それまでは逆に燃えすぎないように制御可能な発火装置を使って特殊効果の火を出したり、防火処理を施した壁や柱に少し布を垂らして部分的に燃えるようにしました。また、安全面を考慮して役者のすぐ近くや天井には炎を置くことができないので、それら撮影現場で仕込むことが難しい部分を中心に合成で炎を足しています」と西尾氏は話す。
これだけ炎が多いと、役者に対して炎の照り返しが起こるが、その照り返しなどを後から加工するのはとても手間がかかる作業となるため、なるべく現場の照明などを使って撮影されているという。発生する煙などもなるべく現場で焚いてもらって撮影してもらった上で、煙素材を足して拡張している。合成に利用している炎や煙の素材は、ライブラリなどのフッテージを利用し、トラッキングを駆使して合成されているとのこと。
燃えさかる村のショット
▲<1>実写プレート
▲<2>遠景用の炎素材
▲<3>中景用の炎素材
▲<4>一番手前に合成される煙素材
▲<5>飛び散る火の粉の素材
▲<6>全てを合成した完成ショット
炎の中にたたずむ信長のショット
▲<1>実写プレート
▲<2>信長の背景用炎素材
▲<3>煙素材
▲<4>火の粉の素材
▲<5>カメラ前の炎素材
▲<6>全てを合成した完成ショット
火が放たれる本能寺のショット
▲<1>実写プレート
▲<2>火がついた矢の素材
▲<3>壁に追加する炎素材
▲<4>全てが合成された完成ショット
TEXT_大河原浩一(ビットプランクス) / Hirokazu Okawara(Bit Pranks)
PHOTO_弘田 充 ./ Mitsuru Hirota
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©石井あゆみ、小学館 ©2016フジテレビジョン 小学館 東宝 FNS23社
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