03 コンポジット&グレーディング
カットやシーンのつながりを意識することの重要性グレーディング作業は、スクリーンによるデジタルカラーグレーディングが可能なIMAGICAの「Hokusai」(北斎)を利用。「三池組のルックは実写だけど劇画っぽさもあるんです。現在はデジタルシネマですが、グレーディングの際はフィルムのテイストを加えたりと、世界観の中で成立するのか違和感になるのか、試行錯誤しながら三池作品特有の個性を込めることを心がけています」とは、山下哲司氏カラーグレーダー。
透明度があり、オーラ的な光沢表現を併せもつスタンドという3DCGキャラクターと、実写プレートを自然な見た目で共存するビジュアルを創り出す上でもシーンリニアワークフローが有効だったという。「結果的に、質感の馴染みに関する色調整はほとんど行わずに済みました。北 信康撮影監督と渡部 嘉照明監督が創り出す画が、実写プレートの時点で格好良いんですよ。屋内シーンであれば窓から差し込む光などは、VFXを加える上では必ずしも好都合ではありませんが、そうした場合もシーンリニアは色情報を損なわないので助かりました」(太田垣氏)。一連のコンポジットワークは、高橋 護リードコンポジターと中野悟郎リードコンポジターを中心にOLMデジタル内では7名で分業。虹村形兆(岡田将生)のスタンド「バッド・カンパニー」は、体長8cmほどの兵隊たちから成る軍隊で構成されるのだが、「小さなサイズのキャラクターのため、クローズドショットではディテール不足に見えてしまうことがありました。そんなときはエフェクト班から提供されたホコリのCG素材や実写のアーカイブ素材を加えることで対応しました。また、バッド・カンパニーのアクション表現には、マズルフラッシュ、着弾、曳光弾などのエフェクトが膨大に求められたのですが、そうした表現にはNUKEのパーティクル機能を重宝しました」(高橋氏)。そのほかにもミリタリーアクション特有の臨場感を高めるべく、手持ちカメラで撮影したような画ブレや偶発的なズーム、パンなどをコンポジット作業で積極的に加えていったという。「ショット単位ではなく、前後するショットとのつながり、シーンや作品全体としてクオリティを管理することが重要です。OLMデジタルでは、NUKE STUDIOを利用して、必ず一連の動きの中でチェックするようにしています」(太田垣氏)。VFX工程でもフレーム単位で編集点を調整しているのだとか。
最後に今後の展望を聞いた。「フィルタなしで撮影したプレートを用いて、完全なシーンリニアワークフローで制作してみたいです。VFXが介在するショットについては現在もフィルタなしで撮ってもらっているのですが、フィルタを用いた非合成ショットとの一体感についてはどうしても追い込みきれないという課題があるんです。撮影監督の理解と協力が不可欠ですが、今ではフィルタ特有の表現とほぼ同等のものをポストプロセスで作成できるようにもなっているので、ぜひチャレンジしたいですね」(太田垣氏)。
Flameによるトラッキング作業例。Planar Trackerを用いて、血素材を貼り付けている。OLMデジタルでは、トラッキングやロトスコープといったベース処理についても各ショットを担当するコンポジターが一括して手がける方針を採っているそうだ
Baselightによるプリグレーディング作業の例。クレイジー・ダイヤモンドが初めて登場するという、このショットが作品全体のルックやスタンドの実在感(ビジュアル的な落としどころ)の指針となった
FilmLightが提供しているプラグインを使い、BaselightのグレーディングデータをNUKEに読み込んだ例。BLGというノードに一連のグレーディング作業情報が含まれている。これにより、従来よりも効率的にグレーディング作業と並行してVFXワークを進めることが可能になった
本ショットのブレイクダウン
後半の見せ場となる、クレイジー・ダイヤモンド対バッド・カンパニーのバトルシーンより
当該ショットのNUKE作業UI
パーティクル機能で作成した曳光弾エフェクト
バッド・カンパニー(兵士)のAOVを展開したノードツリー