02 モデリング&アニメーション
下流工程オリエンテッドのアセット&アニメーション制作モデリングに関しては、田中健大リードモデラーを中心に3~4名で担当。PPIから支給された圭のIBMモデルをベースとして、それを実写VFX用にブラッシュアップしつつ、本作に登場する4体のIBMが作成された。圭のIBMを全高185cmとして作成した上で、残りの3体は肩の高さを揃えるかたちでディテールやプロポーションを調整。また、実在感を高める施策のひとつとして、各IBMたちにキーカラーが込められた。4キャラとも純粋な黒ではどうしても見た目的に違和感が残る。同じショット、シーン内でIBMたちを描き分ける上でも英断と言えよう。撮影現場でのリファレンス収集については、マッチムーブ担当の星野直哉氏が一手に引き受けた。各シーンやショットごとにリファレンスデータやロケ現場の写真をしっかりと収集。ユニークなものでは、序盤の見せ場となる亜人研究所の地下施設のシーンでは、パノラマカメラを使用し360°動画も記録された。VRモードを利用すればロケ現場での計測作業からもれた場所の形状が後からでも確認できるのでモデリングや環境作成の際、重宝したそうだ。「360度動画はフルCGショットを制作する上で役立ちましたね。マッチムーブについては、約180ショットをPF-Trackで、2、3カットをboujouと手付けで作業しました」(星野氏)。アニメーション作業は、稲村忠憲リードアニメーターを中心とする3名が担当。完成した映像を観ると非常に多彩な動きが登場するが、アニメーターとしてはトリッキーな手法は避けるように心がけたという。「Houdiniによるエフェクト表現を筆頭に、その他の工程で複雑な処理が求められていたのでアニメーション工程については可能な限りシンプルにまとめるようにしました」(稲村氏)。そうした中、ひとつ特別な対応が求められたのが、可変やハイスピードの表現が求められるショットは、ハイレート(=実写プレートのコマ数)で動きを仕上げることであった。その理由は、やはりエフェクト表現のため。「IBMのエフェクトはシミュレーションも含まれるため、キャラクターアニメーションのデータが可変された状態だとコマ飛びして見えてしまう恐れや、その都度タイムスケールにキーを打たなければなりません。また、IBMに漂う粒子表現についてはシミュレーション開始からのりしろを確保する必要があったので、アニメーターにはその分余計に動きを付けてもらう必要もありました」(若杉氏)。「つまり、スローモーションの状態で動きを付けるわけですが、その動きを確認するためには、3ds Maxから連番を書き出し、NUKEで可変をかける必要がありました。3ds Max上ですぐにプレビューできないもどかしさはありましたが、最終的にはコツをつかむことができました」(稲村氏)。そうした苦労の甲斐もあって、試写を観た人からは「アニメ版以上にアニメーションしている」という感想も聞かれたそうだ。
全IBMのベースとなった圭のIBMボディリグ。各レイヤーの役割は次の通り、(赤)キーを打ってアニメーション可能なもの/(青)リグに必要なものだが、直接アニメーションキーを打つことはできないもの/(緑)モデル、ジオメトリ。特段、新規にUIを作成するのではなく、Bipedのセレクター(Bipedsel)以外はシンプルなものを目指したという
関節の捻じれ用ツイストヘルパーを表示させた状態
腕をストレッチさせた例。腕や脚に仕込んだコントローラを移動させると伸縮するしくみになっている
IBMのボディリグは基本的には同じ仕様だが、田中のみ噛みつかせたいというアクション部のリクエストを受けて口の開閉リグが追加された
極端に大きく開かせたい場合は「IBM_TNK_upper_jaw_Bone」を回転させることで上顎も開かせることができる(通常は使わない)
ストレッチリグのテストムービーより
レンダリング中のスクリーンショット
シェーダツリー。Mantraをレンダラに採用していたことから、各アトリビュートを自由に引っ張って質感に反映させていたという
キャラクターからプロップ、背景セットまで様々なモデルが作成されたが、各モデルのルックデヴをHoudiniで行なったことも本プロジェクトの特色となった。図は切断された佐藤の左腕モデルのルックデヴ作業の例。浮き上がる血管まで精巧に形作られた上で、フォトリアルな質感が施されていることがわかる
序盤の見せ場となる厚生労働省管轄の亜人研究センター地下シーン。圭が初めてIBMを出現させて、佐藤のIBMと激しいバトルをくり広げる舞台となるが、一連の撮影に立ち会った星野氏が各種リファレンスデータを基に、精密なマッチムーブを施した。(上段)PF-Track 2017によるカメラトラッキング作業の例/(下段)フルCGショット用に作成されたモデルデータに対して、Softimageを使いカメラの位置合わせを行う作業の例
完成した3DCG空間
3DCG空間を用いたフルCGショットを織り交ぜることで迫力のバトルシーンが実現した