02 セットアップ&アニメーション
生身の役者のニュアンスをロボットの動きに込めるオフライン編集後にスタジオイブキ(アニマロイド)にて、モーションキャプチャ(以下、MOCAP)を実施。収録の際は、イブキが独自に開発したシステムを用いることで、役者の演技だけでなく、カメラワークもオフラインのそれに近づけたという。ヴァーチャルカメラほどの精度でないとのことだが、その場で完成時の雰囲気が確認できるのでスムーズに収録が行えたそうだ。L.U.C.K.Yのリグについては、MOCAPを使用するためMotionBuilder(以下、MB)とMayaで共有できるものを構築。HumanIKをベースにしたそうだが、デフォルトのままではロボット特有の二重関節等の複雑な関節が扱えないため、ベクトル演算を用いて独自にカスタマイズする必要もあったという。「以前からロボットにMOCAPのデータが流せるリグ構造を研究していたのですが、今回実用することができて嬉しかったですね。MOCAPのタイミングではモデルが未完成の状態でリギングしなければならなかったのでモデルの変更や修正に対応できるよう、そのときに定めた命名規則に応じて後からパーツを差し替えるためのツールも作成しました」とは、リギングと約 20カットのアニメーションを一手に引き受けたという宮田祐樹アニメーションスーパーバイザー。キャラクターアニメーションを付ける上ではロボットらしい直線的な動きのニュアンスは特には意識していないとのこと。それよりは、MOCAPに込められた生身の役者の中年男性らしい仕草やポージングを活かすことを心がけ、猫背などを強調することで人間味が演出された。「工場スタッフと挨拶を交わすシーンがあるのですが、MOCAPのままではオフラインと同じ位置に来ないのでモデル自体の位置を調整させました。接地が見えていないからこそ成せる技ですね」(宮田氏)。なお、終盤に登場する数十体ものドローン群が飛び回るアニメーションは、全体の動きをパーティクルで制御しつつ、腕の揺れなどの細かな表現を手付けで作成しているとのこと。
フェイシャルリグについては、油圧シリンダーなどはボーンをセットしaimConstraintコマンドでパイプ同士をルックアットさせることで自動で伸縮させたという。特に苦労したのは、瞬きの表現。瞼のシャッターと目(レンズ)の挙動が複雑に絡み合ったギミックのため、MBとMayaで同じリグを構築するのに苦心したそうだ。「ギミックが多い方がロボットを魅力的に見せることができるし瞼や瞳孔の表現で可愛さや人間味が増すんです。表情に関しては山家氏と細部までデザインを追求しました」(安田監督)。口を表現したバーの動きについては、役者のセリフを聞きながら目立つ音に合わせ動 きを加えセリフの抑揚や話し始めの音を注意深く拾うことで表情を作り上げていったという。
Maya上のボディリグ
骨構造を示したもの。HumanIKのボディ用の骨(左)と、二重関節やシリンダーなどの骨とフェイシャルコントローラ(右)
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腕の自動回転のセットアップ。デフォルトポーズ(上)と、モーキャプが流し込まれた際の稼働イメージ(下)。回転値の分解にはベクトル演算を使用
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シリンダーの伸縮のセットアップ。伸びる部分に骨を通した後、aimConstraintsでお互いを見るように仕込まれた
まぶたのギミックを示したもの。通常状態(左)から、目のレンズが引っ込みつつ上下からシャッターが出て(中)、シャッターが90度回転し閉じる(右)、というしくみ。まぶたと目のレンズは、ドリブンキーで制御されている
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スタジオイブキで行われたMOCAP収録の様子。イブキが独自に開発したシステム(図・左上)により、演者の動きに合わせてCGキャラクターのアニメーションとカメラワークがリアルタイムで再現される
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本カットの完成形
フェイシャルアニメーションの例。MBで作業後、Mayaにてプレイブラストを連番で書き出し、After Effects上でオフライン編集に重ねて、役者の演技のエッセンスが着実に反映されているか確認したという
完成したフェイシャル表現の例
Maya上のアニメーションとしての完成形。名札の揺れをシミュレーションし、パイプ等食い込み修正等を施す
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パーティクルでインスタンスされたドローン群。パーティクルフローを用いているが、キャッシュを取る際にネットワークレンダリングを考慮して、nParticleに変換している
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パーティクルフロー用カーブと、ドローンのアップベクター用のカーブの画像。パーティクルを発生させているカーブ(白)と、傾き制御用のカーブ(緑)。インスタンスのアップベクターをカーブを用いて計算している
本カットの完成形