03 ショットワーク
各工程でしか成し得ない"創作"に注力する先述のとおり、IBMのエフェクト表現のR&Dはプリプロ段階から入念に進められた。「当初は一連の表現をアセットに組み込もうと、シミュレーションベースで構築することも考えたのですが、IBMのジオメトリが重すぎたのでSOPで対応することにしました。チーム内で包帯状に巻かれた形状を『コイル状態』と呼んでいたのですが、PPIさんにご提供いただいたデータ自体が、素体をくり抜くかたちで表現する仕様になっていたのでコイルのアニメーションを作成するにあたって、まず包帯に"芯"を作成するかたちで対応しました」(若杉氏)。つまりコイル形状をギュッと圧縮させて一箇所に集めて"芯"を作成、それをいったんキャッシュとして配置しておき、素体の方にCd情報をペイント。それが様々なエフェクト作成のトリガーとなるように設定したわけだ。エフェクトの動きを付ける際は、芯になるポイントをノイズアニメーションさせたり、消したり、芯に対してメッシュ(コイル)をアタッチ。このしくみにより、意図した場所から出現、消失させることが可能になった。この手法は、佐藤の腕の再生など、様々なバリエーションを創り出すことにもなった(後述)。「できるだけ漫画の表現に近づけよう、原作漫画ファンの方にも納得してもらえるものをつくりたいという一心でした」という、若杉氏の情熱の賜物である。
そして、コンポジットワーク。実作業については、OJ赤坂ビデオセンターを拠点とする荻島VFXスーパーバイザー直轄のコンポジットチームがリードしたが、複雑な3DCG素材を整理し、コンポジットデータの仕様を固める必要があった。その役割を担ったのが、稲垣充育コンポジター(フリーランス)である。「アニメーションデータを3ds MaxからHoudiniに書き出し、Mantraでレンダリングするというのは初めてのワークフローでした。また、エフェクト表現用の素材も多くあったので、できるだけ3DCG工程に戻らずにコンポジット側で質感を追い込めるように、そのためにはどのようなレンダーパスが有効かといったことを考えながら作業を進めていきました」と、稲垣氏。「最終的なクオリティの追い込みは、やはりコンポジット工程が決め手になります」と、侭田日吉CGプロデューサーが語るように、3DCG工程では、3DCGでしか不可能な作業に注力し、全体的な画づくりはコンポジットワークにできるだけ集約させるという戦略が功を奏した。
「COIL」と名付けられたIBMの形状を包帯化させるツール。アニメーションを読み込み、素体と包帯をキャッシュ化。「IBM_DUST_GENERATOR」(後述)にキャッシュを渡す
3ds Maxから書き出したアニメーションのAlembicを読み込み、包帯化するツールのUI
「COIL_SPFX」と名付けられた、IBMの出現/消滅、包帯が解ける表現用のツール
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ペイント情報を基にポイントをアニメーション
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元の包帯のキャッシュをPointDeformノードでアタッチ。以上の工程を経て、解けた包帯とペイントした素体をキャッシュ化したデータを「IBM_DUST_GENERATOR」に渡している
完成CUTの例
「IBM_DUST_GENERATOR」と名付けられた、粒状表現を制御するためのツール
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デジタルアセット。包帯状態になったIBMのabcを読み込むことによってオートマチックに粒子のシミュレーションキャッシュをとる
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このデジタルアセットの中でシミュレーション、ライティング、シェーディングを完結している。この一式を作業者が取りまわすことによってクオリティを各カットで保つようにされた
制御例。2体のIBMが介在する場合は、速度と、ぶつかった箇所を検出し、衝突粒子をプロシージャルに発生させている
包帯エフェクトの応用として、佐藤の腕が再生する表現が挙げられる
ペイント情報を基に、指先や包帯からエミッタを作成
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シミュレーションした粒子。多めに発生させた上で、SHOPネットワークでageやlifeなどで量や密度を調整する
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レンダリングしたFX素材。Cdをペイントした情報を基に、手の解けるアニメーション、内部の結晶作成、粒子のエミッタ作成、そしてシミュレーションをプロシージャルに行なっている
完成CUTの例
IBMのレンダーパス(AOV)