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きゃりーぱみゅぱみゅ『最&高』MV(VFX制作:十十ほか)

きゃりーぱみゅぱみゅ『最&高』MV(VFX制作:十十ほか)

Houdiniによるショットワーク

MVにおけるキャラクターアニメーションをHoudiniで作成したねらい

先述のとおり3DCGワークにはMaya、3ds Max、Houdiniが適材適所に使われている。使用ツールのラインナップとしては昨今では珍しい組み合わせでもないが、特筆すべきは、ショット単位でツールが分担されている点だ。すなわち、HoudiniもMayaや3ds Maxと同様「ショットワーク用のツール」としてフローの中核に据えられているのである。「実作業2週間の案件でこれだけHoudiniをガッツリ使ったのは、かなりロックだなと僕ら自身が思っています」(尹氏)。そんなHoudiniワークの水先案内人となったのが、Houdini歴15年以上というTD兼プログラマーとして活躍する床井 悟氏と、Houdiniチームの若手として活躍する柳生大志氏だ。プロシージャルなCG制作を大きな特徴とするHoudiniだが、今回は物量のあるダンスシーンなどがその特性と合致した。「例えば、KPPさんを中心に円陣を組んで踊る(動き回る)といったショットであれば、円の径・人数・配色・踊りのテンポなど監督から調整が入りそうな箇所に、どんなリクエストを受けても対応できるようプロシージャルにアセットを構築しておいて、それを使ってレイアウトを一緒に決めていくことで、スケジュールとクオリティを両立することができました」(柳生氏)。筆者の私見だが、ショット内の一部の要素等ではなくショットワークそのものに用いた点、かつMVという、ひときわスピード感が求められる案件における導入事例というのは業界へのインパクトが大きいと思う。「原点となる要素に手を加えても、破綻せずに末端まで変更が反映できるというのがHoudiniの強みのひとつだと思います。アセットを蓄積さえしておけば、調整次第で柔軟に必要な結果を引き出すことができます。今回大々的に使ってみて、スピード感を求められる制作にこそ、むしろ向いているのではないかという思いを強めました」(床井氏)。

大量のキャラクターが登場するシーンでも、複雑なモデルを1プリミティブとして扱う「Pack Object」により、Houdiniのシーンは軽いままに保つことができたそうだ。Houdiniにおけるもうひとつのメイントピックが、年始に正式リリースされたばかりの「Octane Render for Houdini」で全てのレンダリングを行なったことだと、尹氏は語る。「海外でも事例が少ない中で導入したのですが、特に設定などを調整せずとも、HDRIでの環境撮りがちゃんとできていれば雰囲気のある画を出してくれました。レンダーパスもアーティスト的に『こういうのが必要だよね』といったかゆいところに手が届くパスがあらかじめ用意されていたので、気になるものには多目にチェックを入れておき、いらなければ切るという感じで気軽に使えました」。ネックは計算力が完全にGPUに依存する点で、基本的にはひとつジョブを投げたらそれに専念させる必要がある(並行してジョブを投げると順当に計算が遅くなる)。これに対応するため、レンダリングが済んだら順序良く次のジョブが走るようなしくみを床井氏が構築、Backburner経由でレンダリングがか けられるようにして対応したそうだ。「(床井氏に対して)このしくみ、売れるんじゃないですか?」(尹氏)。「うーん......Deadlineを購入した方が良いと思います(笑)」(床井氏)。


ロケハン時に舞台となるであろう場所を全方向から複数枚写真を撮っておき、その素材と美術部が作成した図面を基に撮影前に舞台を3D化させたという。このモデルを全ショットで共有して利用することで、それぞれのステージごとのセットアップをスムーズに進めることができたそうだ



事実上、本制作に割り当てられたのは約2週間という非常にタイトなスケジュールの下で制作された本プロジェクト。チェックバックのタイムロスを減らすのと同時にステージ上でもカットごとに美味しいレイアウトを作る必要もあった。「そこで、田中監督に十十にお越しいただき、一緒にPC画面を見ながらその場でレイアウトを調整していけるようなしくみをHoudiniで構築しました」(尹氏)。具体的には、各キャラクターをPackした後、レイアウトしたPointに対してCopy SOPを使って配置したという



バレ消し作業もHoudiniで行うことで効率化が図られた。図は、本番素材と空舞台をそれぞれマッチムーブして、それらのカメラを読み込んだ状態。「ツールとしては特に開発していませんが、空舞台の素材を本番の素材に合わせるのにHoudiniのSOP、CHOP、COPを使って作業しています」(床井氏)


空舞台のカメラ位置を本番素材のカメラ位置に近づくように、CHOPを使ってアニメーションをストレッチさせている


ストレッチしたカメラから床面に対して素材をカメラマップし、本番のカメラから見た状態。カメラマップしている素材もCOPで同じようにストレッチしていることがわかる


Houdiniシーンのキャラクターたちのルックデヴ。シンプルなノード構成で割とさらっと良い質感がでることに加えて、IPRのレスポンスがとても速いので質感の調整が効率的に行えたという



Octane for Houdiniは現状pack primitiveに対応していないので、最終的にレンダリングするジオメトリはunpackする必要があったそうだが、Network Renderingを使って複数台のGPUを利用することで、1フレームあたり1~2分でレンダリングをすることができたとのこと


HoudiniからネットワークレンダリングするためのBackburnerにジョブを投げるツール。ifdの書き出しも同時にジョブとして投げられるので、Mayaや3ds Maxと同じ感覚でネットワークレンダリングが可能になった

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03 コンポジットワーク

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